ゆさゆさと肩を揺らされてぼんやりと目を開ける、けどまだまぶたは仲良くしたがっていてとろとろと目を瞑る。おやすみなさい、世界。…ん?何だろう?何か凄く良い匂いがする。爽やかなミントの香りの中にビターチョコの香ばしさが…。
「はい、あーん。」
「あむっ。」
口の中に爽やかな甘さがほわりと広がった。はぁ~至福の時~…って、あれ?私何でチョコ食べてるの?
「美味しかった?ひおちゃん。」
「ひゃわっ?!とっ…?!きゃあっ?!」
一気に目が覚めて、反射的に思い切り飛び退いた。と、その拍子に私は椅子から落ちていた。隣に座っていた筈のしふぉんの足が目の前にある。何人かの焦った様子の声が上から聞こえた。すぐに起き上がろうとしたけど、驚いたのと椅子から落ちたのとついでに寝ぼけていたせいか、体が言う事を聞かなくて転んだまま呆然としていた。
「大丈夫か?緋織。」
覚えのある声に顔を上げると、金色の髪が見えた。
「た…鷹臣さ…?!わっ?!」
何で此処に?と聞く前に私の体は軽々と抱き上げられ宙に浮いていた。息が掛かりそうな距離に鷹臣さんの顔がある。
「何処かぶつけた?眩暈や吐き気は?」
顔がかぁっと熱くなって、言葉が出なくて口をぱくぱくさせて、多分今の私金魚みたいになってるんだろう。心臓が飛び出しそうな位バクバク打ってて、聞こえそうで怖い。
「リアル姫抱っこ良きかな、良きかな。そろそろ緋織ちゃん完熟トマトに進化中、っと。」
「トマト?」
「ああああああ、あのっ!だ、い…じょうぶ…なので…下ろ…して…!」
やっとの思いで言葉を口にすると、鷹臣さんは私をそっと椅子に降ろして、何時の間にやら写真を撮っていた鶴村先輩からデジカメを取り上げてデータを削除していた。顔から熱が引かなくて、心臓が倍位の速さで、手で頬を隠した。
「チョコに酒は入ってない筈だけど?」
聞き慣れない声に落ち着かないまま振り返ると、私にチョコを食べさせたであろう人が頬杖を付いてクスクス笑いながら見ていた。チョコ細工みたいな髪と瞳、それに眼鏡。…あれ?この人…何処かで…。記憶を辿って、確証の無いまま聞いていた。
「医務室で寝てた…人?」
「お、正解。ご褒美にチョコもう1個あげよう。」
眼鏡の人はポケットから小さな包みに入ったチョコトリュフを私の前に差し出した。
「『DeliciousForest』新作、ミントとチョコのコラボな美味しさ『キュートなハリネズミ』さっきの1個とそれ合わせて150円ね。」
「お金取る気ですか?」
満面の笑みで当然と言わんばかりに手を出していた。よく知らないけど取り敢えずこの人最低だと確信していた。
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