語り部の枯れぬ花

ようこそいらっしゃいました。このたびお聞かせするのは主の為無限に咲く花を探す人形のお話です。

その人形はこの世のどこかにあるという花を探して独りで旅を続けていたそうです。 
花は全て、時が訪れれば枯れ、朽ち果ててしまうのだと泣いていた、大切な人のために。
ただ、その花を渡したい、笑って欲しい、その思いだけが人形を突き動かしていたそうです。

そして、人形は花を手に入れるために、幾つもの山と海を越え、突き進んで行ったそうです。
そのうちに、靴底は磨り減り、いつしか季節は、何度も何度も巡ったそうです。

記憶の中、鮮明に映し出される魔術師は、
「求め続けていた永遠など、何処にも無いとお前と過ごすうちに知った。
そして、永遠など無いからこそ美しい。しかしそれでも、永遠が欲しいと願ってしまう。」
と、震えながら言っていたそうです。

人形は、その記憶に蝕まれ、魔術師のために朝露に濡れ輝き、咲き乱れる枯れない花を求めて探し続けたそうです。

「君に送るため、七色に彩られた咲き誇る花を。朝露に輝いて咲き乱れると言う花を。
  ああ、いつの日か手に入れて君の元に帰ろう。

そう歌いながら人形は枯れぬ花を探し、たった独り歩き続けたそうです。
その喉が罅割れて、歌うことは愚か話すことも出来なくなり、靴を失くし、足が磨り減り、歩くことも敵わなくなるまで。

いかがでしたか?私のお聞かせした物語は。今日のところはここでお開きにしましょう。帰り道にはどうぞお気をつけて。よければまた、私の物語を聞きにいらして下さい。それではさようなら。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

語り部の枯れぬ花

語り部シリーズ10作目です。
ついに二桁突入。

閲覧数:242

投稿日:2009/07/18 18:11:51

文字数:678文字

カテゴリ:小説

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