ー発端ー
「いやだ、いやだ、絶対、ぜぇっっっったい行かない!!」
「レン、わがまま言うなよ。僕だって僕も困るよ」
ピンク色のクッションとクマのぬいぐるみを抱きかかえ、金髪に青の丸い目がにらみつけたのは、青い青年だった。
金髪は肩ほどまであるショートヘアーだったが、前髪は酷い癖毛で上やら右やら左やら前やら、統一性なしに跳ねていた。透き通るような瞳には不満そうな表情しか見て取ることは出来なかった。
対して、そんな少年を見下ろすように仁王立ちの碧い青年は、碧い整った髪と、青く深い海のような目、蒼いマフラーに紺色のスーツと、異様な服装では合ったが、優しげな彼の雰囲気によくあった服装とも言えた。優しげな雰囲気ではあったが、その目はシャープで鋭い。
「王位継承の儀は明後日に迫ってる!」
「俺はそんなの知らない!俺、まだ十四だよ?なのに王位継承!?ふざけてる!」
「ふざけてるといわれても…。どうしたもんかなぁ」
「兎に角、俺は行かないからね!」
ぷいっとそっぽを向いて、少年――レンはすねたように頬を膨らませた。
困ったように青年――こちらはカイトと言ったが――は、片手を腰に当ててもう片方の手で髪の毛をわしゃわしゃと引っ掻き回した。
「レン、頼むよ」
「いーやー」
「頼むって」
「絶対いや」
「レーンー」
「やーだーもーん」
「もー。怒られるの、僕なんだからぁ」
「知らない!俺、悪くないもーん」
「うわっ、何、このこ、サイテー!王子様が言うことじゃないよ!」
「じゃあ王子様じゃなくていーいー」
「いやー…」
少しの間続いた短い口げんかは、レンに軍配が上がった。
この会話でもわかるとおり、レンは世に言う『王子様』である。しかし、普通の王子様ではない。なにせ、ここは、『ヴァンパイア』の国なのだ!
住む人々はヴァンパイア。勿論、国王や家臣たちもヴァンパイアである。そんな国の王子様であるレンも、ヴァンパイアであり、その城でレンのお目付け役兼執事のカイトも、ヴァンパイアなのだ。
と、そこに、ひょっこりと顔を出したものがいた。
「…五月蝿いんだけど。」
黒い髪に黒い服、紫色の瞳に眼帯。一見変わった風貌の青年は心なしかカイトに似ているように見えたが、すこし目つきが悪い。
「帯人!」
「…何」
「カイトが虐める!」
さっと帯人のほうに走って行って、後ろに隠れるようにした。
「えぇっ!?」
「…殺る?」
「誤解!!」
アイスピックを取り出した帯人に、カイトが弁明しながら焦ったように後ろに少しだけ下がった。その間に、レンが走り出していた。
「あっ、レン!」
「絶対でないもんねっ!」
『あかんべ』をして、レンは全速力で走っていた。
途中、長い廊下でメイドや執事や家臣達と出くわしたが、それを少しだけよけてほぼまっすぐに突っ切っていった。
長い廊下を抜けると、庭園に出た。薔薇、椿といった高貴なイメージの花から秋桜(コスモス)やマリーゴールド、チューリップなど多種多様な花々が咲き誇る、さながら絵本にでてくる花園である。ふわり、とバニラの甘い香りが漂ってきた。
紳士的な整った服装と少し厳しそうな切れ長の目、白い手袋をつけて花々の手入れをしている姿は、絵にしてもなんら不自然でない。
「おや、王子、どうされました?」
「キカイトっ!カイトが追いかけてくる!」
「…王位継承の儀の件ですか」
「…え。」
「カイトさんに説得の頼んだのは私です。執事長として。そろそろ…いい加減に腹をくくりなさい!」
「ぜぇったい、嫌だ!!」
ふと、レンが顔を上げると、薔薇の花のむこうになにやら金色の扉が見える。
「キカイト、あれは?」
扉を指差して、レンが聞いた。
「ああ、あれは人間界への扉です。戻ってこられなくなる恐れがありますから、近づかないように…って、もう居ないじゃないですか!」
驚いたキカイトが扉のほうに眼をやると、レンが今まさに扉を開こうとしているところだった。
「王子っ!」
辺りが光に包まれた。
「な…っ!?」
次の瞬間、そこには既にレンの姿はなかった。
あわてたように走ってきたカイトに事情を説明して、別部隊に連絡を入れる。
「――あいよ、今忙しいんですけどぉ。何が御用ですか、執事長さん」
「そんな冗談を言っている場合ではありません!(かくかくしかじか四角いム○ブ)と、言うことなんです!至急、人間界に兵を派遣してください」
「――しっかしよぉ、こっちも戦争中なんですよねぇ。こうしている間も俺、休めてないんですよぉ」
確かに、携帯電話の向こうから、相手以外の声やら爆発音やらが絶え間なく聞こえてくる。今、電話に出ているのはアカイトといって、国の全軍を指揮することが出来る、若干21歳の青年である。その運動能力、戦術的知識、なにより彼のリーダーシップは各国の重役たちが一目おく存在である。
このキカイトという青年は執事長、呼んで字の如く、執事たちの長だ。紳士的な立ち振る舞いと笑顔を絶やさないその顔は、決して表情を変えないポーカーフェイスの極みといえるだろう。常に敬語と腰の低い物言いで、彼と話をした女性はすぐさま『落ちる』といわれている。
「そういわず、お願いします。王子が人間にでも捕らえられたら大変なことです!」
「――ああ、じゃあ――そうだな、そっちにだれがいたかな…。あ、そうそう、ニガイトがいた。そいつ、案外使えるから。…じゃっ」
「え、ちょっと、アカイト!」
ブチッツーツー…
「…い、たた…」
扉を通ったはずなのに光に包まれたかと思えば尻餅をついて地面に落ちてしまった。しりを痛そうにさすりながら、レンは顔をしかめて立ち上がった。振り向けばそこは行き止まりになっていて、扉などない。
「…嘘。」
かわりにあったのは、一枚のポスター。
『ヴァンパイアにご注意あれ!』
「ほ、本当に人間界に来ちゃった…?」
さぁっとレンの顔から血の気が引いていった。
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