3月10日の昼前。MARTの総長・カイトと、鏡音レンと新しくやってきた鏡音リンの3人は、東京にある新宿の交差点を歩いていた。MART周辺の案内を兼ねた、近辺の巡回をするためである。
田舎町からやってきたリンにとっては、何もかもが新鮮だった。特に最新のファッションなんかは、まったく未知の世界だった。さすがは首都だけに周りはたくさんの人に加え、アンドロイドだらけである。
この世界で発表された情報によると、人口密度ならぬアンドロイド密度は、東京23区だけを見ても人間の3分の1は確実に超えていると、何処かの偉い人が言ったとか言わなかったとか。
「…さて、俺たちは言うまでもなく、アンドロイドの支援組織だ。だからこんな感じでパトロールをしたりもするんだ。これも大事な活動の1つだ」
「MARTのパトロールは、大体この辺りでするんですか?」
「そうだね。でもこれと言って、この場所へ行く方が良いんじゃないとか、どこかへ行かなければならないとか、そんなはっきりとした行き先や目標は持たなくても良い。観光がてらに歩いていれば、自ずと自分のやるべきことも自然に見えてくるさ。ちょっとした気遣い、人との何気ない会話、誰かの些細な手助けでも十分な組織の活動さ。」
「なるほど…」
「だけど、俺たちは警察や捜査機関じゃない。違法行為や犯罪が起きても、逮捕なんかはできない。だからリンちゃん、これだけは心得ておいて欲しい。レン君も再認識しておいてくれ」
「はい」
「厄介事を見つけたり、巻き込まれたりしても、絶対に¨1人で解決しよう¨とはするな。素性の分からない相手に立ち向かうのは、朽ち木の一本橋に目をつむって渡ろうとするのと同じくらい危険だ。その時は必ず、誰かに助けてもらうんだ。2人とも、分かったな?」
「はい!」
「よし。この街はいつ何が起こるか分からない。ボランティア組織だからといって、気を抜かないようにね」
(…僕は知ってる。どうしてカイトさんが、14歳の子供の僕たちにここまで言うのか。カイトさん自身、そして他のMARTのメンバーさんが、何度も危険な経験をしてきたからだ…)
MARTの活動は多岐に渡る。主人を亡くした、または捨てられたアンドロイドたちの保護。管轄地域との積極的な交流。人とアンドロイドを繋げるイベントや募金活動。とにかく言い出すと、たくさんある。だが、そんな善良な組織の一員たちの命が狙われる理由が、どこにあるのろう?
それは誰も知らない、MARTの命をかけたもう1つの活動…これが原因で、アンドロイドの裏世界から、目をつけられることとなった。
しばらくして渋谷にやってきた3人は、無気力な表情でティッシュ配りをする少女を発見した。レンはそれを見て、眉間にしわを寄せた。
「はい、どうぞ~」
「…ん? おおっ! デフォじゃないか!」
「…あ、総長じゃないですか。お久しぶりです」
「その呼び方はよせって。俺はお前の総長でも何でもないんだから」
「いや、私の中では総長が人生の中で、一番の恩人なんですから。それにしてもレン、また大きくなったな~」
「…いでででっ! 髪引っ張らないでよ…それにウタ姉ちゃん、前に会ってから、そんなに経ってないじゃないか!」
「思春期って、やっぱり成長が早いのな。うんうん、関心関心」
「あーデフォ…ちょっと聞きたいことがあるんだが…」
「何ですか?」
「お前、最近身の回りで変わったことはないか?」
「え? ああ、そうですね…」
唄音ウタ。愛称はデフォ子と呼ばれている。身長はモモよりやや低いが、レンとは1歳年上で15歳。黒紫の衣装と、頭に被っている帽子が特徴的。彼女もカイトのMARTの下で保護を受け、社会復帰を果たした。
カイトには尊敬と感謝の意を抱いているが、レンに対してはドSになる。普段のクールで物静かな感じからは、想像できないと言う。
「にしてもレン、そこのキュートな子は誰? まさか…」
囁くようにそう言うと、ウタは小指を突き立てた。それを見たレンは顔が赤くなる。どうやらウタは「リン=レンの彼女」と言いたいようだ。
「…んなワケないでしょ!」
「えぇ~、こんな可愛くて、レンと共通点大アリな感じなのに? それにレン、顔が赤いぞ」
「え!? あ、いや…これはちょっと、先までその辺を走ってきたから、体が熱くなってるだけだよ!」
「えぇ~こんな寒いのに? それに、どうも走ってきた感じは無いんだけどな? それとも、単なる暑がりか?」
「知らないよ!」
「んん~やっぱり怪しいな…白状しろ」
「…ウタ姉ちゃん、どうしてそんなにつっかかるんだよ! くどいよ!」
「おぉ、ごめんごめん。ちょっと、こういう感じが…」
「…何? どうしたの?」
「いや、何でもない…えっと…聞き忘れたけど、その子の名前はなんていうの?」
「鏡音リンです!」
「へぇ、レンと外見そっくりだと思ったら、名字まで一緒か。この2人、やっぱり赤い糸で結ばれてるのか…?」
「知らない!」
「あ…レン君待って!」
「カイトさん、もう行きましょう!」
「あ~あ…デフォ、昔の仲だからって怒らせるなよ…」
「レンはイジリ甲斐がありますからね」
「本当にドSだな、お前は…」
「じゃあリンちゃん、私の名前は唄音ウタ。よかったら、ウタお姉さんって呼んで」
「はい、ウタお姉さん!」
「…素直でとてもカワイイじゃないか」
3人はウタと渋谷を後にした。時刻はいよいよ昼過ぎになろうとしていた。ティッシュ配りを再開しようとしたウタに、サボっていたのを見た先輩らしき人物が叫んだ。
「おいデフォ!サボってないでティッシュ配れ!夕方までに済まさないと承知しないぞ!」
「デフォって呼ぶんじゃねーよ、○○野郎!」
次に3人は昼食をとるために、ファミレスにやってきた。首都圏を中心に店舗を展開している「ガクト」という店だ。ここの店員は、カイトの知り合いが多い。
「いらっしゃいませ…あ! カイトの兄貴じゃないスか!」
「よう、元気にしてたか? いつものヤツを頼む」
「へへ、分かりました。どうぞ、こちらの席について下さい」
「注文はお決まりでしょうか?」
「ああ、先にこの2人のを聞いてやってくれ。」
「かしこまりました」
「カイトさん、注文してもいいんですか?」
「ああ、いいよ。気にせず、何でも頼んでくれよ」
「わーい♪ ありがとうございます!」
「いいさいいさ…おい、ちょっと聞いてくれ」
「なんスか、カイトの兄貴?」
「急な質問なんだが、最近お前の周りで、変わったことはないか?」
「ああ…1つ思い当たることがあるんスけど、ちょっとマズい内容かもしれないんで、話は奥の空き部屋でいッスか…?」
「分かった」
「店長! ちょっと大事なお客さんに話があるんで、しばらく抜けまッス!」
「あら~ン、抜けちゃうのン? それにしてもさっきから思ってたけど、そこの青髪のお兄さん、イイ男ねン~!」
「!?」
皆の頭に電撃が走り抜けた。とりわけカイトなんて、頭のチップがショートしかけたようだ。一方、リンとレンの2人はメニューを見ながら、どれを注文しようか考えていた。
「じゃあ私はどれにしようかな。うーん、迷うなぁ…それじゃあ、サンフラワーハンバーグを下さい!」
「かしこまりました」
「あれ? レン君、どこに行くの?」
「ちょっと、トイレに行ってくる!」
「注文は?」
「後で頼むから、先に食べてて!」
「うん…」
水分をとっていないレンが向かったのはトイレではなく、店の空き部屋。気になった2人の会話を、盗み聞きしようとしたのである。あまり気持ちのいいことじゃないと、分かっているけれども。
(何の話をしてるんだろう…マズい内容って…?)
「…ええ、ずっと店前の掃除をしてて思ったんスよ。最近この辺をよくうろついてて、格好と目つきが、もう普通の奴じゃないッス」
「情報局のやつか?」
「いや、以前MARTさんにいた俺が思うに、少し心当たりがある奴に似てるんッスよ…」
「誰だ…?」
「多分¨トリプルエーの波音リツ¨じゃないかと…」
「なっ…」
(波音リツって…まさか…!)
カイトは驚愕の表情を見せた後、顔を青ざめさせた。レンもその名を聞いた途端に、一瞬にして過去のある記憶が呼び覚まされた。
「…やっぱり、マズいっすよね?」
「最後に見たのはいつだ…?」
「昨日の昼くらいッス。その前は3日前の夕方に…」
「くそ…それじゃ今もこの近くに来ている可能性もあるのか…くっ!」
カイトは血相を抱えて立ち上がり、早々と部屋を出ようとした。数分前の落ち着いた感じが、まるで嘘のようだ。レンもカイトの慌てる姿を見て、すぐに部屋を離れた。
「…レン君! リンちゃん!」
「どうしたんですか?」
「急用ができた、今すぐ帰るぞ。今日のパトロールは中止だ…レン君は?」
「さっき、トイレに行くって…」
「…レン君! レン君!」
「は…はいっ…!」
「…少し急用ができた。見回りは止めて、すぐ本部に帰るぞ。いいな?」
「分かりました」
「店長、すまないが注文は取り消しだ。申し訳ない」
「あら~ン、残念ね…でも今日はそのイケメン顔に免じて、許してあげるわン!」
(近くで見ると更にインパクトがあるな、この店長さん…)
「またいらっしゃいね~ン!」
3人はファミレスを後にした。相変わらずカイトの表情は険しい。彼の歩くスピードも早歩きになっている。後をついていく鏡音の2人も、不安に駆られていた。
「レン君、リンちゃん、人通りの少ない所はできるだけ避けていくぞ」
「はい」
「ねぇレン君、カイトさんさっきから恐いよ…どうしちゃったの?」
「僕にも分からないよ…」
レンはある程度分かっていたが、リンにはあえて黙っていることにした。知らぬが花って言葉もあるからだ。だがカイトたちの不安の根源は待ってくれようとはしなかった。そして彼らが何気なく通りすぎた路地の暗がりに、怪しい影が…
「…3人を尾行して接触せよ。決して逃げられるな。分かったか?」
「はい、マスター」
波音リツ。カイトたちMARTが恐れたその存在は、懐から取り出した重々しいピストルのスライドを引き、そして足早に追跡を開始した。無表情な表情に、鋭い目つきをしながら。
「VOCALOID HEARTS」~第4話・住処の街並み~
皆さん、今晩は!
今回は第3話の時よりすらすらと書けました。でも思いつきの内容だったので、誤字・脱字も多くなってしまいました。
前回も読者様からメッセージを頂きました。本当にありがとうございました!メッセージは後ほど返信します。
次回は第5話「漆黒の制裁者」に続きます。今回も最後まで読んで下さった方、本当にありがとうございました!
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ご意見・ご感想
瓶底眼鏡
ご意見・ご感想
うおおおおおおお!?なんかコラボしてるううううううううううううううう!!!?←
やべえ2828が止まらねえ……!カイトマン放映されとる、そして店長何故そこに!!←
ヤバい……これはヤバい……!!なんかもうありがとうございますオセロットさん!!
遂にバトル来た……wktk←
早く熱下げて頑張って更新してね!!
2011/06/08 00:18:45
オレアリア
瓶底眼鏡さん、メッセージありがとうございます!
いやはや…重ね重ねですが僕の独断コラボ、本当に申し訳ありません(汗)カイトマンとか、そしてまさかの店長とかww
次回は多分バトル回になる…ハズ!
早く病気治して第5話書きますね!
でも…陰謀シリーズの続きが早く見てぇです…!!
2011/06/08 10:16:09