UV-WARS
第一部「重音テト」
第一章「耳のあるロボットの歌」
その25「旅立ち」
金属の擦れ合う音と、何かが潰れる音がした。
テトはタイムマシンの中で態勢を立て直すと、外を見た。
モモはすぐそばに倒れていた。
テトはもう一人の姿を探した。
「メイコさん!!」
モモが弱々しく指差した。
マシンと壁の間に白い右手が見えた。
テトは駆け寄って、マシンと壁の間に手を差し込んだ。
全力でマシンを動かしたが、テトのパワーでは隙間を作るのが精一杯だった。
隙間の奥にメイコの白い顔が見えた。
「メイコさん?」
メイコは笑顔をテトに向けた。
「大丈夫、と言いたいけど、やっぱり、だめみたい」
「待って。なんとかするから」
メイコは小さく首を振った。
「わかってたの、こうなるって」
メイコの目に涙が浮かんだ。
「私の歴史は必ずここで終わるの」
モモの弱々しい声が届いた。
「衝突まであと12秒…」
メイコははっとなって大声を出した。
「モモ、キープコマンドの入力を、早く!」
モモは頷くと声を振り絞った。
「テトさん、支えて下さい」
テトはモモを両脇から手を入れて支えた。
モモは画面の中のキーボードを叩いた。
すると、すべての音が消えた。
「どうなったんだ?」
「タイムマシンの機能の一つです。機械の周囲にバリアを張って、時間の流れを、止めたんです」
「?」
「物は落ちる時、上から下に落ちます。それは重力が関係していますが、時間の流れも要因の一つです。従って、時間がながれなければ、物は落ちずにそこに留まることになります」
「なんで、そんな機能が必要なんだ?」
「テトさん、輸送機で移動中に、別の輸送機に移動するには、どうします?」
「輸送機同士で速度を合わせるか、両方とも着陸して止まるか… そうか!」
「時間旅行が可能なのは、こちらの流れを固定して別の時間の流れに橋を掛けることが出来た時です」
「原理はなんとなく分かった。で、どうすればいい?」
「それは、メイコさんにお伺いしないと」
「何を」
モモは声を張り上げた。
「メイコさん、座標は?」
振り向くと、白い手がひらひらと動いていた。
メイコの声がした。
「座標はこのまま。時間軸を、マイナス550にセットして」
モモは手早くコンソールを操作した。
「出来ました!」
「タイマーを30秒後にセット」
「しました」
「テト」
呼ばれたテトは、手招きする白い手とモモを交互に見やった。
「行ってあげてください。私は大丈夫ですから」
テトはゆっくりとモモを下ろし、マシンを背に座らせた。
テトは白い手に歩み寄った。
「何? メイコさん」
「この星は、沢山の命と水であふれていたの。人間だって、70億人はいたわ。あなたが歩いてきた砂漠も本当は、海だった」
「海?」
「どこまでも青い海と青い空が、続いている美しい世界が、この星にはあったの。だけど、今は、厚い雲と砂漠に閉ざされてしまった」
「空が、青い?」
「どこで間違ってしまったのかしら…。みんな、幸せに暮らしていて、明日も幸せに暮らせると信じていたのよ」
「メイコさん、泣いて…」
「私は、自分の未来を変えられなかった。でも、テト、あなたは変えてみせたわ」
「何の話を…?」
「私が知ってる歴史では、あなたはここに一人で来ることになっていた。でも、あなたはモモさんとやってきた。つまり、…」
「つまり?」
「未来は、きっと変えられる!」
「わたしは、何をすればいい?」
「お願いがあるの」
「何?」
「マスターを守って。そして、ミクを助けて」
「誰を?」
「行けば分かるわ。なぜなら、あなたの一番大事な人だから」
「どこへ? マスターって、誰? ミクって、誰?」
白い手の動きが止まった。
返事はなかった。
「メイコさんのシステム停止を確認しました」
「聞きたいことがもっとあったのにな」
振り返ったテトはモモの予想外の行動に反応出来なかった。
モモは自分の耳当てを外し、中のSCを取りだした。
「私も過去へ連れて行ってくださいね」
「ああ。だけど、SCを外さなくても…」
「このハッチは、外からしか閉められないんです」
「そう、なのか」
「ですから、他のみなさんも、連れて行ってあげてください」
モモは体内のポケットから、デフォ子、ユフ、サラ、リツ、ルナ、マコ、ルコのSCと、SCプレーヤーを取りだし、テトに渡した。
「あとは、いつもと同じです」
モモはテトを促すように手を伸ばしてテトの体を押した。
「また、会いましょう」
テトは中心のテーブルに腰掛けた。
「本当に、また、会えるのかなあ…」
「きっと会えます。少なくとも、470年後には」
「何、その数字は」
「テトさんは、今から550年前に向かいます。わたしが製造されたのは80年前ですから」
「単純な計算だ」
「でも、さっきのメイコさんの言葉を借りれば、テトさんはきっと歴史を変える力を持ってます。だから…」
「だから?」
「次は、わたしも、過去へ行けるかもしれませんね」
モモがスイッチを押すと、ハッチが閉じ始めた。
「テトさん、私、少しだけ歴史を知ってるんです」
「何を」
「耳のあるロボットの歌」
「ああ。あれか」
「あれは、テトさんの歌なんです」
「え?」
「テトさんは、歌…」
ハッチが閉まると、一切の音は聴こえなくなった。
「モモ!」
テトの声はモモに届かなかった。
「テトさん、行ってらっしゃい」
同じく、モモの声も、テトには聞こえなかった。
テトの体を青白い炎のような光が包み始めた。テトの体が、炎のように揺らめいた次の瞬間、テトの姿が消えた。
モモは天井を見上げて、微かなひびれを見つけ、目を閉じた。
「ウタさん、これで、よかったんですよね」
モモは小隊長の顔を思い浮かべながら、意識が遠のいていくのを感じた。
モモのスイッチにかかっていた手が力なく床に投げ出された。
時間が動き出し、巨大な岩塊が家を押し潰した。
その直前、タイムマシンだけが消えた。
〇
テトは感覚を失っていた。
上昇しているのか、落下しているのかさえ、分からなかった。
目を開けても周囲は闇に包まれていたので、目を閉じた。
耳を澄ませた。
〔歌が聴こえる〕
♪まとめたなら 細かく包んで
♪影を避けて ここまでおいで
〔モモが歌っていた歌だ〕
♪行く先々 辿る道しるべ
♪訪ね歩き ここまでおいで
〔モモが、データをくれたのかな〕
♪恋をして 恋をして
♪恋をして振られ また捨てられて
〔なぜだろう。歌詞だけなのに、歌える〕
♪過去を見て 枝を切れ
♪泣きたくなっても まだ Nを増やせ
〔わたしの歌、なのかなあ〕
♪恋をして 恋をして
♪その過去を 捨てて
♪ここまでおいで
周囲が明るくなり、テトは目を開けた。
それは明るい青い色に染まった空間だった。
〔これが、空。なんて、綺麗な青〕
無方向だった感覚が特定の方向に加速度を付けて動き始めた。
テトは背中に風を感じて振り向いた。
一面、深い藍色の壁が広がっていた。
〔これが、海。なんて、深い、青? いや、藍色か〕
テトは落下していく感覚に身を任せて、目を閉じた。
これから始まる長い旅の最初の感覚を体に刻むためだった。
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第二章「星が弧を描く様」へ続く
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