〈シャングリラ第二章・四話③~続々・マスターの試練~〉
SIED・KAITO
「突然だけど、今後あなたたちには別々の部屋を使ってもらうことにするわ、」
「「…………え?」」
所長さんは、一体何をいっているのだろう…。
別々の部屋?俺とマスターが?離れて暮らす?
「何故ですか!?」
「なんでだよ!」
ああ、マスター、あなたも同じ意見なんですね、嬉しいです!
俺の抗議とほぼ同時に、彼女が少し声を荒げる。
「カイトの作るおいしいご飯、食べられなくなるじゃんか!!」
…そこなんですね。
「私だって本当は、あなたたちの仲を裂くようなことはしたくないのよ、でもねぇ…、」
所長さんが傍に控える正隆さんに目配せすると、彼は困ったように頭を掻いた。
「ちょっと…二人とも仲良すぎっていうか…結構人目もはばからず、ベタベタしてるところがあるから、距離置いたほうがいいんじゃないかなぁ、って、」
「「……………、」」
言われてみれば、思い当たる節がある。いや、思い当たる節しかない。
俺はとにかくマスターに触れているのが好きだ。
髪、肩、腕、手、背中、…場所は選ばず彼女の温もりを感じるだけで、どんな状況でもとりあえず安心できる。
(基本、マスターも常に俺の好きなようにさせてくれるから、ついTPOは忘れていたけど…)
そんなにおかしいことだろうか。
「ここでする分には…まぁ、問題ないけど、この先カイトの職場でそれやられちゃったら、いろいろ世間体とかさ、よろしくないっていうか…、」
「一歩外に出れば、あくまでも篠武さんはカイト君の『マスター』…保護者でしかないのよ。あまり人目を引くような行動は慎まなきゃ、ね?」
確かに、周りから見た俺たちの関係と、自分たちが認識するそれとは大きく異なるのは容易に想像がつく、二人の言い分は最もだ。
「つまりアレだろ?外ではビジネスライクな関係を装えばいいんだろう?……んー、」
マスターが面倒くさそうにため息をつくと、俺を見上げて何やら思案している。
まさか、こんな提案同意しませんよね?いくら何でも無理です。できません。絶対に嫌です。もし万が一そんな事態に陥ろうものなら、フラグ立てますよ。お客様の中にどなたかアイスピックをお持ちの方は…。
「わかった、カイト。お前、オレに触るの禁止な。あと口説くのも禁止、」
「えええええええええ!!??」
それは俺に死ねと言ってるんですか!?
「だってしょうがないだろ?じゃないとおいしいご飯が…いや、一緒にいられなくなるし、」
ご飯って…、ですよね、引き離されるのは困ります。
でも、でもでもだからってあんまりじゃないですか!?
俺の絶望感が思い切り顔に出ていたのか、彼女が必死に言い募る。
「でもほら大丈夫、部屋に帰れば何してもいいから、」
「…何しても?」
そうか、要は対外的な問題で、二人きりになりさえずれば…。何してもいい、何しても…。
「だからね、加奈さん!カイトには自制させるし、オレも気を付けるから…ご飯…、」
「そうねぇ、なら少し様子見るけど、不適切だと判断した時点で、別居してもらうわね、」
「やたっ!ありがと、加奈さん!」
喜ぶマスターを尻目に、俺は深く項垂れると、肩を落とした。自制か…果たしてできるのだろうか。いや、しなくては更なる地獄が待っている。
「とりあえずカイト君、まずはその手を離しましょうか、」
「!!!!!」
っと、無意識にマスターの腕を掴んでいた…危ない、これは本当に意識して気を付けなければ。
多分所長さんのことだから、容赦も妥協もしないだろうし…当分はマスターの半径1m以内には近づかないほうが賢明だな。
もうこれ、マスターの試練なんかじゃないですよね、タイトル間違ってますよ!俺の試練じゃないですか!!
最終話へ続く
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