「薔薇がお好きなんですか?織物も細工物も、薔薇の意匠の入ったものをよく手に取られていましたが」
壁際に設えられたマントルピースに咲く薔薇の細工を眺めながら、青年は少女へと声を掛けた。
お茶とお茶菓子の用意が出来るまでの時間を待つために、ふたりは別の一室へと場所を移していた。
常に王女の傍に控える召使は、お茶の用意のために下がっている。王女の口に入るものは、全て彼が自ら用意するからだ。
通されたのは中庭に面した小さな部屋だったが、城の至る所を彩る植物を模した黄金細工が、ここでも家具や窓枠を優美に飾り客人の目を引いた。
「ええ、とても。母が私に選んでくれた花だもの」
先ほど求めた、数点ばかり目に留まった装飾品を満足げに眺めて、王女は機嫌よく答えた。
「二輪咲きの黄金の薔薇ですね。黄金は判るとして、二輪咲きというのは珍しいですね」
不思議そうな問い掛けに、王女は手元から目を上げた。
繊細な金鎖の細工を指先に弄びながら、金色の髪の少女は口を開いた。
「この城にも薔薇園があるのよ。私が世界中から集めさせたの。ちょうど良いわ、お茶の用意が出来るまで時間もあることだし、あなたにも見せてあげる」
そこは、城の中に人工的に作られた空中庭園だった。
土を運び入れ、精密に水路が引かれたそこには、色も形も様々の薔薇の花が見渡す限りに美しく、完璧なまでに咲き誇っていた。
噎せるほど濃密な薔薇の香りの中、咲く花はどれもが今を盛りと瑞々しく、枯れ花一輪、落ちた葉一枚、そこにはない。
「これは・・・見事だ」
驚きの混じる、青年の言葉の出ない賞賛に、庭園の主である少女は自慢げな笑みを浮かべた。
噴水のある庭園の中央に進み出て、端から端まで全てを示すかのように両手を広げる。
「素晴らしいでしょう?ここには、ありとあらゆる種類の薔薇があるわ。・・・でも、この中にも青い薔薇はない。ボカロジアの青い薔薇なんて初めて聞いたわ。王族の名をわざわざ冠するようなもの、貴方なら何か知ってるんじゃなくて?」
期待の熱を篭めた視線に、その名を持つ公子は申し訳なさそうに肩をすくめた。
「私の実家でも薔薇は育てていますが、特に珍しくもない白薔薇ですよ。生きた薔薇で青い色を作り出すのは不可能に近いと聞いたことがあります」
「知っているわ。ただ、もし青い薔薇が現実に存在しているのなら、何が何でも欲しいわね」
「これほどの薔薇園を持っているのに満足はされない?」
愚かな問いを嘲笑うように、王女と呼ばれる少女は顎を上げた。
「私は気に入ったものは全て欲しいの。半端なものなどいらないわ」
傲然と言い放ち、リンは思いついたように声の調子を変えた。
「あなた、薔薇には詳しくて?」
「いえ。正直、花のことはあまり・・・」
心もとなげに答える相手に、笑って庭園を指し示す。
「この庭園の花で、私に最もふさわしいのはどれかしら。選んでご覧なさいよ」
「困りましたね」
試すような要求に、求婚者を名乗る青年は苦笑を浮かべた。
彼は庭園を見渡し、そして一輪の花も手に取ることなく、少女の前に膝を折り、恭しく取った手の甲に口付けた。
「八重咲きの大輪も、可憐な一重咲きも、それぞれにあなたを飾るにはお似合いでしょう。ですが、あなたに並び立てる花は、この中にもきっと見つかりませんよ」
従順に服従を示す公子を見下ろし、王女は酷薄に唇を吊り上げた。
「・・・上手な逃げ方だこと。少しは勉強したのかしら。つまらない花を選んだら、それを理由に追い出してやろうと思ったのに」
満足そうに預けた手を引き、踵を返しながら促す声をかける。
「行きましょう。レンがお茶の準備を終える頃だわ」
立ち去る少女の後ろ姿に、顔を上げた青年がひっそりと微笑んだ。
「・・・どうぞお手柔らかに」
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第12話に続きます~。
http://piapro.jp/content/l7rxwtri17pm83b7
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「街って、城下のこと? そんなものを見て、何が楽しいの?」
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azur@低空飛行中
ご意見・ご感想
くくる様っv
ご感想ありがとうございますv
はい、お嬢はあえてのツン全開です(笑)
下克上しなくたって、世界を跪かせる王女様ですがv
成分無調整100%王子www
ノリノリな兄さんに書きながら爆笑してます、楽しいです。
しかして、白タイツも履きこなせそうな爽やかな顔して、腹を割ったら何だか真っ黒そうな気がするという(笑)。
お、おかしいな、脳内ではうちの兄さんはヘタレ街道まっしぐらなのに・・・!
ありがとうございます!続きも頑張ります~。
2008/12/01 23:42:48