~どっぐちゃん視点~
年が明けてからもう、既に二月が経ってしまった。
まだまだ寒さは厳しいけれど、日も少しずつ伸びてきて、いつか来る春を予感させる。
そんな―――――二月の末のこと。
「あれ? どっぐちゃんどうしたの?」
不意に声を掛けられたあたしは、何気なく振り向いた。
と、真正面に――――――――――
『♪』
『きゃぃんっ!!?』
ピンク色の生物の入った金魚鉢とご対面してしまい、思わず犬みたいな悲鳴を上げてしまった。は、はずい……。
「あはは、かわいー」
「……しるるさん、ちょっと後で屋上に行こうか」
「え、私にそんな怖いことするつもり? ターンドッグさん追い出しちゃうよ?」
「ぐぬ……」
自分の立場を利用するのがうまい人だ。
ひょい、と金魚鉢を持ち上げるお騒がせさん―――――もといしるるさん。その後ろに同じような金魚鉢を抱えたちずさんと、ルカさんのフィギュアを抱えてほくほくしているイズミ草さんもいた。
「ああ、『その子』ルカ誕の賞品か。まったく面白い子よねぇ……なんだっけ、それぞれのルカさんのデータから作ったって言ったっけ?」
「うん、まぁそんな超常的なところは全部ネルちゃんに任せたけど!」
まぁ早い話が、あたしを作った時と同じことをしたって事よね。
しかしデータから生物(?)を作り出すって、ホント彼女どんな技術持ってんのかしら……錬金術でも使ってんのかね?
「この子ターンドッグさんに渡したいんだけど……どっぐちゃんなんで部屋の前に陣取ってるの?」
「あー……」
そう、今あたしは部屋の扉の前に座り込んで通せんぼしているのだ。
そうでもしないと―――――惨劇を目の当たりにするだろうから。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~Turndog視点~
『……わたしね、本当はもう全然怒ってないの』
ルカさんの足が畳を踏む。改装を重ねたかなりあ荘はちょっとやそっとでは壊れやしなくなったが、それでもみしりと音がする。
『あんなに嬉しい祝い方してくれたし、誕生日プレゼントの懐中時計もすごくうれしかった。あれ、毎日使ってるわよ』
「そ……そうですか、嬉しいですね」
しかしにこやかな口調とは裏腹に、ルカさんの裸足が畳を踏みしめる音は重々しい。
『こんなにも尽くしてくれた上に、二年前の物語を見つけ出してくれたんだから、許したげる。――――――――――でもね』
ぴたり、と俺の目の前でルカさんの足が止まった。簀巻きにされ、部屋の中心に寝かされた俺の目の前で。
『――――――――――あなたは私に『注目入りする』と約束し、一番をとることを誓ってくれた。私はそれに応えた。――――――――――約束破りだけは、決して許さないのが私の忠義でね?』
直後、部屋中が黄色と蒼の波導に覆われた。
部屋の隅で、凍り付いた表情をしたリン、レン、カイトが手を掲げている。
『……『ツイン・サウンド』による超回復・超速死者蘇生。『卑怯プログラム』による防音・耐衝撃完備。どれだけ傷を負っても瞬時に回復し、周りに迷惑をかけることもない。―――――痛みの記憶は残るけどね』
「ひ……」
『さぁて、まずは…………………………』
ズラリ、と鉄鞭を抜いて――――――――――振り下ろす!
『一発目えぇええええええぇぇえぇえぇええぇえ!!!!』
『ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』
『二発めええええぇぇぇえええぇぇえぇぇぇえ!!!!!』
『グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』
『三発目ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇええぇぇぇぇぇぇぇえ!!!!!!』
『ぬわあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!』
『ばかばかー!!!!!! あたしへの愛はそんなもんなの―――――!!!? 四発めえええええぇぇぇぇぇぇえええぇえぇぇえええぇえぇぇえええええぇ!!!!!』
『いやあああああああああああああああそこらめええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!』
『その程度でルカ廃気取るなあああぁぁぁあああ!!!! ばかぁあ!!!! ばか―――――!! 五発めぇぇええぇえええぇぇえええぇええぇぇぇえぇえぇええ!!!!!』
『みゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!』
『マスターはこんなもんじゃなかったわよ―――――!!! 自分の作ったキャラに負けるなばか―――――!!!! 6発目ええええええぇぇぇぇっぇぇええぇえぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!!!』
『ふみいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!』
『もー!!!!! ルカちゃん怒っちゃうぞ―――――――――――――――!!!!! 七発めええぇぇぇぇぇぇえええええぇえぇぇぇええぇぇぇえぇぇええええ!!!!!』
『きゃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいんん!!!!!!』
『えーいくらえええええ!!!!! かりすま☆うぃっぷううううううううううううううううう!!!!!!』
『ああああああああああああああああああああああううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!!!』
『……カイト兄。帰りたい……』
「……我慢だ、リン。レン。ここで帰ったらTurndogさんが死ぬぞ。それにきっちりお勤めしたらルカちゃんが黒毛和牛のサーロインおごってくれるんだぞ。100g5000円強の特A級だぞ」
『……釣られた自分たちが憎い……』
……………ということで。
途中からお仕置きというよりも、ドS魂が揺らされ楽しくてたまらなくなってきてしまったルカさんが調子に乗ったおかげで。
俺は全身の皮膚を引き裂かれ、リンとレンのおかげで一瞬にして全快し、また引き裂かれるという生き地獄的責め苦を、誰にも知られることなく十数分受け続けたのだった。
dogとどっぐとヴォカロ町! Part12-1~ルカさんの照れ隠し(物理)~
あああああ。痛みの記憶が……。
こんにちはTurndogです。
一応ね。ルカさんには頂点を捧げると約束しちゃったので。
形式みたいなもんです。ええ。おかげで死ぬのが怖くなくなるほどの恐怖と痛みの記憶を植え付けられましたが。
因みに鋼線を編み込んだ鞭でひっぱたくのはよほど巧い人がやらない限り相手か自分の首が物理的に飛ぶのでやめようね。
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