ハルジオン① 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
プロローグ
それは夜。ハルジオンが野に咲き誇り、街を、そして野山を白く、黄色く染め上げていく季節。世界を淡く銀色に染め上げる満月の光が、人の身長の二つ分はあるだろう大型のガラス窓で覆われた王宮の一室を照らし上げた。その光に照らされた人物は男性一人。物音は無い。唯一、彼が苛立ったように足踏みをする行為によって発生する音以外には。
まだか、と彼は考えながら、彼は目の前にある、固く閉じられた扉を眺めた。もう何度目になるか分からない行為であった。視線を送ったところで扉が開くものでもないとは分かっているのだが、それでも早く結果が出ないものかと、まるで試験後の学生のような表情を浮かべ、そして溜息を彼は漏らした。
その時である。
「国王陛下!お生まれになりました!」
ようやく開かれた扉の奥から文字通り飛び出して来た女官が、汗だくになりながらそのように告げる。ようやく生まれたか、と安堵の表情を浮かべた国王は、女官の前であると思い直し、一瞬で表情を引き締め直した。
「して、男子か?」
国王は女官にそう訊ねる。極力普段通り、威厳のある声で。
「双子でございます!男の子と女の子、まるで玉のようなお子様でございます!」
双子、という現実に多少の驚きの表情を浮かべながらも、国王は女官に向かって了解の意を示してから、王妃が休む寝室へと入室した。王妃の表情は落ち着いている。どうやら安産であったようだ、と考え、国王は王妃に向かって一言述べた。
「よくやってくれた。」
人生最大の大仕事を無事に終えたことに王妃自身も安堵したのか、王妃は安らかな表情で国王を見つめ、そして疲労の為か吐息の交じった声でこう答えた。
「はい・・。ありがとうございます。」
その王妃の返答に一つ頷くと、国王は待ちきれぬ、という表情で、王妃が休む寝台の隣、二回りほど小ぶりな寝台に寝かされている、自身の初めての血を分けた子供達の顔を覗き込んだ。なるほど、女官が表現したように可愛らしい表情をしている。普段は威厳を隠さない国王ではあったが、この時ばかりは親としての本能が優先したのだろう。反射的に口元を緩めたことを自覚しながらも、国王はまじまじと双子を眺めまわした。
その時、国王は気が付いてしまった。
男の子の右手に刻まれた、星型の痣に。
生まれた時に発生している痣は不吉の印、という言い伝えがこの国にはある。しかも第一王位継承権を持つ皇太子候補に痣が。何かの凶兆か、と国王は考え、緩めていた口元が否応なくゆがむことを彼は自覚した。
「どうされましたか?」
国王の表情の変化を目ざとく発見した王妃は少し不安げにそう言った。どうやら王妃は右手の痣に気が付いていないらしい。ならば、今余計な不安を与えることでもあるまいか、と考え、国王は無理な笑顔を作ると、こう言った。
「子供という存在は不思議なものだ。つい、国王としての責務を忘れそうになってしまった。」
誤魔化しだな、と思いながらも国王はさらに言葉を続ける。
「さあ、今日は疲れただろう。ゆっくり休むといい。余は明日の朝にでも顔を出そう。」
そう言い残すと、国王は背を向けて歩き出した。
王妃の寝室から出ると、国王は扉の前で従者を呼んだ。一人の青年兵士が何事かと駆けつける。その兵士に向かって、国王は一言。
「ルカを呼べ。謁見室だ。」
「は。」
敬礼をしながらそう答えた従者は彼が今来た方向へと駈け出してゆく。
気のしすぎであれば良いが。
大理石造りの廊下を駆けてゆく従者の背中を見ながら、国王はそう思わずにいられなかった。
国王は心に湧き起こった不安を隠しきれずに、王宮の三階に用意されている謁見室へと到達すると乱暴に玉座に腰を落とした。彼の権力の象徴である玉座はこの国にあるどの椅子よりも豪華で、更に長時間着席していても疲労が少なくなるように設計されている。その椅子であっても、謁見室の中央に吊るされている幅五メートルはあるだろう、国の名工が丹精込めて作成したステンドグラスの淡い光も、彼の心の中に湧きあがった黒いタールの様な不安を消し去ることはもちろん、薄めることもできはしなかったのである。とにかく、知恵のある人間に相談しなければならない、と国王は一つ呼吸をして、目的の人物の到着を待った。
目的の人物は国王が玉座に腰を落としてからおよそ五分後に現れた。桃色の髪に色香の漂う瞳、そして全身黒づくしの衣装とフード付きのマントが特徴の、年の頃は二十歳前後に見える女性である。
「よく来てくれた、魔術師ルカ。」
国王は一言目にそう告げる。ルカと呼ばれた女性は慇懃な一礼を行うと、口を開いた。
「この様な夜更けに、いかがされましたか?」
「先ほど、余に双子が生まれた。」
「おめでとうございます。」
それが本題ではないでしょうに。ルカはそう思いながらも、素直にお祝いの言葉を述べた。
「男子と女子だ。しかしながら男子の右手に星型の痣があった。これは吉兆か、それとも凶兆か?」
動揺を隠しきれない様子で、国王はそう告げた。相当の焦りを感じているのか、国王の口調が僅かに早くなっている。
「大凶兆でございます。」
ルカはためらいなく即答した。
「やはり。」
「特に星型の痣となれば、この国に大いなる災いをもたらすでしょう。」
「なんと・・どうにかならぬのか。」
口内が乾ききっているのか、多少かすれた声で国王はそう言った。
「今のうちに亡きものにすれば、凶兆は去りましょうが・・。」
焦りの表情を隠さない国王とは対称的に、あくまで冷静にルカはそう告げる。
「・・それは出来ぬ。別の策はないのか?」
やはり国王陛下も人の子か、と思いながらルカは思案し、そして一言、ルカは次善案を国王に告げた。
同じ頃。
遠く離れた別の国で、一人の幼女が顔を上げた。
年の頃は五つにも満たないだろう。満月と同じような色をしている銀色の髪をポニーテールにした幼女は、深夜にも関らず一人、数千年の時を刻んでいるだろう巨大な樫の木のふもとで、ぼんやりと月を眺めた。
やがて、幼女は僅かに瞳を落とすと、地上に咲く、白い花を手に取った。
ハルジオンである。
そして彼女は小さく、こう呟いた。僅かに瞳を濡らしながら。
「生きていて、ごめんなさい。」
ハルジオン① 【小説版悪ノ娘・白ノ娘】
前作からお読みかた、ここでハルジオン登場です。
前作とどう絡むかは今後の展開をお楽しみくださいませ☆(多分相当時間がかかるはずです。忘れた頃に絡みに気が付くかと・・。)
一応確認ですが、バンプオブチキンの曲じゃないですヨ。
小説版『白ノ娘』です。
といっても、以前から読んでいただいている方は間違いなくこう思われたはず。
前にも読んだな、と。
ええ、そうなんです。
以前投稿した『小説版悪ノ娘』を改良しただけの作品なのです。
つまらなくてごめんなさい。。。
一応、前作の手直し(ひどかった誤字脱字等)の修正と、追加エピソードを加えてあります。完全版と言うことで・・ご容赦ください。
ということで、しばらくは初回投稿作とほぼ変わらないストーリーになります。
前作でミクが登場する辺りから大幅にストーリーが変わって来るはずですが、基本的な流れは変わりません。
ご容赦くださいませm(__)m
コメント1
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ご意見・ご感想
H_VOCALOID_l
ご意見・ご感想
ちょっとびっくりしましたw
これからどんどん読んでいこうと思っているので、よろしくですw
2010/04/03 19:10:48
レイジ
早速ありがとうございます☆
ちなみにまだ完結しておりません^^;
気長におつき合い頂ければ幸いです。
宜しくお願いします!
2010/04/03 19:35:05