紫陽花とカタツムリ
雨が降り続く頃
紫陽花が咲き誇り、その葉の上をカタツムリがはっておりました。
紫陽花の葉をカタツムリは少しかじって、のろのろと酔ってしまいました。
それでもまたカタツムリは紫陽花をかじります。
しまいには殻をすり抜けて身が土に落ちてしまうまでかじりました。
紫陽花には実は毒があるのです。
紫陽花は美しい薔薇のように自分を守るトゲがない代わりに、毒を身体にまといました。
一方で先ほど地に落ちてしまったカタツムリはとてもベトベトして醜い姿をしています。
カタツムリは願いました。ひとりぼっちで醜いわたしもこの葉を食べれば美しくなれるかしら。紫陽花さんのように、たくさんの仲間に囲まれてお揃いのリボンを結ばれて美しく咲けるなら、一度くらいの命を落とすことも怖くない。
そう願いながら、ねじまきの殻を捨て去ったのです。
雨の止む頃
カタツムリの殻を大事そうに紫陽花の根本に埋めてあげたのは、
通りがかりの薬師の見習いでした。
そして見習いは、一口カタツムリのように紫陽花を口に入れてしまいました。
するとめまいが起こり気がぼんやりとする中で夢うつつに、カタツムリの命を見ました。
次に見習いはカタツムリになっていました。そして同じように泣きながら紫陽花をつたってその額をまた繰り返し繰り返し食みました。
そしてまた土に落ちました。
薬師の見習いは、運ばれて後、解毒薬を飲まされて、家族に見守られながら目を覚ましました。
辛いカタツムリの夢から一転、見習いは安堵していました。
そしてまた同じ紫陽花の前で薬師見習いは、
せめてカタツムリのように美しさに憧れ、毒におぼれる誤ちも昇華されて、
次は紫陽花に生まれ変われますように
とカタツムリのために、空へ祈りました。
すると小さなカタツムリの命が紫陽花に吸い込まれていきました。
紫陽花はただ守るために毒をまとったわけではないのかもしれません。
きっとかわいそうなカタツムリを助けるための薬をまとっているのでしょう。
そう思って、薬師見習いがさった後
咲き誇る梅雨に濡れたままの紫陽花がぽとりと泣いたようでした。
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