アレン 〜ルシフェニア王宮内「リリアンヌの部屋」にて〜
「いよいよ明日じゃ!準備ができていくのを見ておると、胸が踊るのう‼︎」
満面の笑みのリリアンヌ。いつになく、上機嫌だ。それも当然。明日は、リリアンヌの誕生日。彼女を祝って、盛大な舞踏会が行われるのだから。
つい先程、3時の鐘が鳴り、リリアンヌはシャルテットとネイと共に、ティータイムを楽しんでいる。僕は……残念ながら、給仕係だ。
「そういえば、明日ってアレンも誕生日じゃなかったッスか?」
うわああああ⁉︎ それ、触れてほしくない件! バレるなんてことは無いと思うけど、万が一ってことがあるかもしれないし!
「同じ歳で、同じ誕生日で、そっくりな顔……リリアンヌ様とアレンってまるで、双子みたいッスね!」
あああ⁉︎ 本当に何言っちゃってるんだこの人‼︎ 一体何を考えてるんだ‼︎ あ、この顔は何も考えてない。ただ思いついたことを言っただけだ。
「シャルテット……」
ネイが、ため息を吐き、じとっとした目でシャルテットを見た。
──ガタッ──
リリアンヌが立ち上がった。
「それは、真か⁉︎」
「はい?」
リリアンヌが、らんらんと目を輝かせている。
「アレンの誕生日も明日なのか?」
「はい、そうですが……」
その勢いに、少し気圧されてしまった。
「おお‼︎ 真なのか! それは凄い偶然じゃの!」
偶然……じゃ無いんだけどな。
言うわけにはいかないけど。
「まるで、“うんめい”みたいじゃの!」
「はい⁉︎」
「エルルカが言っておったのじゃ! 誰にでも、“うんめい”で繋がっている相手がいるのだと!」
言葉に合わせて、腕を振る彼女は、大層興奮しているようだ。
「リリアンヌ様の運命の相手だなんて、私にはあまりに畏れ多いですよ!」
「そうかの……? あ! でも、そうじゃな! わらわの“うんめい”の相手は、カイルお兄様じゃな! アレンの事は好きじゃが、何人たりとも、カイルお兄様には敵うまい!」
高らかに笑うリリアンヌ。
その後はリリアンヌが、ひたすらにカイルの話をして、お茶会はお開きとなった。
アレン 〜ルシフェニア王宮内「回廊」にて〜
「全く……どうなることかと思ったわ」
じとっとした目をシャルテットに向けながら、呆れオーラを全身に出し、ため息を吐くネイ。
「何がっスか?」
一方、シャルテットはきょとん、としている。
「何がって……あのねぇ。リリアンヌ様とアレンがまるで双子のようだ、なんて、どれだけ不敬なのよ……。君臨者たる王女と! 一介の召使が! 双子のようだ、なんて」
「あ……」
小さく声を漏らす、シャルテット。
「誕生日前日でリリアンヌ様のご機嫌がよろしかったから、助かったようなものよ」
あ、そうか……。
「下手したら、シャルテットも……アレンも、首が飛んでいたかもね」
僕とリリアンヌが双子の姉弟だとバレやしないか、ということばかり考えていたけど、その可能性もあるのか。リリアンヌの機嫌を損ねていた可能性が……。
「そ、そうっスね……気をつけるッス……」
「シャルテットー!」
回廊の向こうから聞こえた、小さく、だが鋭い声に、僕らは振り向いた。
「ちょっと、いらっしゃい‼︎」
関係のない僕まで、首をすくめてしまうような、強い語気だ。
「今度は何をやらかしたのかしら?」
「また、花瓶でも壊したんじゃないだろうね?」
「そ、そんなわけないッス! とりあえず行ってくるッス!」
慌てて走って行くシャルテットを、ネイと2人で見送る。……走ったりすると、また怒られるんじゃないだろうか。
「アレンは、この後は?」
「僕? 買い物に行かないと」
「あら、そう。頑張って。あたしは部屋に戻るわ」
ネイ 〜ルシフェニア王宮内「使用人室」にて〜
アレン。私と同じ、王女付きの使用人。王女のお気に入りの1人。
王女と同じ生年月日……王女と瓜二つの顔……まるで、双子のような。そして、アヴァドニア家の養子。
アレン=アヴァドニア……もしかして……。
ネイ=フタピエ──本名、ネイ=マーロン。
海の向こう、マーロン国の第13王女。
ルシフェニア王国を滅ぼすため、放たれた刺客。
彼女が、アレンの出生の真実を知るのは、また別のお話。
アノ日ノ記憶
今回、パラパラとですが、悪ノ娘4巻を見返しました。
リリアンヌ様とネイの口調が難しかったです。
アレンが召使として王宮で迎えた誕生日は、小説で描かれた14歳と15歳の誕生日だけのはずですから、実際にはこのようなシーンはあり得ないのでしょうが……本編との整合性は問わない、ということらしいので、お許しください。
※この作品は、小説『悪ノ娘 〜黄のクロアテュール〜』『悪ノ間奏曲 ──トワイライトプランク──』のネタを含んでおります。
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ブクマつながり
もっと見る私の名前はネイ=フタピエ。『悪ノ娘』リリアンヌ=ルシフェン=ドートゥリシュに仕えるメイド……というのは仮の姿。
その正体はリリアンヌに悪魔を取り憑かせ、悪政による内部崩壊を引き起こすために送り込まれた工作員であり、知られざるマーロン国第十三王女である。
無事王女付きのメイドとして王宮の中枢に潜...工作員の試練
むぎちゃ
私の目の前には一人の男が座っている。見かけは質素だが生地も仕立ても一級品な服に青い髪。画材道具の入った鞄を持っていれば旅行客に見えるとでも思ったのだろうけど、護身用の長剣にはばっちりマーロン王家の紋章が入っている。……というか、忍ぶ気が全くないんじゃないかこの人。
「好きなものを頼んでくれて構わな...青ノ妹
粉末緑茶
「アレン、お主はキスをしたことがあるか?」
3時のおやつの時間に流れていた穏やかな雰囲気は、リリアンヌの一言で霧散した。
「ど、どうしてそのようなことをお聞きになられるのですか?」
そう聞くと、リリアンヌは少しふくれた。
「わらわの質問が先じゃ!」
「申し訳ありません…私はない、ですね…」
リリアン...王女と召使と思春期
ナユ
「リリアンヌ様?どこへ行かれたのですか?」
僕は先程突然リリアンヌに呼び出された。そのためリリアンヌの部屋へ向かったが、そこには彼女はいなかった。
待っていれば来るだろうと思っていたが、数十分経ってもリリアンヌが部屋に来る気配はなかったため、今僕は城中を捜し回っている。
全ての階を回ったつもりだが、...回想、そして後悔
macaron
遠くから私を呼ぶ声が近付いてくる。
すごい勢いで。
一瞬誰か分からなかったが、「カイル兄様~!!」とドレスの重さを感じさせないくらいの速さでやってきたのはリリアンヌだった。よくあのドレスで走っていて転ばないものだなと感心しつつ、王女がそんなことをしてはいけないよと窘める。その言葉を受けしゅんと...夢の中でなら
雪夢
◇◇◇
これは夢だ。
早々に彼がそう確信した理由は他でもない。宮殿の廊下に、本来ならばいるはずもないものがいたからだ。
加えて、窓ガラスも割れているというのに他の侍従達が騒ぎ立てている様子は無い。
目の前の事柄全てがあまりにも不自然だ。夢なのだろう。今、彼の前にいるこの「熊」は。
地を這うような低い...イレギュラーはアカシックレコードの夢を見るか?
たるみや
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