第十六話　あなたのこと

　重苦しい沈黙の中を、三人で歩く。
おりんさんは下を向いたまま、私にぴたりと寄り添って、話しかけづらい。
おとてはまっすぐ前を向いて歩いているから、これもまた話しかけづらい。

　「あのう、おとて……」

　「なんだい」

　この御仁はこういう話し方なのだろう。
機嫌が悪かったか、などと気にしていたら気がめいってしまいそうである。


　「これは、どこに向かっているんだい」


　「言ったじゃないか。行けばわかるよ。せっかちな男ってもてないんだよ、だめだねえ、れん」


　余計な御世話だ。

　しかし、どう見ても通りに抜ける気はない、ようだ。
それどころか、荒れ屋敷一体をどんどん奥まで進んでいるような気がする。


　きゅ、と。
おりんさんの白いきれいな指が、私の袂を今までより一層力を籠めて握った。


　おりんさんも、感じているのだろう。


　おとて。
この御仁、悪いやつではなさそうだが―――、どうにも―――。


　「なんだいなんだい。二人とも、あたしを疑ってんのかい？」

　私たちの気持ちを知っていましたともというような得意顔で振り返って、困った顔を見せた、おとて。


　「まあ仕方ないかもねえ。なにしろあの噂の寿々屋さんだしねえ。信用しないならいいんだけどね、得に―――」


　一体、何を考えているのか。
にやりと、不気味な笑みを浮かべる、目の前に立つおなご。


　「―――お嬢さん」


　びくり、と、おりんさんは隣で小さな肩を揺らした。


　「わ、たしが――信用、していないとでも……おっしゃるのですか……」


　「ああ、そういうことだよ。―――あれ、見てごらんよ。いつの間にか季節外れの、大雪となりそうじゃないかい」

　
　空を見上げると、分厚い大きな黒い雲に頭上はすでにおおわれていた。
雪も先ほどより降っている。


　「これだと、思い出す分も速いんじゃないのかい？」


　おとてはその怪しげな視線を空から雪へ、地面へ、そして―――――。














　「そうじゃない―――れん？」




















　私へと向けた。













　「そろそろ、あんたも、逃げ続けるのも潮時だわさ」




　「れん、れん？何が、おとてさんは何を言っているの？ねえ？」






　ああ、間違いない。
この娘御は、知っている。


　あの、忌々しい私の過去を。



















　あの人を―――――知っているのだ―――――――――。