「まさかこんなところでグミちゃんと会えるなんて…びっくりしたわぁ~。」


 いつになく興奮した口調のルカ。それほどまでに、グミとの出会いが嬉しいのだ。


 「いやぁ~あたしも手当たり次第に探さなきゃダメかなぁ~って思ってたんだけど、それらしい名前のマンションがあったからね…試しに当たってみたらビンゴ!ってわけよ~。」


 その言葉を聞いて、メイコが思い出したかのようにグミに尋ねた。


 「ちょっと待って!ってことはやっぱり…あんたもがくぽと同じ科学者に造られたってわけ、グミ?」


 全員の顔が、一気に曇った。もしそうだとすれば、グミもまた、がくぽのようにルカたちを殺しに来た刺客である可能性も―――――。

 ルカたちの不安を感じ取ったのか、グミはやれやれといった顔をした。


 「まぁ…確かにそうなんだけどね…でも安心して。あたしはあんな『バカ学者』の言いなりになるつもりなんかさらさらないよ。」

 「へっ?」


 きょとんとするルカ。『バカ学者』とはどういうことだろうか。


 「『バカ』な『科学者』略して『バカ学者』。どう?いいでしょ?」


 思い切り吹き出す一同。先ほどまでの暗い雰囲気が嘘のようだ。

 ふと見れば、ロシアンがグミの体に鼻を近づけている。少しばかり顔をしかめたグミが、ルカにこっそりと聞く。


 「ねえ…この猫何なの?」

 「私の友達で、猫又のロシアンちゃんよ。」

 「と…友達!?猫又ぁ!!?」


 素っ頓狂な声を上げるグミ。そんなことをしているうちにロシアンが離れ、頷きながら言った。


 『成る程…こ奴、身体はがくぽと同じ臭いがするが、魂はお主らと同じ匂いがする。大方、造られた際に心だけはお主らのマスターとやらに手直しされたのだろうな。』


 納得したような顔をしていたルカだったが、はたと何かに気付いたような顔をしてグミに話しかけた。


 「そうだ!ちょうどいいから、その科学者たちについて、いろいろ聞かせてくれない?」


 グミはこくんと頷いて、自分を造った科学者について話し出した。





 「あたし達が目覚める前の話だから、独自に調べただけなんだけどね。どうもあのバカ学者たち、自分たちならさらに強力なボーカロイドを造ることができると考えてたみたいでね。師匠たちが亡くなるや否や、急に大見得切ったらしいのよ、『我々はボーカロイドで世界を支配する!!』って。」

 「な…何それ!?」

 「ね、びっくりでしょ?とにかくあいつ等は、私達を戦争の道具にしか考えてなかったみたいで、私とがくぽなんて目覚めたばかりでまだ頭が半分ボケてる状態だったにもかかわらず、いきなり戦闘訓練やらされたのよ。音波術で戦う練習。がくぽはあっという間に順応していったけど、私は全然慣れなかったな。」

 「マスターたちの懸念が…本当になってしまってたなんて…。」


 ミクが涙目でうつむく。グミはなおも話を続けた。


 「あたしたちは毎日十時間を超える戦闘訓練をやらされてね。疲れこそしなかったけど、毎日毎日その繰り返しでやることなくなんじゃないのとか思うぐらいだったわ。しかも、あたしたち全員…あ、全員ってのは造られたボーカロイド達のことよ?その全員が顔合わせるのは、月一回のメンテナンスの時以外ほとんどなくて、その時に談笑する時以外は話すことも許されず、顔を合わせる時は戦闘訓練の勝負の時のみ…まさしく私達は戦争のために造られた『バトル・ドール』だった。」

 「なんてことを…!!」


 ルカが憤りの声を上げた。ロシアンは黙りこくっているが、明らかに眉間にしわが寄っている。

 そこで、メイコがグミに質問を投げかけた。


 「ねぇ、ちょっと聞いていいかしら?がくぽの音波術…音刃斬とか言ったっけ。あんな風に戦闘に特化した音波術を、全員持ってるわけ?」

 「基本的にはそうね。」

 「ってことは…やっぱりあんたも?」


 グミは無言のままでこくんとうなずく。


 「ね!どんなの?どんなの?」


 ミクが子供のように飛びついた。


 「う~ん…百聞は一見にしかず…なんだけど…。」


 困った顔であたりをきょろきょろと見回すグミ。その視線がふと止まった先には、部屋のドアがあった。

 じっとそれを見つめたグミは、シュタ!と手を挙げ、


 「ゴメン。今度弁償するわ。」

 『へ!?』


 一同が驚きの声を上げるより早く、グミが叫んだ。



 『カノン!!』



 次の瞬間には、轟音を立てて部屋のドアが吹っ飛んでいった。


 『!!!!!!!!?』


 唖然とする一同。真ん中がひしゃげたドアは、そのまま十メートル先に落下した。

 ―――いや、「ひしゃげた」のではなかった。落下したドアは、真ん中がぶち抜かれていた。ボカロマンションのドアはかなり硬度が高い金属を使ってある。少なくとも、設計のコンセプトは「メイコバ―ストを反射できるドア」だったはずであった。

 いまだ言葉の出ない一同に振り返ったグミは、満面の笑顔で解説しだした。


 「これがあたしの音波術『サウンド・ウォーズ』!!機械声帯の形を様々に変化させることによって、戦争に使われる兵器と同じような音波弾を発射する技なの。早い話が、弾が無尽蔵の一人軍隊ってわけ。」


 何とか声を絞り出したメイコが、グミに質問した。


 「え…えっと、一体何種類ぐらいレパートリーがあんの?」

 「うーんとねぇ、『主砲(カノン)』に『副砲(サブカノン)』に、『機関銃(マシンガン)』に『バルカン』『熱線(レーザー)』『トマホーク』『魚雷(トーピード)』、それから『スナイパー』『手榴弾(グレネード)』『ミサイルランチャー』『時限爆弾(タイム・ボム)』などなど…まぁ大体30種類弱ってとこかな?」


 あまりのレパートリーに、リンとレンが目を回している最中、はっと何かに気付いたロシアンがグミに話しかけた。


『!!おい、グミとやら!!お主の持つ技の中に、敵を捕獲できるような技はあるか!?』

 「え!?あ…あるけど…。」


 ロシアンはルカのほうを振り返って叫んだ。


 『ルカ!!いけるぞ!!グミの力を借りれば、奴を倒すことができる!!』

 「ええ!?」


 ルカの肩の上から飛び降りたロシアンは、説明を始めた。


 『いいか?がくぽはスピードに関してはトップクラス…それはだれもが認めることだ。こと一対一ならば、確実に我々がやられるだろう。だが何も、真正面から組み合う必要はどこにもなかったのだ!我々が注意をひきつける間に、グミが奴を捕獲し、そこを全員でたたく!!これならば、先ほどの作戦より確実に可能性が高くなる…!!』


 そこにカイトの反論が入った。


 「だ…だけどロシアン!グミちゃんのその捕獲技で、がくぽを抑えきれるの!?」

 『心配ならばこの場で試せばよいではないか。』


 全員がグミのほうに注目する。グミはにかっと笑って、立ち上がった。


 「よし!じゃあちょっとお披露目しようか。えっと…ミクちゃん、被験体になってくれる?」

 「え…ええ!?私!?」


 突然の指名に仰天するミク。グミは淡々と話を進めた。


 「あのバカ学者情報ってのが気にくわないけど、ミクちゃんの音波術の一つ『Solid』が皆の中で最も殺傷力の高い技だって聞いたわ。それを防ぐことで、証明してあげるよ。あたしの捕獲技の強さをね…!」


 ミクはメイコに目配せして許可をとる。メイコは無言のまま、しかししっかりと頷いた。


 「…分かった。やってみて、グミちゃん。」


 グミはうなずいて一歩後ろに後ずさると、強く叫んだ。


 『サウンド・ケージ!!』


 その瞬間、まるで上から金属製の檻が落ちてきたような音がして、ミクの周りに格子状の空気の歪みが現れた。

 それ以上の変化は起きなかったため、ミクはグミに問いかけた。


 「…えっと、もうやってみていいのかな?」

 「うん、いいよ。もっとも、斬られるつもりは毛頭ないけどね♪」


 その言葉が少し癪に障ってしまったのか、ミクは瞬時に力を発動した。


 「『Solid』!!」


 周りを傷つけないよう、ぎりぎりまで細められた『Solid』の音波が空気の檻に向かって放たれた。

 ミクの脳裏では、瞬時に断ち裂かれ、破断して消え去る空気の歪みの映像が思い描かれていた。

 だがしかし、その予想は大きく裏切られた。



 【バチィン!!】



 「…え?」


 ミクの呆けた顔の先には、全く変わらないまま揺らめいている空気の檻があった。

 何ということか、ミクの『Solid』を完全に弾いたのである。


 「えっ?えっ?えっ?ど、どーなってるの?何で斬れてないの?」

 「ふふん、凄いでしょ?この『サウンド・ケージ』ってのはね―――――」


 グミは早速自慢げに解説をはじめようとするが―――――


 「ふえ!?ふえ!?ふええええ!?」


 困惑するミクは全く聞こうともしていない。…否、全く耳に入っていないようだ。「Solid」を乱れ撃ちして破ろうとするが、ことごとく弾かれる。空気の檻はびくともしない。


 「どどどど…ど―――なってんのお―――――!!?」


 慌てて檻を突っ切ろうとするミクだが、強い空圧に弾かれて尻もちをついた。


 「ふええええええん……何でええええ……助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…。」


 とうとう泣き出してしまった。グミは慌てて檻を解除する。


 「ご、ごめんミクちゃん!!謝るから、謝るから泣きやんで~~~~~!!」



 ―――十分後―――



 解放されて、ようやく落ち着いたミク。未だ涙目ではあったが、何とか平常心に戻ったようだ。


 「ご、ごめんねミクちゃん!まさかあんなに怖がるなんて思わなくて…。」

 「う…うん…それより、その…『サウンド・ケージ』だっけ?どんな技か、もう一度教えてくれない?」


 促され、グミは説明を始める。


 「えっとね、この『サウンド・ケージ』は、音波によって空気を格子状の形に固定して振動させ、空気の檻を作る技なの。この檻は何か衝撃が伝わった時、瞬間的に通常の100倍近い振動を起こして対象物を弾き飛ばせるの。大抵のことでは壊せないし、特に…音波術の様に空気振動を使った技に対しては、かなり強い効果を発揮する。まさしくあなた達を倒すために考えられた技なのよ。だけど…あなた達に効果的ならば、それはもちろんがくぽにも通用するということ。これが音刃斬に通用するかどうかはわからないけど、やってみる価値はあると思う。」


 ロシアンは再びルカのほうを振り向いて、嗤った。


 『使えるぞ、ルカ!これがあれば、吾輩の作戦を活かせる!!奴の脚を止めることができれば、武器破壊も倒す事も可能だ!!』


 そこにグミも首を突っ込んできた。


 「ねえ。その作戦とやら、もうちょっと詳しく教えてくれない?」


 ロシアンはグミに事細かに作戦を伝えた。するとグミは、顎に手を当てて考え込み、そして口を開いた。


 「そういう戦法使うなら、もう少しいい案があるわ。確かにがくぽの横薙ぎは首狙い一点。だけど、あいつはそれをスピードと、完膚無きまでの隙のなさで補っている。それよりも狙い目の太刀筋があるのよ。」

 「ホント!?どんな太刀筋なの?」

 「うん、抜刀術からの右切上、そしてそこから峰打ちによる袈裟切り、更に神速の納刀・抜刀術による逆袈裟という三段切りよ。あいつ自身は気づいてないみたいだけど、納刀する寸前と抜刀から逆袈裟に移る瞬間、そして逆袈裟を振り切った瞬間のそれぞれのタイミングで、一瞬動きが止まるの。特に逆袈裟を振り切った後は比較的大きい隙ができる。そこを狙って合図さえしてくれれば、確実に『サウンド・ケージ』を打ち込めるわ。」


 それを聞いて、ルカは明るい笑顔を見せ、立ち上がった。


 「よおっっし!!じゃあさっさと準備しましょう!!ロシアンちゃんが昨夜追い払ってくれたから、奴はしばらくは動けないだろうs」

 『お主ら死にたいのか。』


 昨晩に続き二回目のロシアンの突っ込み。思わずルカは硬直した。


 『吾輩は昨夜、奴に幻覚を見せて追い払っただけ。しかも幻覚消滅の時に、かなり目立ってしまった。もしかしたら、あれを町民に目撃されたかもしれん。だとすれば…奴はそろそろ、このボカロマンションが倒れていないことに気づいているかもしれんな…。』





 ロシアンの予想は正しかった。がくぽはその頃、ボカロマンションからほど遠くない街角に隠れて主婦の噂話を聞いていたのだった。


 「ねぇ聞いた?きのう、ボカロマンションが襲われたんですって!」

 「まぁ怖い!それで、一体どうなったの?」

 「何でもね、ルカさんのお友達のロシアンちゃんが助けてくれたらしいのよ!」

 「ロシアンちゃんって、一年前にこの町に来てくれた、あの猫又ちゃん?」

 「そうよ!ボカロマンションごと守ってくれたんですって!」

 「まぁ!凄いわねぇ~。」


 これを聞いていたがくぽは混乱と怒りにあふれていた。


 (バカな…!!ボカロマンションは確かに破壊したはず…そうかあの猫又…奴が拙者に幻覚を…!!おのれ…許さぬ…許さんぞぉおぉおぉ!!!!!!)





 『もしかしたらすでに、ボカロマンションに向けて走っているかもしれんな。』

「だ…だとしたら一体どうしたらいいのよ!?」


 慌てるルカに対し、ロシアンは不敵に笑った。


 「まぁ落ち着け。吾輩にはもう一つ、策があるのだよ。くっくっく……!!」


 ロシアンの焔は、その笑い声に共鳴するかのように、ゆらゆらと揺らめいていた。
 

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

紫色の騎士と鏡の音 Ⅵ~戦争ガール・グミ!!~

も…もう少しで制限の6000文字突破するとこだったwwwこんにちはTurndogです。

グミちゃんがすげえことになりましたがこれにはわけがあるのです!!
この研究者グループのボーカロイドたちの音波術はみんないざ戦争!となった時にめちゃくちゃ使えるというのをコンセプトにしております。
で、グミちゃんをどうしようかと考えた時に、「僕らの16bit戦争」を聞いてたんですね。その瞬間、「グミちゃん一人であらゆる武器を駆使できたらすごくね?」となりこーなりましたwww

ところで右切上・袈裟切り・逆袈裟というのは斬撃の種類のことです。る○うに剣心読めばわかる…はずですwww

地かい!!がくぽとの再戦!!ロシアンの策は成功するのか!?

閲覧数:487

投稿日:2012/04/08 20:22:19

文字数:5,755文字

カテゴリ:小説

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  • ゆるりー

    ゆるりー

    ご意見・ご感想

    グミちゃん可愛いけど怖い…
    あ、お邪魔してます。

    前回のコメ返。

    狂喜しちゃったwww

    そうそうジーンとくるんですよ。ってちょっと待てビックユーザー!?週に三回いいぃ!?!?自分はビックユーザーじゃなくて宇宙のチリ(チリに失礼)ですしそんなに注目の作品入りしてませんし!一ヶ月に一回か二回喜ぶか落ち込むかなのに!!むしろ入らなくて落ち込む方です!!

    がくルカで書いてますよ…大罪ギャグシリーズより多く書いてるんですよ、これでも…
    自分は、がくルカでは有名じゃないんですよ…いや、全体的に無名だけど…
    そのうち書きますよ、今とあるシリーズを連載中なので。
    充分なのwww

    Wでヴェノさんになっちゃったw

    喜んじゃってるー!!良かったんでしょうか自分なんかで喜んで!!w
    うまくないうまくない!!何かの間違いですw
    テクなんか知らないw自分はじゃんけん凄く弱い…しょっちゅうやって一年に十回勝てるか勝てないか…

    ずっと続いてる…!凄いです!
    あの後全部読んだんですけど、全部おもしろかったです!また次回が楽しみです!
    我が家のがくルカでシリーズものは…「memory」ですかね…


    今回の感想。

    な、なんかいろいろ凄い…
    グミちゃんが怖い…
    でも味方でよかった、敵だったら……どうしよう、震えが止まらない←
    バカ学者は笑いましたww

    るろう○はおもしろいww
    でも最初八巻ぐらいまでと、二十五話ぐらいからしか読んだことない…
    あと「地かい」になってますよー。

    ちょっとコメ欄とチェスしてくる←

    2012/04/08 22:06:14

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      え…そんなに怖い?この子そんなに怖い?個人的にはロシアンやめーちゃんやルカさん敵に回す方が百倍怖いんですがwww

      週に三回は言いすぎましたすみません…ですが自分にとっては10個以上注目入りしたらビッグです。うらやましい…だけど仕事は頑張らなきゃ…ハサミを片手に一生懸命(ry

      今度がくルカコメント入れさせてもらいます―…って次これるのいつだろうwww

      喜びますよ。つーか基本的に推定3人以上の人に常時コメントされてる人がコメントくれたら喜びますwww

      予定ではさらにこの先十何作ほど続く予定(長いwww

      ぐ…グミちゃんそんなに怖いのかな…?なるべく可愛く仕立て上げたつもりなのだが…orz
      敵だとしてもだいじょぶです!!多分バナナの皮踏んで滑ってくれます(なぜwww

      あれ?ほんとだ地かいだwww何だろう地かいってwww

      ありがとうございます☆

      2012/04/09 00:41:28

  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    九頭龍閃!!牙突!!二重の極み!!

    グミ…うん、味方だよね?w

    2012/04/08 21:50:53

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      る○剣はいろいろ便利ですwww実はルカさんの巡音流乱舞鞭術も飛天御剣がモデルだったりするんですよ。

      味方です!!w裏切りはたとえ小説のネタでも大嫌いなんでね☆

      2012/04/08 22:55:08

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