あー、どうしよう。
いきなり道は二つに分かれてしまった。
困った。
地図なんてもっていない。
片方は真っ赤な道。
もう一方は普通の砂利道。
腕を組んで突っ立っていると、頭上から声がした。
それは木の上からだった。
「きゃvvきゃvv」
「わー、わー」
なんだあれ?
見上げた先にいたのは、二人の道化師だった。
一人は真っ青。もう一人は真っ赤な色をしている。
仮面をつけてはいるが、青は男性で、赤は女性のようだ。
二人はひょいっと木から飛び降りる。
軽々と地面に着地すると、右手を左の胸に当てて丁寧に頭を下げた。
「お初にお目にかかります、ハートの初々しきアリス。
我らが名はクレイヂィ・クラウン。
青はクラウン。赤はピエロとお呼びくださいましッシッシ」
はーと? ありす? なんのこと??
動揺している私たちを無視して、二人の道化師は話を続ける。
「その様子、迷っているもよう。お教えしましょう。そうしましょう。
真っ赤な道は、とらわれ奇人の牢獄へ。
荒れた砂利道は、朽ちゆく姫のお城へ。
さあ、さあ、お行きなさい。姫はお待ちだ。姫はお待ちだ」
「砂利道へ行けばいいんですよね?」
「はい、そうですとも。ですとも」
「どうして私たちにそんなことを教えてくれるんですか?」
「それは貴女がアリスだからですよ♪
先日のアリスはひどかった。あの子憎たらしい小娘め。
先々日のアリスもひどかった。あの狂いきった変質者め。
先々せん日のアリスもひどかった。あの酔い潰れた奇人め。
今度はもっと楽しめるはず。もっともっとおもしろいはず」
二人の道化師は、真反対の動きをしながら、再び木の上に飛び乗った。
その動きからすぐにわかる。彼らは人間じゃない。
無機質な仮面は「ニシシ」と笑いながら、お辞儀をした。
「それでは失礼♪しつれい♪」
二つの影は暗い森の闇へと消えていってしまった。
その様子はまるで子どもだ。
おもしろいことを見つけたときのように、無邪気にはしゃいでいる。
そんなイメージしか浮かばない。
私たちは言われたとおり、砂利道を選んだ。
すると、すぐに城が見えた。城門へ着くと、勝手に門が開く。
まるで誰かに見られているみたいだ。
けれど、使用人らしい人影は一人も見あたらなかった。
それどころか、城には人の気配さえしない。
階段を上り、上へ上へ向かうと、突き当たりに大きな部屋を見つけた。
重い扉を開けて中に入ると、そこには緑色のツインテールをした子がいた。
それ以外、誰も見あたらない。
「ようこそ」
落ち着いた声の子だった。
「貴女がハートのアリスね。私はクローバーのアリスなんだよ♪」
「ねぇ、教えて欲しいの。アリスってなに? ハートってなに?」
目を丸くする彼女。突然笑い出すし、もうなんのことだか…さっぱり。
「あはは、もう、びっくりした! じゃあ、教えてあげなきゃね♪
アリスっていうのは、この世界に迷い込んじゃった子のことを言うの。
ハートっていうのは、アリスのシンボルマークみたいなものでね、
私はクローバー。その前の人はダイヤ。その前の前の人はスペード。
そんな感じで、順番につけられていくの」
ふと、手の甲を見ると、いつの間にかハートのマークが描かれていた。
こすっても掻いても、とれそうにない。
「じゃあ、あなたも、書き手なの?」
「うん」
きれいなドレスに王冠をつけた彼女は、
スキップしながら雪子の目の前まで駆け寄る。
ドレスをたくし上げて、頭を下げて笑った。
「私の名前は初音ミク。この世界で「女王」をしているの」
「…どうして?」
「え?」
「書き手なら、どうしてこんなことをしているの?
悲劇を書き換えて、みんなを助けてあげようとしないの!?
なんで、こんな…夢の住人みたいに……」
「――《人柱アリス》」
ミクの笑顔が黒くなる。
その目はあざけるように、私を見下す。
「貴女も知ってるよね? この曲のこと」
知っている。すごく人気のある曲だ。
パズルのピースがはまるように、足りていないものが全てはめ込まれた。
そんな感覚が、私を包み込む。
……どうして今まで思い出せなかったんだろう。
「先輩として、いいヒントを教えてあげるね。
この世界の悲劇はね、――この曲の運命なんだよ。
知ってるよね? 歌詞」
覚えている。
スペードのアリスは、森の奥に閉じこめられる。
ダイヤのアリスは、撃ち殺される。
クローバーのアリスは、国の頂点に君臨する。
ハートのアリスは――、
「目が、さめ、ない、の…?」
「そういうことだよ。貴女に回避できるかな? あははは!」
私はミクの手を掴んだ。
ミクは目を丸くして、こちらを凝視する。
「早く逃げよう! 体が朽ちる前に、この夢から!」
ミクは笑った。可憐な笑みだった。
「どうして? 私は望んでここにいるんだよ?
この世界なら、私は自由なんだよ? どうせ、現実に戻ったって同じ。
ベッドの中で意識不明のまま眠り続けるだけ!!
それなら、どうせ朽ちるなら、私はここに居続ける。
私の夢の邪魔はさせないッ!!!!」
ドンッ。
ミクは雪子を突き飛ばした。
そのとき、ハッキリと見えた。
髪で隠れていてわからなかったけれど、そこには真っ黒な入れ墨があった。
イバラの入れ墨が、ミクの顔を浸食していた。
「ねえ、どうしてスペードのアリスは閉じこめられてるか知ってる?」
彼女の笑みは、可憐なのに怖い。
もうその目は正気を保ってはいなかった。
「私が閉じこめたんだよ♪ねえ、勘違いしちゃ駄目だよ?
クローバーのアリスちゃん。私は貴女の敵だよ?」
灰猫が雪子とミクの間に立つ。
スッと手を出し、私をかばいながら言った。
「もうとっくに狂ってたんだ。行きましょう、雪子さん。
残っているアリスだけでも、助けに」
その言葉を発した瞬間、ミクは顔を覆って泣き叫んだ。
身を裂くような断末魔。どうして泣き叫んだのか?
その意味が理解できなくて、パニックになってしまった私は
飛ぶようにして来た道へ走った。
灰猫もそれに続いた。
帯人も、同じように雪子の背を追おうとしたとき、
「ねえ、貴方」
あれだけ泣き叫んでいたミクは、意外にも冷静な口調で言う。
帯人は振り返ってうずくまる彼女を見た。
指の隙間から、爛々と輝く眼孔が覗く。
口元が歪んだ。
「―――You like her. (貴方は彼女のことが好き)
However, does she like you?(しかし、彼女はどうかしら?)」
帯人の肩がビクッと震えた。
「あらあらどうしたの? 顔が真っ青よ?」
ミクは高らかに声を上げて笑う。
愉快な生き物を見て満足しているようだ。
帯人はすぐに雪子の背を追った。
種は、浅く。
根は、深く。
最後には、真っ赤な薔薇を咲かしてくれる。
きっとそんな花になる。
ミクは笑った。
優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第09話「クローバーのアリス」
【登場人物】
増田雪子
帯人のマスター
《黄色いハートのアリス》
帯人
雪子のボーカロイド
灰猫
「僕は灰猫」に登場する灰猫さん
この世界を案内してくれる人
クレイヂィ・クラウン
青いほうが、クラウン
赤いほうが、ピエロ
楽しいことが大好きな道化師
初音ミク
現実世界では意識不明の状態
この世界に巻き込まれて、狂気に落ちてしまった子
ひとりぼっちのお城の中で暮らしている
《緑のクローバーのアリス》
鏡音リン
現実世界では意識不明
この世界に一番最初に迷い込み、世界を作り上げていった
自分自身も狂気に落ちてしまい人に襲いかかる
鏡音レン
意識不明のリンの看病をしている
発狂した彼女をひとりぼっちにさせないように、
いつも付き添っている
発狂したリンは決してレンを殺そうとはしない
【コメント】
〆切に間に合ったぁ……正直、疲れました^^;
まだやらなきゃいけないことがあるので、更新遅れたらごめんなさい。
書けるときに書きだめしておきます。
あ、どうでもいい話ですが。
○○日記を読みましたー♪
由乃ちゃん怖い!!(( ̄皿 ̄;)))ガクブル
ヤンデレの真髄を直視した気がしますww
その影響もあり、これから帯人君は「極ヤンデレ」傾向に走るかも
しれません^^
まあ、グロくならないようにがんばります!!
【曲紹介】
クレイヂィ・クラウン
ニコニコ動画↓
http://www.nicovideo.jp/watch/sm5016116
ピアプロ↓
http://piapro.jp/content/ca25xcjw2326dgnv
人柱アリス
ニコニコ動画(本家)↓
http://www.nicovideo.jp/watch/sm3143714
ニコニコ動画(参考にしているPV)↓
http://www.nicovideo.jp/watch/sm5483070
歪Pは密かにピアプロにもいるそうです。
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ご意見・ご感想
まにょ
ご意見・ご感想
こんばんは~!!
待ってました!アイクルさんの作品!
それにしてもどんどん曲が出てきますね(゜д゜)
どれも素敵な(中毒になりそうなw)曲が多くて大好きになりました♪
それに、物語と合いすぎですねwwう~む。。
あ、あとヤンデレ帯人を楽しみにしてます★前よりグレードアップですかね?wえへ))黙れ
でゎ。ゆっくりの更新でも、待ってるので!!また会いましょ~。
2009/02/01 19:26:59