正直、この時期が誕生日で良いことっていうのはまずない。
「Merry X'mas And HAPPY BIRTHDAY、おーたーのしみTime♪って言ったってねー、Andで括れちゃうのが悲劇な訳ですよ」
「同感同感。鏡音三大悲劇イコール『先輩(有名)』『誕生日(合同)』『滑舌(悪い)』」
「おおレン上手い」
「やべー、ほめられても全ッ然嬉しくない内容だわ」
十二月末。
私とレンはコタツでクリスマス特集とやらの番組を見ていた。
え、お祝い動画?ごめんなさいそれうちのマスターの辞書にはないようです。欠陥辞書だから。
「あ、でも冬だからみかんがあるのは嬉しいかなあ」
「バナナはバリバリ夏なんだけど」
「ご愁傷様ー・・・あれ、でもスーパーでは今でも沢山売ってるよね?」
「そういやそうだ。じゃああれの旬っていつ?」
「バナナ男が知らないのに私が知る訳無いでしょ?」
「・・・お前ほんとネーミングセンスないのな」
「ほっとけ」
とか言って、レンだって大概みかん好きなくせに。
ほらまた手が伸びてる。それ何個目?
ぺし、と手を弾いてやれば、恨めしそうな目でねめつけられた。
でも無視をしてみかん籠をレンの手の届かない場所に移動しておく。寝たままで、だけど。
駄目ですー、みかんが本命じゃないひとに私のみかんを分ける義理なんてありませーん。
「くれよ」
「やだ」
「よこせ」
「やだ」
「いいからよこせ」
「やだっつってんでしょー。聞こえませんかぁ?」
「・・・」
あ。
いらっ、という効果音が聞こえた気がした瞬間、私の食べかけのみかんが奪い去られた。
ちょっと!
「自分で新しいの取ってよねバカレン!」
「籠遠いし」
「歩けや」
「コタツから出るとか無理。マジ無理。つか本当は布団からすら出たくない」
「まあわかるけどさあ」
はあ、と落ちたため息がユニゾンした。
布団。布団ねえ。確かにぬくいけどなにしろ狭い。
何と言っても私とレンは同じ布団に突っ込まれているんだから。
いやマスターの趣味だかロマン?だか知らないけどさ。実際問題があるんだよ。
二人で入ると、狭すぎる。
それこそ相手にドキドキすれば恋の始まりとかになってそれはそれでロマンなんだろうけどね・・・それすらないとか。
一応布団の温まりが早いのは嬉しいけど。
「ところでレン」
「なんだよリン」
「あんたは私にムラムラしたりしないわけ?」
ぶっはぁ!
すごい勢いでレンが口から汁を吹き出した。
ちょっと、汚いよ。
というか勿体ない!私のみかん奪っといて!
レンは信じられないような目で私を見返した。
『何言ってんのこいつ!』と目が語っている。何よ失礼な奴。
だって私達14歳よ14歳。思春期。ティーンエイジャー。
私にしろレンにしろ、そろそろ自重!の時期じゃないの?
「何お前ムラムラしてほしいわけ?」
「しないなら・・・レン、ちょっとまずいんじゃない?本当に男?」
「はいはい自賛乙」
「で、どう・・・ぴゃああぁぁあぁ!?どこ触ってんのよ!」
せっかくコタツでぬくもっていたのに、ひんやりとした手で体を触られちゃ堪らない。
というか何乙女の柔肌を無作法に触ってんの?触るならもっと優しーく、色っぽーく・・・いやレンにそんなことされても嬉しくないっていうか気色悪いけどさ・・・
「あっは、お前ほんと胸ねー」
「何ですって!ってちょ、そこはらめえぇ、やっ、やめろって言ってんでしょ!」
「らめえ言う程かよ、ほれほれ」
「あー、レン言うことがいちいちオヤジ臭い」
「てめえ・・・」
何こいつ、微妙に指先がテクニシャン・・・つかゲームのやり過ぎじゃないの?これボタン連打の成果じゃないの?そんな技術身につけるな。変態!変態でーす、刑事さーん!
「エロガキ」
「話持ち出したのはどっちだゴラァ!」
「だ、か、ら、やりすぎぃ・・・!やめてってば!」
「ぜってー止めねぇ」
「意地張るな!なんというマセレン」
「ああそうですよマセてますよ。つまり据え膳なんだろ?いただきまーす」
「大概にしろし貴様」
放った手刀が見事に奴の鼻っ柱にぶち当たった。
声も無く悶えるレン。ざまぁ。
大体私の体を据え膳なんて甘すぎ。膳っつってもフルコースみたいなもんよ?値が張るの。了解?じゃあとりあえずお触り代として有り金全部よこせ。
「ねーわマジ」
「それはこっちの台詞」
「はー・・・食う気も失せるっての」
ぴょい、と遠慮なく潜り込ませていた手を引いて、レンが肩を竦める。
食う気も失せるとか、最初からそんな気ないくせにいい加減なこと言っちゃってまあ。
肩までコタツに埋まって、またテレビを見る。なんでもイルミネーションが綺麗な所の紹介をしているらしい。
いや、この寒空の下あちこち回るとはニュースキャスターさんは大変なことだ。NEET・・・いや、VOCALOIDで良かったなあ。
「リン」
「ん?」
呼ばれて振り向いた瞬間、唇に柔らかいものが当たった。
キスされたらしい。
「・・・何」
「あれ、今のキャスターさんの説明聞いてなかった?」
「説明?」
「あのツリーの前でキスすると永遠の愛を誓えるんだとか」
「へー」
今更何を、という気がしないでもない。
そんなことしないでも私とレンの愛は永遠・・・いやいやいや、ないわー。
絶対レン頭が茹だってる。
なんだっけ、42度、43度?そんな位の温度でタンパク質が変性するんだったよね。
つまりまあこれだけコタツに浸かってちゃ脳が変性したっておかしくはないんだよねきっと。
ってその理論じゃ私も茹だって・・・う、いや私にはみかんがあるもん。みかんが私の体温を下げてくれるから大丈夫!
ああー、ほてった頬に冷えたみかんがすごーく気持ちいいー。
「・・・スルーとか・・・キツ」
「ん?」
「何でもない」
「あっそ」
「そういや兄さんや姉さんは?」
「まだ寝てるよ?」
「え、今もう昼過ぎ・・・」
「言っちゃダメ。疲れてるんでしょ」
「疲れるほど何かしてなくねえ?」
「だから言っちゃダメって・・・あ、あのショートケーキいいなー」
「俺は断然ティラミスだな。マカロンもいいけど」
「バウムクーヘンの方がよくない?」
テレビの中は別世界。世の中なかなか差が大きい。
綺麗なイルミネーション?見に行くのが面倒。
美味しいお菓子?高価すぎてとてもとても。
クリスマスプレゼント?ああ誕生日と正月と一緒に来る例のアレ?
うーん、あんまりろくな記憶がないんだよね。せめてケーキくらいクリスマスと誕生日と別々にあっても罰はあたらないと思うんだけど。
不満を心の中でぶつぶつ呟いていると、肩口に何かが当たるのを感じた。
レンが寄ってきたらしい。
「レン狭い」
「ムードねえなぁ」
「え?じゃあ私に『やだ!こんな近くにレンがいるなんて!ドキドキ☆』とか思ってほしいの?」
「それはそれでキモい。程度があるだろ」
「程度、ねぇ」
また難しい注文をつける奴だ。
まあクリスマスという響きには何かしら特別っぽいものがあるけど、何を惑わされているのやら。前からレンはロマンチストっぽいところはあったけどね。
「・・・じゃ、レン」
私もちょっとレンに身を寄せる。
「こうなら、いいかな・・・?」
甘ったるい声で囁くように。
ちら、と上目使いで様子を伺い―――思わず吹き出した。
「ぶはっ、レンってば顔赤!」
「―――う、うるせー!コタツが熱いだけだから!ちょっと冷たい水飲んでくる!」
「へーえ?」
みかんなら冷たいけどね、とは言ってやらない。
残念ながら今度は仕掛けて来たのはそっちですから。
せいぜい冷たい床板に悲鳴を上げりゃいいのよ。ふふん、見たか性少年。
クリスマス?正月?誕生日?
すいません正直私達には関係ないです。
でも今はこれでじゅーぶん、幸せですよ。
「今年はミク姉達、誕生日に何の曲歌ってくれるのかなあ・・・」
みかんの皮を剥きながら呟いた声には微妙に笑みが混ざっていた。
メリークリスマス!
クリスマス?正月?誕生日?いや正直時間感覚がなくなるよね!という話。前提からしてグダグダ以外の何物にもなるはずがない。
なんかナチュラルに鏡音がいちゃつきそうになってどうしようかと思った。
・・・く、砕け散れリア充共(By・島下博文P)・・・!いやむしろ御馳走さまです。
とりあえず双子誕にはこれで先乗りした!(ぇ
これで誕生日祝ってるとかごめんね鏡音ペア。大好きだよ!
あと連載が暗いのでたまにはこういうのが書きたいっていうのもある。
あ、どこまでやったかは御想像にお任せしています。割と二人共慣れてますからね!
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へ...犯罪じゃないよ? 7
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