疲れていたのかバスが出発して20分程で侑俐さんは寝息を立てていた。何か、可愛い。何となく寒そうに見えたのでかける物を探していると、館林先生がジャケットを羽織らせた。
「疲れてるみたいですね。」
「ん~この馬鹿ここんとこ仕事詰めてたからな。」
と、後ろからシャッター音と共にカメラを持った睦希先輩が顔を出した。実に良い笑顔、後でその写真下さい。
「仲良しですよね~先生と響さん!」
「ん~、まぁ。けど、お前が期待してる『仲良し』とは別だぞ?」
「えー?それはそれで美味しいんですけど。」
「睦希先輩…。」
「俺がここに居るのも侑俐のお陰だから。」
そう言うと先生は服の袖を捲くった。大きな傷痕にやっぱり目が行ってしまう。詳しく聞いた事は無いけど昔の事故の痕らしい。
「高3の時事故でね。手足やられてインターハイどころか日常生活も難しくなるかもって言われた。」
「えっ…?!そ、それって、結構…かなり重傷じゃ…?」
「普通に飛び降りて死のうとしたからなー。」
けらけらと笑いながら言ってるけど私も先輩も、そしていつの間にか聞いてたらしい皆も絶句していた。空気に耐えられなくなったらしい睦希先輩が明るい声で言った。
「あ、それで響さんが励ました訳ですね?!」
「いや、コイツ開口一番罵倒したから。」
何で重傷の人にそんな事を、侑俐さん酷い。でも、ただ酷いだけだったら先生はこんなに信用してないよね?話を最後まで聞いた方が良いかも。
「『そんなミジメな姿で満足ですか?』だの『無様過ぎて引く』だのと散々言って来てなー、もう打っ殺してやろうかと思ったんだよ。」
「そ、それは、まぁ、でも…確かに。」
「そんで死ぬ気でリハビリして大分動ける様になって、ムカツクから侑俐探してたら病院の図書ルームで寝ててな。殴り飛ばそうと思って傍行ったら、本持ってたんだよ。」
「エロ本?」
「日向先輩まで…。」
日向先輩の言葉に吹き出しながら、先生は携帯に一冊の本を表示させた。タイトルからはよく解らないけど、リハビリと言う単語が見えた。
「紙がボロボロになるまでリハビリや症例回復の本読み漁ってやがった。」
「へぇ…。」
「今考えてみたら大変だったと思うけどな。言葉を選ぶ侑俐が俺怒らせる為に必死で嫌な事一杯言って、俺にわざと恨まれて…。だから感謝してる、最上級にね。」
眠ってる侑俐さんを見る先生の目はとても優しかった。顔が火照って心臓がトクトクと高鳴った。
「素敵…それHPに更新しましょう!健気な友情!ポイント高いわ~!」
「ふぅん…そうなんだぁ…へぇ…。」
「友情萌えキャラ…いや、でも2人のラブも中々…。」
…のは私だけじゃなかったみたい。先生、なんて事を!
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