ある晴れた日の昼下がり。
 ミクは姉と共に本を読んでいた。しかし、その本と来たら難しい言葉ばっかりで、十六歳のミクには理解できないものがあまりに多すぎた。次第に、木陰の木漏れ日の暖かさと頬をなでる風の涼しさに、夢の世界へと引き込まれていった…。

 ふと目を覚ますと、姉のほうも眠ってしまったらしい。退屈になってしまった、とミクがあくびをしているところを丁度よく、何かが横切っていった。
 茶色のチョッキ、金と銀のバッジとチェーン、それに兎の黒い長い耳を付け、ズボンにつけたチェーンにはふわふわとしたウサギの尻尾のような飾りがついている。その容姿と懐中時計を持ってあわただしくかけていく自分と同じほどの年齢の少年は、ミクの好奇心に火をつけた。
 気付かれないように気をつけながら、少年の後をついていく。時折不安そうに辺りを見回したり、泣き出しそうな表情になりながら、少年はそう早くもない足で走っていた。どこか自分に似た容姿をした少年は、端正な顔立ちで、格好いいというよりかはかわいらしいというような雰囲気だ。小柄な少年は白いワイシャツを着ているが、どうもサイズが合わないらしく、手のひらが出てきていない。出ているのは指の先っちょだけだ。
 どうにかバレずについていくと、少年は何度か辺りを注意深く見回し、しゃがみこむと、かるくジャンプするようにして、消えてしまった。驚いてミクが出て行くと、そこには人が無理して二人は入れる程度の大きさの穴があり、深さは…真っ暗でよくわからない。兎に角、とてつもなく深いと言うことだけはわかった。けれど、あの少年は迷った様子などなかったから、命に関わるような深さではないのだろう。意を決し、ミクはその穴に飛び込んだ。
 お気に入りの若草色のワンピースに白いワンピースをはためかせ、ミクはひたすら下に落ちていく。不思議と恐怖感はなかった。どうにかワンピースがめくれるのを押さえ、ミクが落ちた場所は、ひとつの部屋の中だった。驚いてミクが上を見ると、穴などどこにもなく、ただ殺風景な一部屋だった。近くには木製のテーブルがひとつ、向かいの壁には一つ、小さな扉があった。どうもミクでは体が大きすぎて入りきらない。あるのは取っ手と鍵穴のみだ。
 みると、テーブルの上には一つの薬瓶とグラスが一つずつおいてあった。横には金の鍵がある。どうやらドアの鍵らしい。薬瓶のラベルには、なにやら文字が書いてある。薬瓶を手にとり、ミクが目を凝らしてみてやると、薬瓶に書いてある言葉はこうだった。
『劇薬、扱い注意。体が縮みます』
 それは、ミクの旺盛な好奇心を刺激するのにはあまりに十分すぎた。一応、毒とか、危険そうな記述はないか(劇薬と言う時点で危険なのだが)を確認し、ミクはグラスに少しばかりその薬を注ぎ、一気に飲んだ。
 驚いたことに薬は美味しいものだった。そのまま全部薬瓶の中身を飲み干してしまおうかと思った。
 ところが、ミクは大変なことに気がついた。いつの間にやら二十五センチメートルほどに縮んでしまっていた。小さな、小さなミクは、ドアから出ることもできるのではないかと思われた。鍵穴だ。しばらく待ってみて、もっと縮んだりしないかと様子を見てみたが、もう縮みはしなかった。安心して鍵穴によじ登り、外に出てやろうと頭の中で計画を練り始めると、ミクの頭に一つの問題点が浮上した。ここを出てから、この体の大きさでどうやってどこにいこう。もしかしたらそとには肉食獣がいるかもしれないし、小さな動物を食べる虫や魚がいるかもしれない。そうなったら、死んでしまうじゃないか。どうにかテーブルの上によじ登ると、そこには今のミクに丁度よいサイズに小さなケーキがおいてあって、こちらもおいしそうだ。それを食べると、またミクの身体に異常があった。こんどは一気に巨人のように大きくなってしまったのだ!部屋にぎゅうぎゅうと一人ですし詰め状態になって、ミクは息が苦しくなるほどだった。
 ミクはその息苦しさと、このままもどれないのでは、という恐怖がどっと押し寄せてきて、ついに泣き出してしまった。大きなミクが流す涙はこれまた大粒で、すぐに大きな池が出来上がっていた。
 一通りなき、ミクは心の中で自分を叱咤激励し、
「何を泣いているの!これくらい、大したことはないじゃない!」
 軽く頬を叩いた。
 ふと、足元に目をやると、見えなくなってしまいそうな小さな何かが落ちていて、ミクはそれを手にとり、しげしげと眺めた。どうやら扇子らしい。どうもミクが持つとミニチュアのようだ。
 泣きじゃくってほてった顔を、気休め程度に扇子で扇いだ。心地よい涼しい風が流れてきて、ミクは少しほっとした。すると、驚いたことに、ミクは何時の間にか体が縮んで、最初穴に落ちてしまったときの身長に戻っていたのである。
 ミクは喜んだ。
 そして、金の鍵を手にとると、ドアを恐る恐る開いた。そこはどうやら森の入り口近くらしく、左を向けば深い森、右を向けばレンガ造りの塀がずぅっとむこうまで続いていた。
 森のほうへ歩いていくと、本当に凶暴な肉食動物でも出てきそうで恐ろしかったので、ミクは塀のほうに歩いていった。塀はずっとずっと向こうまで続いていて、一体どこに行けばこの塀は終わるのだろうと思われるほどだ。
 赤茶で美しく作られたレンガの塀は、ミクの背丈をゆうに越えていて、塀の上を見ようと思うと、少し下がって見上げなければいけない。随分不便な塀だわ、と思いながら、ミクは辺りを見回す。やはり、穴などはどこにもなく、ミクはため息をついた。あのウサギを見つけて、戻る道を聞き出すしかないか、と半ば諦め半分にため息をつき、顔を上げた。
 その勢いに乗って、長く続く塀の向こう側に黄色い何かが動いているのが見えて、ミクはそちらへと歩き出した。
 ああ、この世界は不思議なのね!
 体が小さくなったり、大きくなったり、元に戻ったり!
 こんなに長い塀も、あんな深い森も見たことがないわ!
 お姉ちゃんの難しい本よりも、ずっと楽しくて、ずっと『実用的』だわ!

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

Fairy tale 1

こんばんは、リオンです。
今回はありがちかと思いながらも不思議の国のアリスです。
まず、最初に断っておきますが、リオンは原作を読んだことがございません。
一応ネットで調べてはありますが、多くの捏造された点などがあります。
主人公は十六歳ではなく、原作では七歳ですし、ウサギは黒ではなく白、
瓶に書いてある言葉も『劇薬注意』ではなく『飲んで』と書かれているのだそうです。
以上のことからわかるように、捏造が多いです。
それでもよければ、明日からも見てやってくださいー

閲覧数:805

投稿日:2010/02/19 23:02:48

文字数:2,506文字

カテゴリ:小説

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  • 癒那

    癒那

    ご意見・ご感想

    リオンさんテスト終わったんですね……
    私は来週です……
    テストは今回だけ音楽がプラスされるのでなんとかいけそうです……


    不思議の国のアリスはグロいのしか読んだことありません。なので楽しみです♪

    では今から塾行ってきます………

    2010/02/20 12:53:59

    • リオン

      リオン

      癒那さん、来週ですか、頑張ってください!!
      私も音楽ありました。しかしながら何故、得意科目の美術がないのかが疑問です。
      日本の教育システムにも欠点があったということでしょうか、美術。

      ああ、確かにグロいの多いですよね。
      人柱アリスとかもありますし。塾頑張ってくださいね♪

      2010/02/20 14:41:44

  • 流華

    流華

    ご意見・ご感想

    アリスですね!!
    アリスはキャラが好きなんですが、物語を読んだことはありません!
    興味はあるんですけどね…。

    続き、楽しみにしてます♪

    2010/02/20 00:42:16

    • リオン

      リオン

      流華さん、アリスです!!
      いいですよね、アリスは。
      どうも原作では独り言が多いみたいですが(笑

      続きも頑張りますー

      2010/02/20 14:39:32

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