「ふぅむ。テトさんが、新しいドールを?」
ちょと顔を上気させて、ルカさんがつぶやいた。
「うん。ま、うちで扱っているドールは、つづけていろいろ作る、と言ってくれたけどねぇ」
ちょっと寂しそうに、美里課長は言った。
輸入商社「ハミングス」の会議室で、
2人っきりで、ルカさんと美里課長が机に向かっている。
思い切ったように、ルカさんが言った。
「課長。うちでも、新ドールの企画を立てましょう」
「新ドールを?」
ルカさんは、頬を膨らませていった。べつに、怒っているわけではないが、ちょっとした彼女の“決意”の表れなのだ。
「テトさん。いくらワタシの親友といっても、ビジネスでは割り切るからねっ」
●ライバルの、新ドールを作る!
興奮しているルカさんを見て、なだめるように美里課長が言った。
「そうね、ルカちゃんとテトさんは、親友だったわね。でも、“割り切る”って何を?」
「ええ。テトさんのドールのライバルになるかもしれないけど...」
ルカさんは言った。
「別の天使のドールを、企画したいと思って」
彼女は、さっき自分の机から出してきた、作品のスクラップブックを取り出して、美里さんに見せた。
「これ、この間、あるデザイナーが、我が社に売り込みに来たものです」
「売り込み?」
「ええ。ワタシ、すごく気に入っているんです。坂本さんという女性デザイナーなんですけど」
美里課長は、興味深そうに、スクラップブックをのぞき込んだ。
「なかなか面白いじゃない。あら、このイラストの女の子、どこかで見たことがあるわ」
「これ、トーイパークのメグさんがモデルなんです」
「え?玩具店のトーイパークの?メグさんって店長さんよね」
美里香調は、目を丸くする。
「トーイパークの名物店長、メグさんです。彼女をモデルに、ちょっとユルイ、天使のドールを作りたいんです...」
●カイコの天使が誕生!
いっぽう、その頃。
デザイナーのテトさんは、兄の事務所のデザインルームで、一心にラフスケッチを描いていた。
絵は、かわいらしいが、どこか頼りなげな天使。
その絵のイメージモデルは、カイくんだ。
カイくんが女装した、通称「カイコ」ちゃんが、天使の姿でほほえむ。
「ううん、いろいろ描いてると何か、気持ち悪くなってきたけど...。けっこうイケそうだな。キャラは立つわねぇ」
天使と悪魔を巻き込んで、お店の売り場に激震が走りそうな予感を感じて、
テトさんは久しぶりに、ペンを持つ手に力が入るのを感じた。(*^-゜)v
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