巨大迷路の辺りを、グミ、グミヤ、リント、レンカの四人はずっとうろうろし続けていた。もうリントレンの二人が迷路に入っていってから随分たっているから、いまさら追いかけたところで迷ってしまうのが関の山だが、それでも出口の近くで張り込みを続けるような集中力や落ち着きを、この四人(特にグミ)が持っているはずも無かった。
「ねー、追いかけたほうが良かったんじゃない?」
「そうだなー…。でも今更追いかけるのもアレだし」
「そのうち出てくるだろ」
 リントがいうと、レンカが軽く手を上げてショルダーバッグの中を探り、財布を探し出すと、
「まだ待ちそうだし、私、なんか飲み物かってくるよ」
「じゃああたし一緒に行く。ぐみやん、ちゃんと見張っててよー」
「はいはい、さっさといってこい」
 グミを軽くあしらって、グミヤはまた迷路の見張りに戻った。

 リンと別れ、十分ほど歩き回っていたレンは、今まで通ってきたのとは違う、どうやら迷路の外へと通じる道を見つけた。出口だ。
「リン、やっと出口…!」
 言いながら振り返って、途端、むなしくなる。
 喧嘩別れしてきたんだっけ。
 出口が分かったんだし、と、引き返してリンを探そうかと思ったが、先ほどのリンの不愉快な台詞が浮かんで、一気に苛立ちがこみ上げてきて、レンはそのまま迷路を出た。
 すると、聞きなれた声が随分近くでして、レンはため息をつきながらも、そちらに目をやった。
 遊園地のロゴが入ったポップなデザインの紙コップを持って、談笑している友人が四人。
「二人とも遅いねー…」
 レンカがいったが、レンに気付くと、声が次第に小さくなっていった。
「はーはーはー、誰が遅いって?」
 四人がこちらを見て、固まった。

「ほう、待ち合わせ場所から俺達をストーキングしていた、と」
 遊園地と言うファンシーな場所で、中学生四人が、背の低い男の子一人の前に正座しているその状況は、そう見られるものじゃなかった。
「ストーキングじゃないよ、尾行だよ」
 グミが訂正する。
「ストーキングというのは、法律上の定義として、追う人間が追われる人間に恋愛感情を抱いているか、強い怨恨を抱いているという前提が必要な行為だから、この場合、誰もお前が好きじゃないっていうか興味がねぇんだから、ストーキングじゃねぇよ、尾行だ」
「わぁ、リントくん、説得力あるね」
「無駄な所で知識披露しなくていいんだよ!! っていうか誰も俺が好きじゃないとか興味ないとかやめろ! 傷つく!!」
 さっとリントが引いて、怖がるレンカはレンをプルプルと震えながら見上げていた。
 いつに無くイライラしたレンに、グミヤはずっと気になっていたことを聞いた。
「お前…、リンはどうしたんだよ?」
 はっとして、一瞬、レンの表情が曇った。そして、フイと視線をそらして、
「…別にいいだろ、どうでも」

 家に帰ってくると、当然ながら、電気はついておらず、がらんとしていてくらい。無音で肌寒い空間が、不思議と不安と物悲しさが膨らんでいく気がした。
「ただいまー…」
 半ば癖のように呟いたが、そこに帰してくれる人はいない。空虚に響いて消える。
 レンは電気をつけて、リビングのソファに身を投げ出すように飛び込むと、そのままゆっくりと眠りの中に引き込まれていった…。

 雨音が近づいてくる。
 ふとレンは顔をあげた。目の前の窓は雨に濡れている。雨粒が窓をたたく音がうるさい。
ああ、雨が降ったんだな、と漠然とレンは思ったが、それからすぐに起き上がって、玄関を見に行った。自分の靴とリンの靴がある。…でも、今日、リンが着てきたあの靴はない。まだ帰ってきてない?
 レンは携帯をとると、リントに電話をかけた。
「――もしもし、どした?」
「あのさ、そっちにリン行ってない?」
「――は? 来てねぇけど。…かえってねぇのか」
「大丈夫、多分どっか寄り道してるだけだろうし。じゃ、ありがとな」
 レンは通話をきって、今度はグミヤに電話をした。
「――リン? きてねー。グミもここにいるから、グミん家にもいねーぞ」
「そっか…。分かった。ありがと」
 再び通話をきる。
 友人の元にはいない。遊園地で一人で遊んでいるのか? だとしたら、リン一人では、女の子が一人遊びするのはよくない。
 そう思ったとき、どこかで雷が鳴った。
 跳ねるようにレンは丸まっていた背中を伸ばした。そして、携帯をポケットにねじ込み、斜めがけのリュックを乱暴にひったくると、家を飛び出した。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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Some First Loves 19

こんばんは、リオンです。
いやはや本格的に年末が近づいてきて、忙しいですね。
大体この小説季節感無視しすぎだろって結構前から気付いてましたよ。
土地によってこの次期の気候も違いますもんね。
こちらは毎日のように雪が降ってますが…、どうやら六人は違うようです。
六人が熱すぎるから雪も解け、蒸発してしまうのでしょうか。
いいえ、私の計画性が無いだけです(蹴

閲覧数:315

投稿日:2011/12/28 23:44:31

文字数:1,870文字

カテゴリ:小説

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  • 美里

    美里

    ご意見・ご感想

    ストーキングではない!尾行だ!

    いや、リント君、知識をひけらかすのはいいけど尾行してんだから興味はあるだろ!
    グミヤ君!もっと空気をよめ!いまそれを言うか、普通!

    リンちゃん!
    早く帰りなさい!
    君を待っている人がいるんだから!
    家でリンちゃんが帰ってくるのを待ちたい人間が一人。


    季節感なんて無視していいんです!
    こちらも雪がちらちらと降っています。

    次回のリンちゃん救出劇を楽しみにしています!

    2011/12/29 15:16:01

    • リオン

      リオン

      返信遅くなってごめんなさい!
      Not.ストーキング、Yes.尾行!

      いやリントくんはレンカちゃん以外には興味ないです。
      グミヤは一番まともなので、一番的をいたことを言ってくれます。あくまでまともです。

      リン! 早く帰ってくるんだ!
      レンが君を援けに行ったら、レンまで迷って遭難してしまうぞ!?(ぇ
      ここにも双子を待ちたい人間が一人 ノシ

      いや、よくは無いと思うんですが…(笑
      全国的にも冬で寒いですからねー。風邪などにお気をつけください。

      きっとレンがいい働きをしてくれますとも!!

      2011/12/29 19:56:37

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