その夜。執事は独りバルコニーに出て、手すりに腕を預けて満天の星空を見上げていました。その眼差しはどこか寂しさが混じった感じでした。
「・・・はぁ」
執事は独りため息をちきました。
「・・・やっぱり無理ですよ・・・僕には、こんな関係が似合ってますしね・・・・・はぁ」
「ため息ばっかりついてると幸せ逃げるわよ」
馴染み深すぎるその声に執事は驚いて振り向きました。
「・・・あ、もう幸せ逃げちゃったんだったわね」
そこにはうさ耳をつけたアリスが立っていました。
「・・・あ、アリス様・・・」
執事は目をそらして言いました。
「へぇ、執事がこんなところにいるなんて、珍しいわねぇ。一体、どういう心の心境かしら？」
執事に近づくアリス。
「・・・あ、いえ・・・。・・・僕でも、こうしたい時ってあるんですよ、アリス様」
わずかに焦る執事。
「なら、そういう時は私を呼びなさいよ。これじゃ今までと何ら変わらないわ」
唇をとんがらせて言うアリス。
「・・・すいません」
「全く、貴方は草食系過ぎるから、困ったものだわ」
「え？アリス様、草食系の意味ご存知なんですか？」
アリスの言葉に目をまんまるにする執事。
「あら、私にだって分かるわよ？これぐらい」
何故か得意げなアリス。
「なんか、すごいですね」
「・・・・ねぇ、執事」
急に大人しくなるアリスに、執事は、
「・・・な、何でしょう？」
少し面食らいます。
「こんな私だけど・・・迷惑、かしら？」
「い、いえ。全然迷惑じゃないですよ」
「・・・・そう」
アリスは手すりに、手を置いて空を見る。
「今日はいい天気ね・・・・。なんか、空眺めていると、ほっとするの。執事は、どうなの？」
「・・・僕も、空はよく見上げてましたね。いつ見ても飽きなかったですよ」
「そうね。空は一瞬一瞬が大事だものね。空は変わりやすいけどそれゆえに楽しい・・・そんなものだから、私・・・・」
そこで一息おいて、
「執事と青空があったら、あとは何も要らないわ」
執事を振り向き、にっこり笑う。
「そんなわけだから・・・うん。それだけ言いたかっただけだから。・・・おやすみ、執事」
そう言って、バルコニーを出て行こうとするアリス。
「あ、あの・・・アリス様！」
「・・・何？」
呼び止める執事にアリスは立ち止まり振り向きました。
「・・・・あ、その・・・」
執事はなにかを言おうとして口ごもりました。
「もう、男ならはっきりしゃべりなさいよ」
「・・・あ、あの、えと・・・あ、アリス様のお部屋に・・・・っ」
「・・・私の部屋？なにか忘れ物でもしたの？」
「・・・そ、そうじゃくて、その・・・い、いっしょに・・・」
「？？？・・・何が言いたいのかさっぱりだわ、執事、熱でもあるの？」
「あ、アリス様と・・・その・・・一緒に・・・寝たいと思いまして、ど、どうでしょうか・・・？」
「・・・え？別にいいけど私寝癖悪いから執事蹴っちゃうと思うけど、それでもいいのかしら？」
きょとんとして呟くアリスに、執事は、
「あ・・・や、やっぱりいいです・・・。・・・・おやすみなさい、アリス様」
「うん、おやすみ。執事」
内心泣きそうな執事に気付かずにアリスはにっこり笑いかけてそう言って、バルコニーを出て行きました。
「・・・はぁ」
執事はため息をひとつしてからそれから執事もバルコニーを出て行ったのでした。


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