25.
そして私は、瞳を開いた。
いろいろと覚悟を決めて、私はすっと見上げる。目の前の階段を下りてくる裸マフラーの、その背後に君臨する女帝を。
だが、女帝は私の視線を受けても悠然としており、少しも揺るがなかった。それどころか私を見下ろしたまま、恐ろしい笑みを浮かべる。
「あらぁ、ルカちゃん。そんな怖い顔してどぉしたのかしらぁ。どう見ても素直に辱められますって顔じゃあないようだけれどねぇ」
「罰をうける、というのは仕方ない……と言いますか、受け入れるほかないとは思いますが、それも内容次第です。いくら咲音先輩と言えど、辱められるなどということを受け入れることなどできません。僭越ながら、こればかりは全力で拒否させて頂きます」
目の前に迫る裸マフラーが、女帝に聞こえないように小さく「そりゃそうだ」とつぶやいた。
「あらぁー。へぇー。いー度胸じゃないの、ルカちゃん。あたしそーゆーの嫌いじゃないわよ? あたしだぁーい好きなのよねぇ。歯向かってくる子を全力で屈服させるのって」
女帝の瞳がきらーんと光った。いや、比喩表現なんかではなく、物理現象としてだ。
「ねぇ、めーちゃ――」
「なに、あんたも口答えするつもり?」
「あ、いや……」
ドスのきいた女帝の声に、裸マフラーまでもが恐怖に首を縮める。
「なら、素直に黙ってあたしの言うことを聞けばいいのよ」
「だ、だけど……」
「だけど、なに?」
「あ、う……。な、なんでもないです」
あっさりと黙り込む裸マフラー。どうやらこの変態も女帝の恐ろしさを十二分に理解しているようだった。
「そう。なら黙ってなさいな。何度言えばあんたはあたしの言葉を理解するのかしらね?」
「はい、ごめんなさい……」
女帝と裸マフラーがそんなやり取りをしている間に、私も両隣の二人に声をかける。
「グミ。初音さん。早く自分の部屋に帰りなさい」
「お嬢様――」
「巡音先輩――」
早速口答えしようとする二人に、私はたたみかける。
「これが最後のチャンスよ。これ以上こんなところにいても貴女達にいいことなんてないわ。あの変態の餌食になるだけよ」
女帝から目を話さずに言う私の言葉に、初音さんがおびえるように一歩下がった。が、グミは踏みとどまる。
「しかし、わたくしはお嬢様を見捨ててなどいけません。わたくしでも、お嬢様の盾くらいには――」
「バカ言わないで。グミが盾になったとしても、被害者が私一人からグミと私の二人になるだけよ。余計な被害者を出すほど無駄なことはないわ」
「ですが……ッ!」
声を荒げるグミに、私は横を向いて彼女の瞳を見つめる。手を伸ばし、彼女の頬に手を沿えた。
「グミ。貴女の気持ちはわかるわ。だけど、だからこそ、わかってちょうだい。貴女と同じように、私もグミに傷ついて欲しくないのよ。グミがあの変態の餌食になるなんて、耐えられない」
私の言葉に、グミは涙ぐんで拳を握りしめる。
「お、お嬢様……そんなことを言って、ずるいですよ……」
そんなグミの姿を見て、私は思わず苦笑を漏らしてしまう。
「悪いわね。さ、初音さんを連れて帰りなさい」
グミはいろいろと言いたいことがあるのを必死にこらえて、目元をぬぐうとうなずいた。
「……どうか、ご無事で」
どうにかそれだけつぶやくと、グミは残ろうとする下着姿の初音さんを連れて撤退する。
あらためて咲音先輩を見上げると、こちらの準備が整うのを待っていたのか、女帝はゆったりと私を見下ろしていた。
「――さぁて、ルカちゃん、覚悟はいいかしら?」
「グミと初音さんには、手を出さないでください」
「いいわよぉ。初めからあたしの標的はルカちゃんだけだものねぇ」
女帝はそう言って、どう考えても恐怖でしかないほほ笑みを浮かべる。
私は女帝の背後を見て鋭く叫ぶ。
「るかっ。今すぐ私を守りなさい。できなければお寿司はなかったことにするわよ」
「御館様っ、お任せ下さい!」
さっきまで踊り場でよくわからないことをしていたるかは、シュタッ、という音とともに私の目の前に着地する。が、まだ正常ではないようでその手元足元はおぼつかなかった。が、もはやそこに贅沢は言っていられない。忍者をこき使ってでも生き残らなければならない。咲音先輩を倒し、天下を獲るのだ。そうすれば、この窮地は今後のチャンスに大きく変わる……!
「拙者、命をとして御館様をお守りするでござる……!」
私の精一杯の抵抗の姿を見て、咲音先輩の笑みは大きくなった。
「うふふふふふ。ルカちゃん、いーい度胸だわぁ。あたしに歯向かうとどういうことになるか、身をもってわからせてあげなくっちゃあねぇ」
その鬼気溢れるオーラに、私とるか――だけでなく、裸マフラーでさえ――は思わず一歩下がってしまった。が、もはやこうなってしまえばもう後には引けない。
「……るか。すまないわね」
「その言葉だけで、十分でござる。御館様のためなら、拙者は命を賭けられるでござる」
るかがくない手裏剣を構え、裸マフラーも戦闘態勢に入る。
「ルカちゃん、覚悟しなさい!」
「るか、行きなさい!」
女帝と私の言葉に、再度激突する裸マフラーと忍者るか。
それは、今回の事件に決着をつける、本当に最後の戦いだった。
Japanese Ninja No.1 第25話 ※2次創作
第二十五話
……ルカ嬢に怒られました。でもまあしょうがないと思います。
という話はともかく、次回、最終話です。
これに併せて、せっかくなので、過去に載せた話も修正版に差し替えようかと思っています。今ピアプロ投稿版を読み返すと、やっぱりいろいろとミスも多いので。
それで、どうせなら「ロミオとシンデレラ」の最終話の別バージョンや、「ACUTE」のおまけも載せようかな、と。全更新は大変そうなのですけれども。
それではまた。
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