タグ:カンタレラ
91件
翌日の朝一番、時之助が寺へやって来た。何やら興奮気味である。
「陽春さま!國八の正体が知れたかもしれやせん!」
「ほう、何故だ」
「昨夜、俺ァなんとお庭番に釘を刺されたんですよ!國八のことを嗅ぎ回るなと!陽春さま、國八ってなァ、もしや公方様の…!」
「末娘だそうな」
「…へ?」
僧衣の両袖にそれぞれ...カンタレラ その7
牛飼い。
「何と申した…?」
駒乃屋の一室では、陽春が凍りついていた。
請われて、國八がもう一度その名を口にする。
「徳川家斉様。わっちの父親は、あなた様のお父上でありんす。…九三郎さま」
まさか。
そんなことがあるのだろうか。
父・家斉には子が多い。ゆえに陽春には、顔も見たことのない兄や姉や妹がいた。
國八...カンタレラ その6
牛飼い。
近頃、花魁は御機嫌である。
鼻唄を歌う姉女郎を見ながら、なつめは折り紙で遊んでいる。
國八の客である陽春が買ってきてくれたものだ。
「おや、可愛くできたじゃないか」
千代紙の蛙をひょいと摘まんで、國八は禿を誉めた。
「陽春さまが御手本を買ってきてくだっしたゆえ、わっちゃァ何でも作れんす。花魁、何でも...カンタレラ その5
牛飼い。
六日後、陽春は再び千代田屋を訪れた。
裏を返すためである。
この日も、國八はなつめだけを連れて現れた。
赤、瑠璃色の二枚の小袖に褐返の本帯を締め、大菊紋様をあしらった飾り帯の地色は金赤である。打掛は上から鉄紺、緋色、甚三紅で、鉄紺地には白糸で小菊が散っていた。
初会と違い國八が傍へ来て酌をしてくれ、...カンタレラ その4
牛飼い。
どこからか、三味線の音が聞こえてくる。夜見世の開始を告げる見世清掻である。
江戸随一の花街は、今日も妖しげに活気づき始めていた。
弘龍寺のある向島から吉原までは、大川橋を渡ってすぐである。
暮れ六つを少し過ぎ、大門前で落ち合った陽春と時之助は、吉原の大通り・仲の町通りを水道尻の方へと歩いていた。
「...カンタレラ その3
牛飼い。
「酷いじゃあありませんか陽春さま!ご自分だけお逃げになって!」
数刻の後、陽春は膳を前に時之助と向かい合っていた。
今日の昼餉は、時之助も陽春の部屋にて相伴している。
「まあ、そうかっかするな。雨に降られたとでも思って」
「雨に降られて、膝から下の感覚がなくなるんですかい」
平生は何くれと忙しく走り...カンタレラ その2
牛飼い。
梅鼠色の空の下、猩々緋の大傘が開く。
「花魁、そろそろ参りんすか」
「あァ、行こうかねえ。なつめ、文は持ったかえ?」
「確かにここにありんす」
「それじゃ、行くとしよう」
一人の遊女が、本漆の三枚歯下駄を踏み出した。
―カンタレラ―
時は寛政、徳川幕府第十一代将軍、家斉の治世。
江戸は向島、日蓮宗弘...カンタレラ その1
牛飼い。
この小説は言わずと知れた名曲、カンタレラのMEIKOバージョンと合わせてみたを小説化したものです。
カイメイ前提のミクメイ要素があります。苦手な方はご注意ください。
自己解釈の個人的妄想の産物なので、多少はそういった部分もありますが、
ほとんどが歴史や人物像などには真に迫っていません。二次創作です。...カンタレラ <カイメイ> 登場人物設定
りと
「カンタレラ」と「悪ノ娘・悪ノ召使」の世界を強引に繋ぎ合わせた、中世風ボーカロイドMIX小説です。
設定について
登場人物
ミクレチア・ボカロジア・・・ボカリア公国公女。愛称ミク。
ローラ・・・ミクレチアの侍女
カイザレ・ボカロジア・・・ボカリア公国公子
ハク・・・カイザレの側近
リン・クリプトン・...【完結済】 「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【設定と目次】
azur@低空飛行中
一面に咲き乱れる白い薔薇の花は、月光に薄蒼く輝くようだった。
広大な庭の一角を占めるその花に囲まれて建つ、小さな東屋。
昼間は彼女のお気に入りの場所でもあるその床の上に、少女は壊れやすい細工物よりも大切に下ろされた。
硬い石の床を足元に感じながら、普段、見慣れない夜の庭を見渡す。
どんな花もその骨頂...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【カイミク番外編】 第5話
azur@低空飛行中
堅い木の扉を通して、抑えたノックの音が部屋に響く。
答える声のない沈黙に、間をおいて更に二度。音が繰り返した後、ゆっくり扉が開いた。
静かに踏み込んだ影は、室内の暗さに戸惑ったように、一度その場で足を止めた。
闇に目を凝らすと、そこへ差し出すように薄明かりが差した。
淡い光源に目をやれば、それは窓越...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【カイミク番外編】 第4話
azur@低空飛行中
嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼。神様神様かみ、さま。
私は間違えていたのでしょうか。
それは一体いつから?
…いいえ、きっと、もう、最初からなのでしょうね。
( お詫び申し上げます、候 )
#side-R
今思い返せば、お母様もお父様も何処か可笑しかった…いえ、歪んでいた、のほうが正しいでしょうね。
兎に角、お父...maybe..
西宮水人
複雑に交じり合う楽器の音色が奏でるのは、聞き慣れぬ哀切な旋律だった。まるで遠い国の音楽のような、それでいて、どこか懐かしさも感じられる不思議な響き。
それに合わせて広間の中心で踊る、この国の大公と公女。他には動く影すらなかった。
二人の足が刻むありふれたステップが、時折見慣れない形を踏み、その度に室...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【カイミク番外編】 第3話
azur@低空飛行中
「初めまして、侯爵夫人。お会いできて光栄です。今宵はようこそお越しくださいました。もの慣れぬ身ゆえ、不調法があればお許しください」
淡い薔薇色の唇が開き、細く甘い声が零れた。
控えめにドレスの裾を摘んだ少女に、年かさの貴婦人が強い視線を向ける。
「こちらこそ、光栄ですわ。お名前をお聞きしてもよろしい...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【カイミク番外編】 第2話
azur@低空飛行中
賓客らを迎える広間の明かりは、その歴史ある屋敷にはいかにも似合いの抑えた明るさだった。
無数の光を灯す銀の蜀台は華美ではないが隅々まで磨きこまれ、瞬く炎が揺らめくたびに天井や調度の片隅に不思議な影を作り出す。
壁際に下ろされた幕の向こうでは、既に集まった客人の会話の邪魔をしない程度に管弦楽の音がゆっ...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【カイミク番外編】 第1話
azur@低空飛行中
―――…見つめ合う二人。
そこは、閉じられた世界。――
気付かないフリをしていても、酔いを悟られそうだ。
焼け付くこの心を隠して近付く。
吐息を感じれば、痺れるほど…。
ありふれた恋心に僕は今、罠を仕掛ける。
僅かな隙間にも
「足跡は残さないよ?」
僕は君が欲しいだけだからね?
"見え透いた言葉"だ...カンタレラ
【梓】紫姫【花梅】
「メイコは行ったようですね」
背後からひっそりと掛けられた声に、彼は静かに応えを返した。
「終わったか?」
「ええ。・・・少し歩きませんか」
音もなく横に並んだ影に、黙って頷く。
一斉に、歓声の聞こえたほうを目指そうと流れる人々の間を抜け、さりげなく人気のない方へと足を進め、彼らが向かった先は閉ざさ...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第25話】後編
azur@低空飛行中
「・・・・・・これから、どうするの?」
「どうとは?」
何事もなかったように襟元を正しながら、青年が首を傾げた。
掴み掛かられたことを気にした様子はない。鷹揚というよりも無関心に近い、手ごたえのなさだった。
「国を挙げて動けないあなたが、ここまで密かに私達を支援してくれたことには感謝するわ。でも・・...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第25話】中編
azur@低空飛行中
城の入り口付近は、人波でごった返していた。
外から城内へ踏み込んでくる解放軍はまだ引きも切らず、念願の王城陥落に興奮した声を上げている。
王女を捕らえよと城の奥を目指す彼らの合間、城の内にあって監視の目から逃れることが出来ずにいた下働きの人間や、王女の不興を買って城の地下へ投獄されていた人々が保護さ...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第25話】前編
azur@低空飛行中
広間を駆け出ると、喧騒はいっそう大きくなった。
剣戟に入り混じる悲鳴と怒号で、耳がおかしくなりそうだ。
「兵はどうしたの!?」
誰ともなく叫べば、見知った家臣の一人が駆け寄ってきて手を伸ばした。
「リン様!この国はもう落ちます。お逃げください。さあ、こちらへ!」
「待って!離して!レンがまだ帰ってき...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第24話】後編
azur@低空飛行中
王宮は斜陽の内にあった。
窓から差し込む西日は目を眩ませるばかりに輝き、幾つもの広間や回廊に立ち並ぶ無数の柱、その表面に施された細かな彫刻のひとつひとつまでも照らしながら、その後ろに迫る終わりを暗示するかのような長く黒い影を作り上げている。
その最後の輝きのような眩さに怖れながら息を潜める人々、各々...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第24話】前編
azur@低空飛行中
全身にぶつかってきた鈍い衝撃に、ミクは身を硬くして息を詰めた。
網膜に焼きついた、空を切る刃の残像。
次に襲い来るだろう苦痛に、全ての意識を向けて身構える。
酷く長く感じる一瞬の後、けれど予想した痛みは襲ってこず、代わりに耳元へ届いた低いうめき声に、彼女は瞑っていた目を見開いた。
「え・・・?」
気...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第23話】
azur@低空飛行中
「お前の、嫁ぎ先が決まった。ミク」
その言葉に、彼女はただ目を見張っていた。
思いもよらないことを告げられた驚きが、その表情には現れていた。
無理もないとカイザレは思う。
世の娘なら誰しも、特に貴族社会の娘ならば、年頃になれば真っ先に持ち上がるのが結婚の話だ。身分の高い娘ならなおのこと、本人よりも早...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【幕間】
azur@低空飛行中
闇に荒い呼吸の音だけが響く。
首筋に押し付けられた刃の冷たさが、その存在を伝えていた。
振り向くことも出来ないままで、ミクは必死に背後の気配を探った。
「よく知りもしない場所で、正体も知れぬ者をひとりで追うなど、軽率に過ぎるんじゃないか」
刃よりも冷ややかなその声に、背筋が震えた。
弾む息を抑えて囁...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第22話】後編
azur@低空飛行中
報告を受けた小競り合いは、大したことではなさそうだった。
二人の足が現場にたどり着く頃には、騒ぎの原因らしき兵士たちが、既にほとぼりも覚めて小さくなっていた。
騒ぎの内容が兵士同士のただの喧嘩なら、ミクが首を突っ込むような話ではない。
レオンが当事者の兵士たちを前に責任者と思しき上官から話を聞いてい...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第22話】前編
azur@低空飛行中
「・・・はい、もしもし、KAITOです。」
「KAITO・・・俺だ。」
「ああ、仕事ですか・・今回は何を?」
「ミクお嬢様のことは知ってるか?」
「ああ・・・あの金持ちのお嬢ですか。」
「そうだ。まず、そこに執事として潜入すること。明日、お前のところにカンタレラという毒薬が届くはずだ。タイミングを見...多分タイトルはカンタレラだと思う
いよっこ
「あの薔薇はボカロジア家だけが育てている薔薇よ。美しい純白だったでしょう。一族が誇る最高の美、そして親愛なる共犯者よ。一族に嫁いでくる花嫁を祝福して、結婚式で贈られる花でもあるの」
「共犯者というのは?」
何気なく問いかけたレオンの腕に、蔦のように伸びた細い腕が絡みついた。
動きを止めた男の肩に顔を...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第21話】後編
azur@低空飛行中
束の間、和んだ空気を破ったのは、慌しい足音だった。
「怖れながら、申し上げます」
扉の外から響いた兵士の声に、辺りの空気が一気に張り詰める。
「入れ」
入室した兵の報告を聞いていたレオンが、ふと肩から力を抜いた。
緊張気味に様子を見ていたミクも、それに胸を撫で下ろした。
最も懸念する事態、小康状態を...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第21話】中編
azur@低空飛行中
戦況が動いたのは、それから間もなくのことだった。
『クリピアの本国で、民の暴動が起きているらしい』
どこからともなく、そんな噂が聞こえ始めた。
それはシンセシスの明暗を分けると言っても良い、重大な一報だった。
日夜もたらされる前線の報告に加え、巷に流れる埒もない噂までもつぶさに集めて、レオンは報告に...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第21話】前編
azur@低空飛行中
戦場は陸路の国境にほど近い街だった。
美しい石造りが風光であった街は炎に煤け、あるいは崩れた姿を晒しながら、なおも戦火に耐え、その面影を留めていた。
その外れ、忘れられたように残されていた、かつての時代にもここが戦場であったことを示す古く堅牢な城が、戦の本営の置かれる場所となった。
戦況は圧倒的にシ...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第20話】
azur@低空飛行中