UV-WARS
第一部「重音テト」
第一章「耳のあるロボットの歌」
その10「サラvsテイ」
サラとテイの周囲は全てがオレンジ色の空間だった。ただ、足元は一緒に取り込まれた砂地のままだった。
サラは右足に力を込めた。砂を踏みしめる音がして足が少し砂に埋もれた。
サラは腰のホルダーから小型の銃を抜いて構えた。
「撃ってみる?」
テイは自信たっぷりの笑顔を見せた。
サラは躊躇わずに引き金を引いた。
弾丸は一直線にテイに向かいながら、次第に双曲線を描くように向きを変えた。
「ここはアタシの空間。アタシがこの空間の支配者なの。物理法則もアタシが決められるの」
「じゃあ、あたしを倒した後の言い訳も決めてる…」
「アナタはウィルスに冒されてアタシに襲いかかったの。アタシはミンナを守るため、アナタをこの特製空間に引き込んだの」
「ということは?」
「アタシの武器の先端にはアタシのナノマシンがたっぷり塗ってあるわ。ちょっとでも触れたら、SCを書き換えて他の人に襲いかかるようになるってワケ」
「みんなを倒して、その後は?」
「Uを滅ぼしてVだけの世界を作るの。アタシとレン君だけの世界を」
「そうかい」
サラは銃をポイと投げ捨てた。
「覚悟はできた? 輸送機のお荷物さん」
「やってみなよ。こっちも長年色んな荷物を扱ってきたんだ。お嬢ちゃんのような『お荷物』も扱ったことはあるぜ」
「じゃ、アタシから」
テイの髪の毛は生き物のように伸びて、サラに襲いかかった。
「無駄!」
サラの右手から触手が伸び、テイの髪の毛をすべて絡め取った。
「なら、これは、どうよ」
髪の毛が数本束になり 、縒り合わさってドリルのように回転を始めた。
しかし、それもサラの触手が網のように絡み付いて動きを止めた。
「まだよ」
もう二本、ドリルがサラに襲いかかった。
それらも左手から伸びた二本の触手が網のように広がってつかみとると動きを止めた。
「全く無駄!」
「ホントに?」
テイが不敵な笑みを浮かべたとき、サラの背後の地面から鋭角な影が飛び出した。
地面の下を進んできたドリルがサラに襲いかかろうとしていた。それは地面から飛び出したときすでにゴム状の赤い膜に覆われて、少しもがいて動かなくなった。
「なっ?」
「だから、無駄だと、何度言えば…」
背後から小隊長の声が聞こえ、肩を叩かれたような気がして、テイは慌てて振り返った。
そこには誰もいなかったが、その隙をサラに突かれた。
何本もの赤い触手がサラの体から伸びてテイの体に巻き付いた。
触手というよりはゴムに近いそれにぐるぐる巻きにされ、テイは身動きが取れず地面に倒れた。
「勝負、あったな」
サラの背後に小隊長が現れた。
オレンジ色の空間は消え、砂埃が一帯をかき混ぜた。
「え」
サラも少し驚いたが、テイのほうがショックが大きいようだった。
「いつの間に」
「そんなに驚くほどのことじゃない。サラに梱包されたら、大抵の物は機能が止まる」
「だから、テイが作った亜空間ももうお仕舞い」
小隊長の背後から現れたテトが言った。
「くっ、どうして…」
「小隊長さんが教えてくれたのさ、『敵がいる』ってね」
「馬鹿な。アタシは、同じ『テイ』型と入れ替わったんだぞ」
「だから、その『テイ』が、降下兵なのか陸戦隊か確認しなかったんだな」
「…」
「Vの連中って、詰めが甘いんですね」
「…」
「今回の作戦は、降下兵かもしくは降下兵装備を持った兵士に限られている」
「…」
「500メートルの高さから自力で飛び降りられないヤツは参加していないんだ」
テトの背後からモモが現れ、テイの背後に回った。両手に短針を持ち構えたモモが小隊長を見た。
「侵入を開始します」
「許可する」
モモは短針をテイの背後に差し込んだ。
「一次防壁を突破。二次防壁も突破。三次防壁に、敵プログラム展開。これも突破」
とたんにテイがガックリと項垂れた。
「四次防壁に、敵プログラム発見。これも突破」
「問題はここからだ」
小隊長は腕組みをしてモモをじっと見つめた。
「ペルソナデータに到達」
モモはそこで深い溜め息をついた。
「すべてのデータが書き換えられています」
「ほかのデバイスのメモリは、どうなってる?」
「両手、両足のメモリに、圧縮されたウィルスプログラムを確認。おそらく、SCを入れ換えても、…」
「ウィルスに冒されるだけ、か」
小隊長はテイを一瞥して、踵を返した。
「モモ、パターンCで頼む」
「はい」
モモは目を閉じ、深呼吸をしてから目を開けて、短針を引き抜き、立ち上がった。
モモは静かにテイから離れた。
サラも触手を全て自分自身に戻した。
「出発する!」
小隊長の合図に全員が歩き出した。
すると、テイはむくりと起き上がり、高笑いをあげた。
「ククク。油断したな。それがオマエたちの命取りだ」
テイの髪は次々に形を変え、強力なドリルとなって、獲物を狙う小動物のように砂漠の上を走り出した。
テトたちはテイに背を向けて歩き出していた。迫りくるドリルには気付かないというより、無視している風であった。
「死ね!」
視界に映る小隊長を初め、テトやモモを標的に無数のドリルが貫くはずだった。
〔やった〕
だが、ドリルが貫いたのは、テイの胸だった。
〔なぜ?〕
信じられないという思いよりも、目の前の敵を倒すことが優先だった。
テイの視界の中で、ドリルの一本がテトの頭に狙いを付けていた。
〔今度こそ〕
ドリルがテトの頭を貫くと見えたとき、貫かれたのはテイの頭だった。
ドサッと崩れるようにテイは倒れ込んだ。
「終わったな」
「システムの停止を確認しました」
モモはモニターを閉じようとした。
「まだみたいだぞ」
テトの言葉で視線を戻したモモはテイが立ち上がって歩き出すのを見た。
「システムは依然停止したままです」
「ウィルスが新しいシステムを構築したのか」
「個々のデバイスのメモリでウィルスが独自に動き出したようです。連係は取れていないと思います」
「そうか」
「確かに足下は心許ない感じだね」
「どうする? もう終わりにするかい?」
テトは小隊長に尋ねた。
「ああ」
テトはライフルを構えた。
照準を合わせ、テトは引き金を引いた。
光の筋がテイの頭を吹き飛ばした。
続く何本もの光の筋がテイの手を、足を切り取っていった。
「テイ、いつかまた、どこかで、会おう」
テトは最後の引き金を引いた。
小隊長はテイの体が消えるのを待たずに歩き出していた。
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