「ふむふむ成程、町について私についての情報を集めてたら、これにいきなり襲われて、軽くいなしてたところに私たちが来て、その隙を狙って噂のチョークアタックをぶつけたところパワーアップ補正で破壊力満点の一撃を叩き込んでしまい、巻き添えでロシアンがぶっ飛んだと……」
『巻き添えというわりにはこの吾輩でも冗談にならん威力だったぞ……貴様普段からどんな訓練をしておるのだ?』
「訓練というかまぁ、教員免許持ってたり教師の役をやってたりするだけだが……」
(どんな教師なんだか……)
ゆるりーさんの家の『神威がくぽ』(私たちはこの世界の『アレ』を想起しないよう『先生』と呼ぶことにした)。噂に違わぬぶっ飛びボーカロイドだ。同じぶっ飛びボーカロイドでも未来の高性能サイボーグである私たちと違い、生身の人間である辺り彼の方がぶっ飛んでるんじゃないだろうか。
因みに今私は先生がチョークで叩きのめした包丁野郎を簀巻きにした上に座っている。どこぞのバカ創造主が泣いて喜びそうな状態だが、あいつは痛みで泣き叫ばせた方が面白いし可愛い。『我々の業界でも拷問です』があいつにはお似合いなのだ。
「……やっぱり、Sっ気あるんですね」
「うん? まぁ、否定はしないわね」
ゆるりーさんの家の『巡音ルカ』―――――とりあえず『ルカちゃん』と呼ぶことに―――――が恐る恐る聞いてくる。ワタシソンナニコワクナイヨー。というかあなたの方が一応年上じゃないの。私設定年齢20歳の上目覚めてから16年しかたってないわよ?
だが実際、白のワンピにベージュのカーディガンといった清楚な出で立ちをしているせいか、私より若干若い印象を受ける。
何より噂に聞くようなハイスペック集団の中にいるとはいえ、こちらほど物騒でない世界に住んでいるためか、私よりもかなり華奢な体つきだ。それもあってかかなり幼く見える。
まぁこんなこと言うと、隣の先生から拳銃レベルのチョークがぶっ飛んでくるかもだけど。
「確かに若干Sっ気が感じられるが、それさえ除けばやっぱり『ルカ』というところだな。よく似ている」
「……神威さん、何じろじろ見てるんですか。失礼ですよ」
「整ったセリフだけど『カヨ』演ってる時と似たような雰囲気感じたぞ気のせいかな!?」
2人の漫才のようなやり取りを見ていると……ルカちゃんの方から小さな『感情』の欠片を感じた。
……この二人、カップルというか……。
「まるで夫婦ね」
『はいっ!?』
『ああ、夫婦だな。オシドリも泣いて謝るレベルだ』
「んななななな………!!」
真っ赤になって両手で顔を覆うルカちゃんと、そっぽを向く先生。あら初々しい。
とは言っても、まだ『普通の』初恋すらしたことのない私が言うもんじゃないんだけどね。
「ねぇ? ロシアン」
『む、何がだ?』
「なぁんでも」
それではそろそろ行くとしようか。
「それじゃあ町を案内するわ。行きましょ、ルカちゃん、先生」
「ああ。……ところで、『それ』どうするんだ?」
先生が指さしたのは伸びきっている包丁バカ。よくよく見るとチョークの破片が額に刺さって血まみれである。よし更に埋め込んでやろう、お客人の手を煩わせた罰だ。
しかしこんなのをもって歩き回るわけにはいかない。遊びに来てくれた客人を案内するのにこんな死体みたいなのを引きずって歩くなんて、失礼にもほどがある。
ここはひとつ、盟友に頼もう。
「……もしもしグミちゃん? ちょっと簀巻きを引き取ってほしいんだけど。……うん、お願いねー」
軽く電話をしてその場で待つ。
「この世界のグミが来るのか?」
「ええ。聞いてない? グミちゃんこっちじゃ私と一緒に刑事やってるのよ」
「すごいな……VOCALOIDの刑事が二人もいる町とか……」
まぁ確かに、どんな世界でもそうそうないよね。
数分後。パトカーがドリフト利かせて突っ込んできた。相変わらず危ないなぁ。
運転席から飛び出してきたのは、鮮やかな緑髪に赤いゴーグルを輝かせたミニスカポリス。
「あいあい☆お待たせー!! ……って……あれ?」
グミちゃんが目を瞬かせる。どうもお客人の姿に気付いたようだ。
「ああ、この二人はかなりあ荘からのお客人よ。ゆるりーさんの家の『神威がくぽ』と『巡音ルカ』よ」
「へえええええ!! 珍しいねぇ、こっちにTurndogの世界の、それもVOCALOIDがやってくるなんて! あ、わかると思うけどあたしこの世界のグミね! よろしくー!」
「お、おう、よろしく」
「よろしくお願いします」
ハイテンションのグミちゃんに若干たじたじだ。町の人ですらついていけない時があるんだから、まぁいつも通りかな。
「今日は一日この二人を案内するからさ、町の事件の方はお願いね。はい、簀巻き」
「あいよ、簀巻き。どこに入れとく?」
「第9取調室に。脳内攫ってから鉄鞭お尻ぺんぺんの刑よ」
「あいあい☆それじゃお二人様、楽しんでいってねー!」
ぽんと簀巻きを後部座席に放り込むと、グミちゃんは来た時と同じ猛スピードで去っていった。
「……あの、一つ聞いていいですか?」
「なーに?」
「さっき言ってた鉄鞭お尻ぺんぺんの刑って……?」
「文字通りよ。この愛用の鉄鞭で骨盤が砕けるまでお尻ぺんぺんするの」
「……///」
「……すまん、あまりルカの前でぶっ飛んだ発言は控えてくれるか」
「あはは、ごめんごめん。ついクセでね。次からは自重するわ。じゃ、とりあえずは歩きましょうか」
初心である。いや、この場合はむしろ私の方がおかしいのか。
何にせよ、Turndogは一発殴っておくか。そう思いながら私たちは歩き出した。
「ところで、お二人さんはヴォカロ町についてはどんぐらい知ってるの?」
「正直危ない世界の大人しい町ってことぐらいしか知らないな。細かいことは何も……」
「じゃあ、簡単に紹介しよっか」
ヴォカロ町。Turndogの作った、『戦乱の世へと舞い戻った日本』という至極乱暴な世界に落とされた、平和を具現化したような町だ。
同時に、VOCALOIDにより統治されVOCALOIDにより生活が作られる、まさにVOCALOIDのための町である。
平日は町長であるめーちゃんことメイコの元各職場が動き、その間カイトさんにより町の困り事が解決され、それを超える事件は私やグミちゃんの手で解決粉砕される。休日は遊び回るリンとレンが近所の子供たちやおじいさんおばあさんを巻き込んで大騒ぎし、センターステージでは主にミクが歌い騒ぐ。
危険危険と言われてはいるが、実際はそんな実に楽しい町である。
……といった説明を、先生は興味深そうに聞いてくれていたが……
「………………………」
『……む?』
……ルカちゃんはそんなことよりも、私の隣で浮遊飛行する猫又に興味津々なようだ。
『なんだ、吾輩に何か用か?』
「あっ、えーと……その、やっぱり化け猫……なんですよね」
『あ゛?』
「ひっ!?」
殺気全開のロシアンににらまれて思わず先生の後ろに隠れるルカちゃん。先生が条件反射的に白衣のポケットに忍ばせたチョークを握った。
とりあえずロシアンを鞭の柄でかち上げる。
『うごっ!?』
「お客さん脅迫しないの。ちゃんと説明しなさいよ」
『……吾輩をただの化け猫などと愚弄するな。吾輩を何と心得る。齢300年の猫又ぞ』
「は、はぁ……」
ロシアン曰く、『猫又』と『化け猫』には大きな違いがあるらしい。『猫又』とは神に選ばれて生まれ長い苦行を超えて覚醒する神に近い生物である(ただそういうと神に土下座した挙句10歳で猫又になったロシアンはどうなのかという話になるが)のに対し、『化け猫』はただの猫が負の念に憑りつかれて変化した文字通りの化け物なのだとか。
私もついこないだまでは大した違いというものを感じなかったが、今では猫又がどれほど高位の神獣であったかが身に沁みている。
「この世界は随分と科学の発達した世界のようだが……猫又などの人知を超えた生物は未だに存在しているのか?」
『小さな妖怪はその限りではないな。科学の発達に追い詰められた小物はことごとく滅んだ。我ら神に選ばれし神獣や、強大な力を持った悪霊なんかは未だに科学を圧倒する力で存在し続けている。事実吾輩も、戦いに明け暮れていた時代は鉛の弾の嵐を駆け抜けつまらぬ内乱をいくつも潰してきたものだ』
嘘みたいな武勇伝だが、事実彼は科学など超越した存在だ。本気で戦えば私たちなどまるで敵わない超常生物。それが『猫又ロシアン』を端的に表す最上の言葉だ。
『まぁ、仮にこの吾輩が唯一敵わない『科学の結晶』が存在するとすれば、それはこの隣で鞭の手入れをしているこ奴だろうがな』
おい。
私たちじゃ敵わないと言ったろうに。手加減前提の話で何言ってんですかあんたは。
だがそんな手加減状態のロシアンに不意打ちとは言え驚かされた二人は、私の事をまじまじと覗き込んできた。
「……いや、私そこまですごくないよ?」
「そういやさっき手も触れずにロシアンの事を止めていたな」
「マスターの話では読心術も操ると聞きました」
「ゆるりーさぁん……」
別に間違った紹介じゃないというかむしろドンピシャではあるんだけど、なんだか二人の、特にルカちゃんの中ですさまじいイメージになってそうだ。ゆるりーさんどんな紹介をしたのだろうか。
「ま、まぁそれに関してはあとで話してあげるからさ! それよりも今日はせっかくヴォカロ町に遊びに来てくれたんだから、町で一番のイベント会場に連れてってあげるわよ!」
「イベント会場?」
「ええ! ロシアン!」
『仕方ないな……フンっ!!』
ぶるる、と体を震わせた瞬間、ロシアンの体を碧い焔が覆った。
膨らんでいく焔。それが勢いよく弾けると―――――その中から、十数倍の体躯へと変貌したロシアンが現れた。
「んな……」
「え……!?」
またも驚きを隠せない様子。特に先生が。
ごめんね、この神獣質量保存の法則を無視することに定評があるんです。
『そら、さっさと乗らんか。この姿は目立つから早いところ元に戻りたいのだ』
「お、おう……」
戸惑いながらもロシアンの背に乗る二人。それを確認しながら、私も『サイコ・サウンド』を使って宙に浮いた。
「さ、行きましょ! と言っても10秒もかかんないけどね!」
空気を唸らせて、空へと一度跳び上がり。
私たちはセンターステージに狙いを定め、まっすぐに降下していった。
その頃。
ちょっと離れたところで4人の監視をしていたどっぐちゃんは。
「……何よ、もう。楽しそうじゃない……ロシアンのバカが大変なことしないかなって心配で見に来てあげたのにさ……」
十八番のツンデレを発揮しておりましたとさ。
ヴォカロ町へ遊びに行こう 4【コラボ・d】
がくルカのハートが心配です。
こんにちはTurndogです。
今回割とここが初出の情報が多いです。
ロシアン以外の人智を超えた生物の話とかね。
本編でもそういう話をゴリゴリ出していきたいんだけど、そこまでかけてないんだよねー。
せめてチームVOCALOIDとTA&KUの戦争終わらせんとw
因みにロシアン割と冷静にしゃべってますが、
実際にはチョークアタックにぶち切れたままですww
客人じゃなかったら間違いなくこの場で大乱闘を起こしていますw
がくルカの赤面成分が足りなかったので最後にどっぐちゃんを可愛くしてみた。
いやー、やっぱり難しいわー。
第3話:http://piapro.jp/t/kNje
第5話:http://piapro.jp/t/0aw-
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ご意見・ご感想
ゆるりー
ご意見・ご感想
私がギャグとイチャラブ担当なら、我が家のがくルカにも多少はイチャラブしてもらわないと困りますからね(ゲス顔)
21なのにそうには見えない我が家のルカさん。
普段演じてるのが、普通の女子高生ですからね。
小さな妖怪…滅んでいる例としては、妖蝶(?)もそうですよね、確か。
ターンドッグさんのコラボのテキストで、ありました…よね?うろ覚えでw
そして安定のどSルカさんw
グミちゃんはテンション高いですねww
2014/03/29 00:16:21
Turndog~ターンドッグ~
おお、ゲスいゲスいwww
むしろ生きてきた年数だけならうちのルカさんのほうが高校生であるというねー。
おお!凄い、よく覚えてますね!
(俺ですら存在を忘れてたのに!←)
アレ書いたの1年以上前だってのに………!
そうそう、あんな感じですね。
こっちのルカさんは『踏んでください!』と言えば容赦なく画ビョウのついたピンヒールで踏んでくると思う←
グミちゃんは通常運行ですw
2014/03/29 08:22:22