「・・・・・・」
外はすっかり暗くなり、それでも身じろぎせずにずっと何かを考え込んでいた博士は、意を決したように机の上に置かれている内通電話に手をやり、受話器を上げた。

数分後。呼び出されたカイコは、博士の部屋のドアを2回ノックする。
「どうぞ」
中からの返事を聞いてから、ドアを開けて中に入る。
「何か、用ですか。博士」
元の声より、やや高くなったカイコの声が室内に響く。
「・・・カイコ、・・・・・・こんなことした、私を許して・・・くれるかしら・・・?」
何かを諦めきった博士の言葉に、
「・・・・・・」
カイコは何も言えなかった。言えるはずが、なかった。
「・・・そりゃあ、怒るでしょうねぇ。私がカイコだったら、怒るわ」
「・・・」
揺れるカイコの瞳に、博士は優しく笑いかける。
「・・・・・・今まで考えてたんだけど、カイコ」
「・・・何でしょう、博士」
「カイコ、歌手になりなさい」
「・・・・・・・・・・・え」
博士の突然の言葉に、カイコは当然目をまんまるにする。
「私の知り合いに『VOCALOID』という歌うことを仕事にしてる人たちがいるの。その人たちのところに行って、大ヒットな歌手になりなさい」
「・・・『VOCALOID』、ですか」
「カイコの見た目は『VOCALOID』に例えると、カイトね。名前も一文字違いだし、その人についていってもいいわねぇ」
「・・・カイトさん、ですね、分かりました。・・・博士は、どうするんですか?」
「・・・・・・私は、またここで実験をするわ。カイコには悪いけれど、一緒には行けない」
「・・・・・・・・・・・・・・分かりました」
口ではそう言いつつも、表情はがっかりなカイコに、
「そんな表情するかと思って、これをカイコにあげるわ」
博士は机の引き出しから、何かを取り出して、カイコに差し出す。
「・・・これは、何ですか?」
戸惑うカイコに、博士は答える。
「携帯電話よ。私のもあるから、これで報告してくれれば、返事が返せるわぁ」
「分かりました」
今度は嬉しそうに頷くカイコ。
「さぁ、今夜はもう寝なさい。明日にはもう出発よ」
「そうですね。・・・おやすみなさい、博士」
この時に見せたカイコの笑顔を、絶対忘れないと決めた博士だった。

そして、翌朝。
「・・・では、行ってきます、博士」
「あ、ちょっと待って、カイコ」
研究所の前に出ていたカイコは、不思議そうに博士を見る。
「・・・写メ撮っていいかしらぁ? ・・・できれば、とびっきりの笑顔がいいんだけど」
「分かりました。・・・その代わりに、博士の笑顔を撮ってもいいですか?」
「お安い御用よぉ。・・・最後には、ツーショットも撮りたいわねー」
そうして、用を全て済ませると、
「向こうの人たちには、ちゃんと連絡しておくから安心してねぇ。・・・くれぐれも、迷子になっちゃあ、だめよ?」
「分かりました」
「むぅ、いっつも分かりましたって言葉ばっかり・・・。他にも何か言うことはないのかしら?」
「・・・博士」
「何?」
「可愛くなりましたね。今度、また遊びに行きますので」
「なっ・・・!!」
顔を赤くする博士に、優しく笑いかけた後、
「それでは、お元気で、博士」
そう言って、カイコは博士に背を向け、歩いていってしまう。
「・・・・カイコってば、今度また遊びに来た時は覚えてなさいよー!!」


これが、博士とカイコが交わした最後の会話だった。
カイコを逃した博士は、この後、研究員たちに詰問されたあげく、実験体になるか死を選ぶかという選択を迫られた。




博士が、選択したのは・・・、







「・・・あれから、もう30年・・・。若返ったりして、もう一度学生を体験するとは思わなかったわねぇ・・・」
夜。一人呟く『博士』だった人の年齢は25歳。どう考えても、30年生きてきたようには見えなかった。
「・・・あの子は、元気にしてるかしらねぇ・・・」
携帯の中の写真の一つを眺めて、ため息をつく。
「ただいま、めーちゃん。はいお酒!」
「ネギ特売だったぜー」
「・・・バナナ売り切れって・・・ひどいよね、めーちゃん」
「何言ってんのレン。明日は売れ残ってるよ、多分の多分」
「んー、私のネギ、一ついる? 一つだけなら分けてあげるけど」
「・・・ネギは、いいや・・・」
めーちゃんと呼ばれたその人は、リンからお酒を受け取り、携帯を閉じる。自然と、口元がほころぶ。
「どうしたのめーちゃん。あ、さては、また男作ったんだなー! 私とミクとレンはVCL放送局で忙しいのに、めーちゃんは全くのフリーだから、そんなことばっかり・・・。なんか泣けてきましたにゃー!」
そう言って泣くふりをするリン。・・・にしては、表情が笑っているような気がするのは気のせいか。
「そんなんじゃないよ。・・・ただ、」
「ただ、何?」
「・・・幸せだなって思っただけ」
「は?」
唖然とするリンに構わず、その人はテーブルに転がっていたリモコンを手に取り、テレビをつける。画面にVCL放送局の番組が映る。
「ほら、見ようよ。・・・私、けっこう欠かさずに見てるし」
「へぇ、そりゃ嬉しいよ、めーちゃん。・・・っていうかさ、一つ聞いていーい?」
「何?」
「めーちゃんってさー・・・本気の恋ってしたことある?」
「・・・え?」
「んー、まぁ恋じゃなくても、もちろんいいんだけどね。・・・とにかく、誰かを本気で好きになったこと、ある?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
心当たりが一つ思い当って、その人は黙り込む。それを見たミクは、
「もうリンちゃん、だめでしょ? めーちゃんは色々と事情があるんだから」
「え、何、事情って。リンさん、ちょっと気になりますなー」
「・・・リンちゃんにも、事情があるでしょう? その事情は、人に言いたくないでしょ? それと同じだよ」
「・・・はーい、分かったよー、はい。めーちゃん、ごめんね。そうとは知らず、つい・・・」
「別にいいよ、リンちゃん」
その人は、淡くリンに微笑んで言ったのだった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

日常的環和 22話 物語は終わることは無くまた続きは訪れる その3

こんにちは、もごもご犬ですこんばんは!
昨日後輩にあめをもらってしまった・・・ww
というか、いよいよ12月です、はい。
今年のクリスマスは、多分作品作りかなー?

さて今回は日常的環和です!
いつにも増して、シリアスというか悲しいというか・・・。
今後どうなるか楽しみししててほしいです><

次回は、ツッコミし隊の話が続きそうです! 
お楽しみに!

閲覧数:121

投稿日:2010/12/04 10:35:49

文字数:2,504文字

カテゴリ:小説

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