その夜、リントは家に帰らなかった。
 帰らなかったと言っても、ネットカフェで一夜を明かしたとかそういうことではなくて、レンカがそろそろ眠っただろう、と言う時間になるまで、外で時間をつぶしていたのである。
 そして、リントが家に帰ると、時計は既に午前の一時半を回っていた。
レンカと顔を合わせるのが気まずくて、思わず露骨に避けてしまった。同じ家に住んでいる以上、二人がまったく顔を合わせない状況を作り出すことはまず不可能である。
「ただいまー…」
 誰にともなく、半ば癖のようなものでリントが上げた声に反応するように、リビングで何か音がした。そして、少しして、リビングのドアが開いてレンカが顔を出した。
「リントくん!」
 あわてて、リントは脱ぎかけた靴を履きなおして、後ろ手にドアを開き、家を飛び出そうとした。とっさに、反射的な反応だった。しかし、リントの手を、レンカが止めた。
「まって!」
 足が凍りついたように動かなくなった。
「あのね、リントくん」
 少し気恥ずかしそうに、改まってレンカがいった。
「私――リントくんに謝ろうと思ってたの。…この間は、ごめんなさい。
 リントくんは心配してくれたのに、私、自分のことしか考えられなくて…」
 リビングから洩れて来る橙色の暖かい明かりは、レンカの横顔をほの暗く照らし出していた。わずかに寂しそうにすら感じる表情だった。
「ごめんなさい…」
 言ってから、レンカは次のリントの言葉を待たず、ぱっと明るい笑顔を作ってリントのスクールバッグを持つと、リビングを指差した。
「晩御飯、まだでしょ? 今、暖めるね」

 少し、安心。
 なんとなく、いつものレンカが、あるいは日常が戻ってきたような気がして、リントはほっとしていたのである。
 リビングに戻っていこうとするレンカは、先ほどまでリントをつなぎ止めていた手を、するりと解いた。思わず、リントはその手をつかんでいた。
「…リントくん?」
 戸惑っているレンカの声がした。
 リントは手を引いてレンカを引き寄せると、ぎゅっとレンカの小さな体を抱きしめた。
「どうしたの…?」
 そのまま、二人はその場に崩れるように膝立ちに成り、最後には座り込んでいた。
 やはり戸惑ったままのレンカは、それでも、ぎゅっとすがりつくように抱きしめてくるリントの頭を、軽くなでた。母親が小さな子供にするように、優しく。
「…嫌われたかと…思った…!」
 声が震えている。いつものツンツンした、とげとげしくもある威圧感は鳴りを潜め、リントはただ子犬のように、懸命に震えをこらえようとしていた。
 彼の父――今は自分の父でも在るが――から聞いた。
彼は母の死以来、孤独だった。対人関係には驚くほど子供っぽくて、単純。
「――大丈夫、私、リントくんのこと嫌いになったりしないよ。大好きだよ」
 語りかけるように言うと、リントは何度か軽く頷きながら、呼吸を落ち着けて、ゆっくりとレンカから離れた。
「…ご飯、たべよっか」
 にこりと笑ってレンカがいった。リントは何も言わずに頷いた。

 次の日の朝、二人は何事もなかったかのように、いつもどおり二人一緒に登校してきた。
「仲直りできたんだね、おめでと」
「告った? 告った? 告った?」
「告ってはないけど…。でも、ちゃんと謝れたし…」
 言いながら、レンカは笑った。柔らかい笑顔だった。

「レン」
 帰り道、リンがいった。レンが顔をあげて、リンを見た。
「…なんでもない」
 そう、といって、レンは手元の文庫本に目を落とした。
「歩きながら読むと危ないよ」
「うん…。わかってる」
 わかっていないから読んでいるくせに。内心毒づきながら、口に出すと理詰めではレンに勝てないので、全部心のうちに秘めたままにしておく。
 しばらくして、レンは本に栞を挟むと、パタンと閉じた。そして、太めに入ったケーキ屋の前で足を止めて、
「ケーキ、買っていこうか」
 と言った…。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

Some First Loves 12

こんばんは、リオンです。
遅くなりましたが、今日の分です。
リトレカは結局元の鞘にもどるみたいです^^
いつもツンツンな男の子が突然女の子にぎゅっとしてくるのすごく可愛いです。
男の子が泣きそうなのを見てみぬフリをしてくれる女の子もいい。
結論「リトレカ可愛い」。

閲覧数:272

投稿日:2011/12/14 23:32:19

文字数:1,648文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

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  • 美里

    美里

    ご意見・ご感想

    リント君おめでとう!

    こんばんわ。今回も良かったです。
    深夜まで睡魔に勝ちながらリント君を待っていたレンカちゃん凄く萌えます。
    レンカちゃんに嫌われたかと思って泣いたリント君も破壊力が凄いです。二人とも激萌えです。

    仲直りしてよかったです!あー、もう早くくっつけばいいのに。両想いなのに!!
    リトレカ超可愛い!!

    次回はあまり出番が無かったりするグミヤ君を待ってます!
    楽しみにしてます!

    2011/12/15 20:24:03

    • リオン

      リオン

      リントくん本当におめでとう!

      レンカちゃんが不安そうに時計を見てるところとか、仲直りした後泣いてないと言い張るリントくんとか、
      それを見て菩薩の如き笑顔を浮かべるレンカちゃんとか、想像すればするほど萌えすぎます。

      でも両片思い! 完全にくっつくより、微妙な距離感がすごくいいです!!
      リトレカ可愛い!!(殴

      ミヤグミ編は又後ほど^^
      次からもよろしくお願いしますー^^

      2011/12/16 00:55:29

  • アストリア@生きてるよ

    リント君マジ萌え。レンカちゃん超萌え。リトレカ激萌え。

    いきなりごめんなさい、言いたかったんです…ww
    だって、深夜までリント君の事待ってるレンカちゃんも、嫌われたかと思って泣きそうになるリント君も、萌えたんです、萌えるんです、可愛かったんです!てか可愛いんです!!←

    あー、仲直りしてよかったー……何だかんだで両想いじゃないか!気付いてないだけで!!全く、萌え禿げてしまうではないかっ!!((((((タヒ

    あのラストを見るに、次はリンレンメインでしょうか……?楽しみにしてます!!

    2011/12/15 16:51:42

    • リオン

      リオン

      返信遅くなってごめんなさい!
      リトレカは正義!!(笑

      レンカちゃんもリントくんもお互いのことが好きで好きで仕方が無いです。
      リントくんはちょっと子供っぽいです、小さい子供が親にぎゅぅっとするのとおんなじかんじです。

      両片思いってどうしてこんなに心躍るんでしょうか。

      次は皆でまたわいわいがやがやです^^

      2011/12/16 00:52:02

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