今から8ヶ月前の、2020年、9月19日。
 空軍に所属していた俺はその日、ある運命的な任務を任された。
 だが任務は、成功しえなかった。
 ある思いがけない事件によって、俺は任務を達成しきれずに・・・・・・。
 生死の境を、彷徨った。

 ◆◇◆◇◆◇
 
 <<こちらレッド1。現在、高度3万フィート。速度800ノット。興国上空に到達。目標地点到達まで、残り、3分。機体各部に異常なし>>
 <<了解レッド1。目標地点上空に到達と同時に隊員を降下させろ。>>
 <<レッド1、了解。>>
 
 ◆◇◆◇◆◇
 
 足元からは絶え間なく、地響きにも似た唸るような振動が俺の全身を伝っていく。それは僅かながら、高鳴る胸を落ち着かせるものだった。
 視界に映るものは言うまでも無く鉄の壁で。細長い通路のような機内、XC-2という戦術輸送機の中に閉じ込められて一時間が経過した。
 小さなパイプ椅子に腰掛け、俺はただ振動に揺すぶられながら、機内のスピーカーからパイロットの声が鳴り響くのを待ちわびている・・・・・・。
 頭部にはヘルメット、胴体にはパラシュートが装着され、スーツには装備類。既に準備は整っている。目線3メートル先の機体後部ハッチも、すぐにでも開放できる状態に違いない。
 今から俺は戦場へと赴き、そこで、ある一つの任務を達成しなければならない。
 俺にとっては、今から開始される任務の達成よりも、それから生還することのほうが重要だ。
 俺はどうしても生きて帰らねばならない。そうと約束した人間さえいる。任務達成も大事だが、彼ら彼女らとの約束に比べれば軽いものだ。
 この先何が起ころうと、俺は生きて帰る。俺の決めた最重要目的だ。
 生きて帰れば・・・・・・また・・・・・・。

 ◆◇◆◇◆◇
 
 今から24時間前、俺は所属している空軍基地の司令に、個人的に命令を受けた。
 他人の全く存在しない二人のみの対話。しかもそれは、声無き会話だった。
 <<貴方は、今回実行される任務に参加してもらいます。>>
 直接俺の頭の中に響くその声。
 今回実行される任務というのは、日本防衛軍が陸海空総出で参加する大規模な任務のことだ。
 何故そこまで大掛かりなものなのか、俺にも全て理解できなかったが、どうやら軍にとってよほど重要なものらしい。
 軍と密接な関わりにある、とある企業との計画。それの最終仕上げ、としか判断できない。聞いた話では・・・・・・。
 司令は話を続けた。その話に、俺はただ答え、質問し納得するのみだった。
 <<貴方には陸軍の協力で、今回作戦が実行される重要施設に対し、単独で潜入してもらい、目標を達成してもらいます。>>
 「ある目標?」
 <<ここの制圧に、陸軍の空挺部隊が当たります。貴方は彼らの突入経路を確保してもらいたいのです。警備、セキュリティーの一切を排除するのです。>>
 「・・・・・・工作任務なら、俺に頼むことではないでしょう。」
 <<ところがそうも行きません。このような仕事に就けるような工作員、そしてそのような人員を所有する部隊も、今の日本にはありません。ですから、過去に訓練をし、かつ空軍で用意できる人は、貴方しかいません。>>
 「・・・・・・。」
 <<それでは、ことの概要は大体お話したので、本格的なブリーフィングに入ります。>>
 部屋に設置された巨大な液晶モニター。任務のことは、そこで全て説明された。
 後は、現地に到着してからの無線サポートだという。

 ◆◇◆◇◆◇
 
 <<シック1。目標地点上空に到達。グリーンに備え、降下準備をせよ。>>
 機内の振動音と俺の思考をかき消し、一気に緊張を増幅させる無線が機内に響いた。
 俺は音も無く立ち上がり装備類の状態をチェックした。異常なし。確認と同時に目前にある機体の後部ハッチへと進み出る。
 頭上には、照明の少ない機内を紅く不気味に照らすランプが点灯している。
 そして、甲高い機械音を機内中に轟かせ、後部ハッチは、ゆっくりとその身を開いた。
 その先には、丁度その身を沈めた太陽の残す僅かな日差しが、空を紅く染めている。もうすぐ、その光は完全に消え去り、完全な闇夜が空を包むだろう。
 <<グリーンまで、5秒。3、2、1。>>
 その声が終わった瞬間、あの紅いランプが緑へと色を変えた。
 <<シック1、降下せよ。>>
 無線は俺を戦場へと駆り立て、言われるまでも無く、俺は夕日に染まる天空へと駆け出した。
 生きて帰れば・・・・・・また・・・・・・君に会えるから。
 俺は、夕日で朱に染まった高度三万フィートへ身を投げ出した。
 一瞬、体は無重力を味わい、ひして奈落の底に突き落とされる感覚に襲われた。
 スーツに凄まじい衝撃が走り、ひたすら地上へと落下していく。
 体を直線に伸ばすと、空気抵抗が無くなり、俺の体は限りなく加速していく。まるで、鳥になったように。
 眼下には広大な森林が広がり、眼前に迫り来る。
 俺は五体を広げた姿勢になった。空気抵抗が一気に増幅し、落下のスピードが緩まった。
 そのとき、俺の背中と腹部に装着していたパラシュートが破裂音と共にバックから解き放たれ、俺の頭上で全開した。
 そして、俺の体はゆっくりと、滑空するように、森林の中へと引き込まれていった。
 だが、着地できる場所が無い。
 見ての通り、眼下は木々で覆われている。
 次の瞬間、俺の体は森林の木に巻き込まれた。
 「ぐッ!」
 木々の葉を突き破り、体は大地へと進み出た。
 そのとき、パラシュートのワイヤーが何らかの衝撃で緩んだことを知った。
 パラシュートから開放され、俺は地面に転がった。
 そのとき、腰の辺りで、何かが割れたような音がした。
 すぐさま両手と肩膝で枯れ草の感触と共に大地をつかみ、体を静止させた。
 ゆっくり立ち上がると、俺は体に巻きついたワイヤー類をもぎ取り、その場に落とした。
 そして、ヘルメットも同じく、頭から取り外すと、その場に捨てた。
 遂に俺は戦場にたどり着いた訳だが・・・・・・。
 俺は、今回の作戦指揮を取っているある人物に向け、無線を作動させた。
 ただ、頭の中で考えるだけでいい。
 「こちらシック1。大佐・・・・・・聞こえるか?」
 <<聞こえます。シック1、いえ、タイトさん。>>

 SUCCESSOR’s OF JIHAD

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SUCCESSOR’s OF JIHAD 第一話「HALO降下」

ちょっと早すぎたかな?
というわけで、続編です。ジャンル戻っている上に時間も遡ってます。
「Sky of blackangel」を読んで頂ければ(特に三十五話)理解が深まると思います。
で、この人は帯人さんです。好きだ。
ちなみにこれからコメント下に記述する解説には、多少の知識を要します。



 「XC-2」【架空】
 2013年から開発され、2018年に空軍でC-1の後継、次期C-Xとして正式採用された国産戦術輸送機。主に空挺部隊、貨物物等の輸送に運用される。
 輸送能力のほかに対地兵装、地、空への指揮能力も備える。
 その汎用性から、C-130Hとの交代も考えられる。
 C-1で懸念されていた航続距離をはじめとする各性能が向上しており、他に最大搭載重量と機動性が強化され、防御兵装、対電子妨害装備、対地兵装用ハードポイントが新たに追加されている。
 航空力学を見直し、機体の形状はC-1よりかなり変貌を遂げた近未来的な流線型フォルムを有する。そのせいか、低被発見性も幾らか向上している。最大の外見的変化はエンジンが双発から出力が強化された四発に増加したことである。翼端部分もC-17のように跳ね上がっている。
 退役が進んでいるC-1とC-130Hと交代する形で配備されていく予定だが、C-1より価格と運用費が倍近くになってしまったことから配備数の伸びは悪く、機体コストの削減が今後の課題となる。 



閲覧数:574

投稿日:2010/09/13 00:53:22

文字数:2,653文字

カテゴリ:小説

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