第十八話　昨日のことが昔の様で、もう。

　「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ！！！！！！！！！！」

　
　レンの絶叫が、辺りに響いた。


　「れんっ、れん！！？？」

　
　おりん、だったかな、が、レンのことを揺さぶる。

　―――あれは――もう駄目だ。
完全にすべてを思い出してしまっている。


　レンは、すぐに事切れた様に倒れこんだ。
意識はなさそうだが、息が微かに荒い。死んではいない。


　それでも―――。


　「―――っち―――おりんっこっちだ！！！」

　おりんに叫ぶ。
このままここにいると、絶対に危ない。

　あの雪女に何をされるかわからない。


　「――え――？　え……？」

　「ああもぉうっ！！！！」


　いつまでおろおろしている場合だ。
雪女が、いつ動くかわからない―――。


　あたしは倒れたレンを肩に担いで、おりんの腕を掴んだ。


　「走れ！！！」

　「え、ええ？？　えっと―――ぐみさん？？」

　「煩いな！！！　後で話すよっ！！！」



　今はそれどころではない。
とにかく逃げないと。


　「おやおや、逃げるのかい。今の魔界学園はどうなってるんだろうねえ？」


　煩い―――煩い。
このままじゃレンは―――。


　あたしはそのまま、おりんとレンを連れて、走った。




　　　　　＊




　「――はぁ……はぁ……はぁ……は……」


　あたしたちの荒い息だけがまた響いている。
その辺で見つけた、裏通りの荒れ屋敷。

　誰もきっと来ないだろう。


　おりんは心ここにあらずといった調子で、うつろな目で下を見つめている。


　「――仕方ないね、おりん。話してやるよ。レ―――」




　「―――ぅう―――……」




　苦しそうな息が聞こえた。

　さっき、担いできたレンからだ。



　「れん――、大丈夫？　何か―――」


　「お、りんさ、ん――すみま、せん――。ぐ、み、そのことは―――」



　ここまで来て隠すつもりか。

　そこまでして知られるのが嫌か。

　
　そんなに―――この娘が―――――。





　「ああもう何なのさっ！！！　あんたはいつもいつも！！！！　どうしていつも、自分を傷つけることしかできないの！？　そんなにこの子が大事なら言ってやんなさいよ！！！！！」



　もう、いやだ。




　「ぅう……そうだ、ね。ごめんよ、ぐみ……」


　むくりと体を起こす。
意識は十分戻ったようで、言葉もはっきりしてきた。



　「話すよ―――ぐみの言う通りだよ。私が、話す―――」








　もう、いやだ。



　この話をするのも、おりんのためなんだろう。


　決してあたしが怒ったからじゃない。


　いつも、レンはあたしを見ちゃいない―――、見ては、くれない――――。













　「あれは―――いつのことだったかな―――」























　君の口からこの話が語られるとは思わなかった――――。












　






　まだ降り積もる雪の様に儚く、君はあの記憶を甦し、読み返す。





















　日はもう、西に傾いていた。