~巡音ルカの日記より抜粋~



 あの日―――――

 動物病院から八又署に戻ってみると、数百人の黒猫組組員と、9人の幹部が縛り上げられた状態で届けられていた。

 ドンキーの話によると、いきなり突風が吹いたかと思うと組員たちがどさどさと投げ込まれてきたらしい。

 その時に机に投げられたという手紙があり、読ませてもらったところ、『《疾風刑事》巡音ルカ殿によろしくと伝えよ』と短く一言だけ書いてあった。

 ドンキーはいったい何者なのかと首をひねっていたけど、手紙を結っていた一本の紫色の髪で簡単に見当がついた。

 なんだかんだで、ちゃんと彼にも私たちの願いが届いていたんだな、と、少しだけ嬉しくなった。



 初美さんと和也君は手術と術後の治療がよかったためか、瞬く間に回復し、一か月で退院できることになったということだった。

 何度かお見舞いに行ったときに聞いた話によると、やっぱり初美さんは最初から和也君と心中するつもりでこの町に来たらしい。

 だけどそのための練炭を準備している最中に、いきなり背後から悪之介に斬られたみたいだ。

 その悪之介はといえば―――――少し手加減しなさ過ぎたせいかな?体にも精神にもダメージを負いすぎて、まともに聴取もできないということだった。

 試しに『心透視』で心の中をのぞいてみたところ―――――『怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いこw(ry』という文字があふれると同時に、蛸足滅砕陣《破音》を喰らう瞬間の映像を無限ループで見ているようだった。これでは聴取なんかとてもじゃないけど出来やしない。少し手加減してやるべきだったのかなぁ。ま、いいよね☆大罪人だもんね☆



 黒猫組は当然壊滅・解散した―――――『黒山兵助』の『死』を持って。

 クロスケはあの後、人間に化けて警察に出頭した。そのまま逮捕・起訴される―――――かと思いきや、数日後に舌を噛み切って死んでいる『黒山兵助』が牢屋の中で発見されたのだ。

 ではクロスケは死んでしまったのか―――――そうではない。それはクロスケが自らの手足を切り落とし、再生を繰り返しながらいくつも繋ぎあわせて紅蓮劫火で成形し作った、ダミーだった。クロスケ自身は作り終えた後、単身脱出して今はすっかり元気になったクロロちゃんと楽しそうに暮らしていると、ロシアンちゃんから聞いた。

 切り落とした手足は実に500本近く―――――ロシアンちゃんとの戦いでひたすらボロボロになった体をさらに痛めつけてまで、彼は脱出したかったのだろうか。

 ―――――いや、そうじゃない。それだったら最初から出頭しなければいい。わざわざ出頭して、自らの体を痛めつけたのは―――――殺してきた人達や、その周りの人たちの悲しみを己が身に刻み付けたかったからであると、私は信じてる。



 ……そのロシアンちゃんだけど、結局クロロちゃんを治した時のことはさっぱり思い出せないみたい。

 あの時―――――額の紋様から溢れ出た碧い光。あれは一体、何だったんだろう。

 今の私にはさっぱりわからない。だけどただ一つ言えるのは、やっぱり私の盟友は、永い永い時を生きた神獣・猫又で、まだまだ私の知らない不思議な力があるんだろうなってことだけだ。

 ……なんだかたっぷり書いちゃった。今日はもう寝るとしましょ……………。





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 『そうか……富岡親子は今日退院か。案外早かったな。』

 「ええ、もう海にも入れるんだって!今ミク達が迎えに行ってるのよ。」


 ホテルを出たルカとロシアンは、海を眺めながら話していた。


 『昨日ミクから聞いたぞ。明日朝一の電車で帰るそうだな?』


 不意にロシアンがルカを見上げた。


 「うん……もらった休暇は一か月だしね。さすがに明後日からは仕事に戻んないと……。」

 『だがこの一か月、お前はひたすら事後処理ばかりで安らいでおらんのだろう?もう少しゆっくりしてゆけばよいものを……。ミクが残念がっていたぞ。『せっかくルカ姉が貰った休暇なのに、肝心のルカ姉が全然楽しんでない』とな。』


 そう、ルカは結局この一か月、普段ヴォカロ町でやっていることとほぼ似たような仕事ばかりしていたのだ。

 少し苦笑いして、それでもルカは海を向いて吹っ切れたような顔をした。


 「あはは……。……でも、それでも構わない。皆で旅に来れたってだけでもサイッコーに嬉しかったし、何より……ロシアンちゃんの意外な一面を見られたってのがすっごく面白かったしね!」


 途端にロシアンが渋い顔になり。ため息をついた。


 『まだいうか!?全く……いつまでもこの齢300年の猫又たる吾輩をからかいおって!!』

 「あはは、ごめんごめん。……でもすごいよ、あれ。本性あんなだったんだ?」


 すっと立ち上がったロシアンが、遠くのほうを眺めながら若干恥ずかしそうに答えた。


 『まあ……な。昔から争い事が好きでな……心燃え上がるような戦いには、思い切り突っ込んでいく性質なのだ。お主ら平和を好む奴らと親睦を深めた今の状況で、そんな戦闘狂の顔などそうそう出せなかろう?だからずっと抑えてきたのだが……やはりクロスケは違うな。奴との戦いは止められん。あいつが落ち着いたら、もう少し戦いたいものだ。』


 そういって嗤うロシアンの顔は、いつも通りのようでありながら、クロスケと戦っていた時のようでもあった。

 その時である。


 『兄貴ぃ~!!』

 『おにーさーん!!』


 いきなり空から声がして、2頭の黒猫が下りてきた。クロスケとクロロだ。

 またロシアンの顔が渋くなって、2頭の頭を軽く小突いた。軽くたたいたはずだが、ゴンッ!!と重い音が響く。


 『いてぇ!!』

 『いったーい!!』

 『お前ら阿保か!?いきなり空から大声で話しかけるな、驚くだろうが!!あとクロロ、いい加減『お兄さん』はやめろや!!』

 『だってお父さんの兄貴分なんでしょ?だったらお兄さんでいいじゃないですかー!そ・れ・と・も……『オジサン』のほうがよかったりしてぇ……?』

 『ぐ……このおてんば娘が……!!治った途端に調子こきやがって……!!』


そこまで言って、はっとしたロシアン。ルカがにやにや顔で見つめていた。


 『おいコラ。何をにやついている貴様?』

 「え?いやぁ本性出てるなぁと思って♪」

 『やかましい!!』


 ひとしきり喚いた後、ロシアンは思い切りため息をついて立ち上がった。


 『全く……こんなところで騒がしくするわけにはいかんからな。そろそろお暇するか……。クロロ。マグロは喰ったことあるか?』

 『マグロ?発症する前にお父さんに一度だけもらったけど、あんまりおいしくなかったですよ?』

 『あ……あれはちょっと手際悪くて腐らせちって……(汗)』

 『お前は阿保か!?』


 回し蹴りが綺麗に股間に決まり、のたうち回るクロスケを後目に、これまでとは打って変わって優しく、しかし強い目でクロロを見つめるロシアン。


 『……よし!なら、この使えない父親に代わって、兄貴分たるこの俺がマグロの仕留め方を教えてやる!!今のお前なら、覚えりゃ自分の手で仕留められるはずだ!!ついて来いよ!!』

 『……!!……はいっ!!』

 『おらクロスケ!!お前もいつまでもバタバタしてんじゃねえ!!……来いよこのバカ弟子が。久々に一狩り行こうぜ!!』

 『てて……へへ。へへへへへ……!!ウイィ―――――――――――――――――ーッス!!!!』


 不意に、ロシアンの体が宙に浮いた。

 ゆらりと尻尾を揺らし、クロスケとクロロも空へと飛び上がる。

 『速くいこう』とせかす2頭に若干呆れながら、海に向かって飛び出そうとするロシアン。

 そこでふと、ルカのほうを振り向いて。


 『……また会おう、ルカ。』

 『……うん、またね、ロシアンちゃん!』


 ルカの返答に小さく笑うと、碧命焔を噴き出しながら空を見据えて――――――


 『行くぜてめーら!!ぼやぼやしてっと置いてくぞ!!』


 ドゥ!!と凄まじい空気の唸りをあげ、海に向かって弾丸のように飛んでいった。


 『ひゃあああああああ!!?ちょ、おにーさん速いよ!!?』

 『じゃ、じゃーしつれーしまっすルカの姉御!!兄貴ぃ~!!』


 大慌てで、黒猫親子もその後を追って飛んでいった。





 「ルカさん。」


 ロシアンが飛んでいった海のほうを見つめていたルカは、不意に呼ばれて振り向いた。

 そこには体のあちこちに生々しい傷跡を残す女性が。初美だった。


 「初美さん!……傷、残っちゃったんですね。」

 「ええ……だけどこの傷は、暴力団などに関わった自分への戒めとしてしばらく残しておくつもりです。」


 少し寂しげに笑う初美。その表情に、心が締め付けられる想いがした。


 「でも……初美さんは悪くないんだし―――――」

 「入院中に……。」


 ルカの言葉を遮って、初美が口を開いた。


 「父から電話が来たんです。初嶋工業社長であり、私の父である初嶋将清(まさきよ)から。私が搬送されたことを監視員から聞いて、手が離せない仕事があるにも拘らず自ら電話してきたんです。」

 「え……なんて?」


 ルカの問いに、初美は答えない。

 しばらく海を眺めて、そして小さく息を吐いた。


 「……なにも……。」

 「え?」

 「ただただすすり泣くばっかりで……何かを言おうとしても泣き声しか出せないみたいで……でも3分ぐらい泣き声が聞こえた後、『無事でよかった。和也にも、おじいちゃんが無事を喜んでいると伝えてくれ』ってそれだけ言って、電話は切れたんです。普段は社員を自ら蹴飛ばしてまで喝を入れるコワモテ社長なのに、話している電話の向こうで涙鼻水だらだらの姿想像したら思わず吹いちゃいました。」

 「……………。」

 「……でも、それで目が覚めました。私、お嬢様の立場では味わえない感覚を味わいたくて、暴力団の世界に足を踏み入れたんです。……その結末が、夫の裏切りと父の悲しみ。そして何も知らない和也まで巻き込んでしまって……どれほど自分の行いが愚かしいか、身に染みました。電話が来てからしばらくした後、父から来たのは治療費のための小切手と、1枚の手紙……『自分の行いが招いた結果は自分で片付けなさい』と一言、それと働き口を紹介する資料。……自分の浅はかな決断が落していった借金を返し終わるまで、この傷を消すつもりはありません。」


 自らの意思をはっきりと示した初美。その眼に宿る光は、とても自殺を考えていた人間と同じものとは思えなかった。

 呆気にとられるルカだったが、やがて優しく笑い、1枚の紙を初美に渡した。


 「……私の携帯のアドレスです。いつか借金を返し終わったら、一報ください。腕のいい整形外科、探しておきますので。」

 「え……!でも……!」

 「気にしないで。……退院、おめでとうございます。」

 「あ……!あ、ありがとうございます……!」


 その時、初美の遥か後ろで声が聞こえた。和也を連れたミク達だ。


 「ルカ姉~!和也君連れてきたよ~!」

 「ルカさ~~~~~ん!!」


 大喜びでルカに突撃する和也。勢い余って―――――というより元からそのつもりだったのか、ルカに思いきり体当たりをかました。


 「ふみゅ!!いたた……元気いっぱいね、和也君!」

 「変な声~!『ふみゅ!!』だって!あはは!」

 「大人を馬鹿にしないの―!!」

 「ね、ルカさん泳ご!!皆もう着替えてるんだよ!」


 よく見れば、ミクもリンもレンもメイコもカイトも、既に全員水着に着替えている。

 メイコがルカに歩み寄ってきて、にっと笑った。


 「最後の1日ぐらい、みんなで遊びましょ!」

 「そーだよルカさん!はやく泳ごー!!」

 「一緒にカイト兄沈めよーよ!!」

 「リン!?だから僕の扱いがひどいと何度言ったr(ry」


 和気藹々とした皆の様子に少し呆れながら、ルカは笑ってうなずいた。


 「そうね!一緒に泳ぎましょーか!!」

 『おっしゃ―――――――――――――――――――――――――――っっ!!』


 和也と、そして楽しそうに笑う初美と、そしてボーカロイド達の喜びの雄叫びが、浜辺に響き渡った―――――。





 こうして、ボーカロイド達の初めての旅行は幕を閉じたのであった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ボーカロイド達の慰安旅行(19)~猫の騒ぎと旅の終わり~

ドタバタ終了、旅行も終了。
こんにちはTurndogです。

富岡親子も元通り、クロスケとロシアンも元通り、クロロも元気になって万々歳ですね!wwww

……いや、正確にいえば全然万々歳じゃないんですけどね。というのも黒猫組に家族や親せきを殺された人がたくさんいるわけですから。その辺は多分クロスケが時間をかけて何とかするんでしょう、たぶん。
クロスケだから大丈夫だ、問題ない(死亡☆フラグ!

さぁさぁ皆さん、去りゆくロシアンの雄姿をよーっく見といてくださいよ!!これから先3作は出てこないですからねこの猫は!wwww

次回はヴォカロ町に戻ってエピローグ!でも『あの人』は出てきませんwww

閲覧数:263

投稿日:2013/05/18 17:55:31

文字数:5,262文字

カテゴリ:小説

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  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    あぁ、この章も終わりかw
    お疲れ様でしたww

    正直、ミクちゃんあたりが暴れるのかとおもいきや、ルカとロシアンだけで決着ついちゃいましたww

    私、クロロは、少し親近感を覚える名前ですw

    あの人というのは、グミちゃんですか?ww

    2013/05/20 23:55:13

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      いやぁ……今までで一番長かったわwww

      まぁこれ以上暴れようがないですしねwww
      敵はすべて片付いているのだ!

      ○△△って感じの名前ってなんかしっくりするんですよねぇ。

      いや、あの白髪のバーテンダーさんですww

      2013/05/21 00:11:18

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