「もう、別れよう?兄さん」
「えッ??」
一瞬言葉の意味が分からなかった。
「どうして・・・?今更・・・」
「なんて言うか・・・もう冷めちゃったんだ。兄さんに」
「冷めた・・僕に・・・?」
「そう冷めた。だからね?もう終わっちゃおう、この関係を・・・・・」
終わる?何が?もう会えないの?
僕の双眼からは、いつの間にか、大粒の涙が溢れていた。
「さよなら・・・・僕が愛した人・・・」
「サヨナラ?」
次の瞬間、僕の視界は、闇に包まれた。
レン君と別れてから、早一週間が過ぎようとしていた。
まあ、ぼくと言えば、家で家事をしている真っ最中というわけで・・・・
レン君は、この頃忙しいのか、家に全然帰ってきていない。
その時突然、玄関のチャイムが突然鳴った。
ピンポーン
誰だろうと思いつつ、カイトは玄関に近づいた。
玄関を開けるとそこには、見知れた顔が立っていた。
「がく!!それに、キヨさんも!!」
「おお!カイト、元気そうでなによりだ・・・・ってそんなにくっつくな」
「カイトく~ん。がくぽだけじゃなくて僕にも抱きついてきて下さいよ~~」
「何を言っておるのだ?貴様のような変態にカイトが抱きつくわけなかろう。
な。カイト。」
カイトと言えば、がくぽの腕の中で青い瞳をきょろきょろとさせていた。
「え~~~~と・・・・・・取り敢えず、中入る?二人とも」
「「喜んで」」
他人から見ると、まるで召使のように、頭を下げる二人。
そんな三人を見たご近所の人が、勝手に主従関係を想像したのを、三人は知らなかったりする。
御世辞にも、広いとは言えないリビング。
しかし、あまりお金を使わないカイトは、物を余り持っていないためか、少なからず広く見える。
カイトはこの家に、メイコ、ミク、レン、リン、ルカの6人で暮らしている。
しかし、今は仕事の為か、皆家に居ない。
机の上を片付け、がくぽとキヨテルを椅子に座るように勧める。
「食べる物って言っても何もないな・・・」
「あっ!大丈夫ですよ、カイト君。ここに来るまでにケーキ屋に寄って、ケーキ買って
来ましたよ」
そう言って、足元からなにやらピンク色のファンシーな紙袋を取り出した。
「あーー!!そのケーキ屋さんて・・!!」
「はい、そうです。今クチコミで大人気のケーキ屋さんです」
「でも、買うまでに時間すごく掛かっちゃったんじゃ・・・」
「御心配に及びませんよ。ね、がくぽ君」
「う、うむ・・・・そうだな・・・」
実は、キヨテルがケーキ屋さんで、すごい殺気を放っていたため前の客が良好的(?)に列を譲ってくれたという真実はがくぽしか知らなのであった。
「じゃあ、お茶入れてきますね!」
そう言ってカイトは台所の方に駆けて行った。
カイトが見えなくなるのを見計らった二人が、なにやらひそひそ話を始めた。
「がくぽ君、気付きましたか?」
「ああ、とっくの昔に気付いていておるぞ。」
「では、一斉に言ってみましょう。せーーーーーの」
「「レン、レン君が居ない」」
「やはり、気付いておったか・・・・」
「当たり前でしょう。あの、レン君がカイト君を一人残して仕事に行くはずがない、
いつもだったら、仕事場に連れて行く、ぐらいはしていたはずです。」
「金魚のふんみたいに、ベタベタくっついていたあ奴が・・・気になるな」
そんなことを、ぶつぶつ言って言っていたら、困ったような顔で、カイトが姿を現した。
「どうしたのがく?独り言なんか言っちゃって?悩み事ぐらいだったら聞くよ?」
「い、いやなんでもないんだ!!本当に!」
大げさなぐらい、両手をぱたぱたと振るがくぽ。
「ふ~~~ん・・・じゃ、いっか。そんなことより、ケーキ食べよう♪」
拙者の、優先順位って・・・・と思い心の中で一人泣くがくぽであった。
しかし、そんな事も、目の前で幸せそうにケーキをほおばるカイトを見ていると
どうでもいい、と思えてくるわけで・・・
「う~~~~ん♡やっぱおいしい~~~」
「そうですか、喜んでくれてなによりです」
ニヤニヤしながらカイトの事を見ているキヨテルはきっと他人から見たら、ただの変態だろう。
「ところで、カイト君少し聞きたい事があるのですが・・」
「なんですか、キヨさん?」
「レン君が居ないのはなぜですか?」
「えっ?・・・・・」
カランとフォークが落ちる音がして、その場の時間が一瞬だけ止まったかと思うと、カイトがいきなり椅子から落ちた。
「カッ、カイト君?」
「ひっく・・うっ・・うっ」
落ちたかと思うと、いきなり泣き出して、部屋の隅まで行ってガタガタと震えはじめた。
「大丈夫ですか!?カイト君!!」
「あっ!カイトお主腕を怪我しているではないか!!待っていろ、今すぐ救急箱を・・」
「いいよ、がく」
そう言ってカイトは、震える手で、がくぽの服の袖をぎゅっと掴んでいる。
「しかし・・・・」
「本当に、いいんだよ」
「何が、あったんですか?カイト君」
聞くと、カイトはまた、双眼から、涙を溢れさせた。
「ひっ・・レン君が・・・別れようって、もう僕には冷めたって・・ひっく」
その言葉に二人は驚愕した。
信じられない、あんな仲がよくて・・・・恋人だった二人が・・・・
「ひっく・・うっ」
「カイト君そんなに、悲しいなら眠ってしまいなさい。」
「で、でも・・・」
「眠ってしまえば、すべて忘れられますよ。この世の事も、現実も、悲しいことも・・・
だから今は眠ってしましなさい。」
「わ・・かった」
そういうと、十も数えない内にカイトから、すやすやと寝息が聞こえてきた。
「おやすみなさい。悪夢はすばらしいですよ、幸せな朝を約束してくれます。」
そして、キヨテルはカイトの額にそっとキスをした。
「おい。キヨテル貴様、抜け駆けはゆるさぬぞ。」
「抜け駆けなんて、そんな卑怯な事しませんよ」
言いながら、カイトを抱き上げて階段の方え向かっている。
「とりあえず、カイト君を部屋に寝かして来るんで、片付けお願いしますよ」
そう言うと、キヨテルは扉の向こうへ消えて行った。
「たっく・・・・相変わらず人使いが荒いな・・・」
食器を持って、流し台に行くと、電子レンジの横に何かの紙が貼ってあるのに気付いた。
そこには、こう書かれていた、
レンへ
あんた、仕事で8月31日帰るの遅いんでしょ?
その日はミクの誕生日だから、できるだけ早く帰ってくるように!!
もし、遅くなるようだったら電話を入れること。
メイコより
メイコ姉へ
了解。できるだけ早く帰るよ。じゃあ、行ってきます。
レンより
がくぽはカレンダーをばっと見た。
「確か今日は・・・・8月31日・・・・」
「おや、どうしましたか?そんな険しい顔をして」
そこには、いつ一階に下りてきたのか、キヨテルが立っていた。
「・・・・、こいつを見てくれ」
がくぽは、レンジの横に貼ってある紙を取り、キヨテルの前に突き出した。
「・・・・、なるほど・・・では、レン君を問い詰めるのは・・・」
「「今日しかない」」
この、二人、一見いつも口喧嘩をしていたりするので、仲が悪いと思われがちなのだが
それは違う。いつも、カイトのために死線ギリギリ(?)の戦いを繰り広げているのだ。
「夜まで待機ですねーー」
「うむ。暇だな・・・・」
「じゃあ、僕この間にカイト君のパンツとか漁ってこよーー♪」
「あっ!!貴様!ちょっと待てええええええ!!!」
電光石火の速さで二階に駆け上がって行ったキヨテルをその後ろからがくぽが追いかけていく。そんな、日常の風景。
鏡音レンが帰ってくるまで、後7時間。
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