私は腕を伸ばす。視界は暗闇で何も見えない。
娘は…私の愛しい娘はどこだ?
私は更に前へ前へと腕を伸ばしていく。辺りは寒気がするほどに寒く先ほどまでの暑さが嘘のようだった。しかし先ほどまで腕の中に感じていた温もりまで同時に奪われてしまった。私は、必死にその温もりを求める。
どこだ、どこにいる…私の愛しい娘…
ガバッ…
私は弾かれたように起き上がる。かなりうなされていたようで、額にはじっとりと汗が浮かんでいた。私はそれを拭うと立ち上がり辺りを見回した。とりあえず、ここは私の家ではない。空は永久に続くのではないかと思うほどに広く地平線と接している。その色は何色にも染まらぬ黒だった。そんな中にポツンとたたずむ1つの建造物。門…いや扉…それともその両方とでもいうべき物だろうか?堅く閉ざされ、重苦しい空気を秘めているそれは多大な恐怖と恐れを与えるべく置かれているだろうに、何故だか私はそれを怖いとは微塵も思わなかった。
カッ…
私が冥界の門に見入っているとその脇から聞き覚えのある槌の音がした。
「さあ 開廷の時間だ」
そう言ってかつて私が座っていた席に着いていたのは、周りの闇と同じ色の服を着た者。まさしく『冥界の主 master of the hellish yard』だった。
「被告人、ガレリアン=マーロンは前へ。」
私は全てを悟った。これは冥府の裁判。この法廷で私がこの先天国に行くのか、地獄に落ちるのかが決まるのだろう。
「私は冥界の主である。ガレリアン。これから貴様が天国と地獄どちらで暮らすか決める審判を行う。貴様の罪状は…」
私がゆっくりと前に出ると冥界の主が話し始める。
「罪状などわざわざ聞かなくても結構。自分の罪ぐらい自分でわかっておるわ!」
くだらない。私は冥界の主の話を遮り叫ぶ。弁護人も検察官も傍聴人もいない法廷…不正し放題ではないか。冥界の法廷とはなんと粗末なことか。嘲うかの様な態度…
「ほう、ならば話は早い。薄々わかっておるだろうが、貴様の生前の行いは充分地獄行きに値する。」
ここで冥界の主は一度言葉を切る。まるで私の反応を探るかの様に…どうやら主は私が恐怖に震えるか、泣き崩れることを期待したらしい。しかし私は表情を変えず、むしろうっすらと笑いを浮かべた顔で冥界の主を見つめていた。主は私が反応しないと分かると話をそのまま進めた。
「しかしだ、どうやらお前と私は気が合うらしいな。」
ほうら来た。私は心の中で嘲う。
「私もやっているのだよ。どうだガレリアン?極悪人でも金さえ払えば救ってやるさ。」
私には冥界の主がこう来ることが分かっていた。類は友を呼ぶのだろうか?
私は微笑み、冥界の主の元へと歩き出す。主はゆっくりと近づいて来る私をじっくりと物怖じせずに見つめている。私は主の目の前までたどり着くと主の肩に手を回し、その耳元で全てを悟った時から用意していた応えを囁いた。
「私の財産貴様なんぞには決して渡さない。」
途端に私の耳に槌の音が聞こえた。裁判が終わった合図だ。
私の身体は門をくぐり、開かれた扉の中へと飛び込んでいった。落ちていく、地獄の底へと…
私は無重力を感じながら、微笑んでいた。生前、全ての罪は私の一存でその重さが決まってきた。無罪放免であろうが極刑であろうがその違いはただ1つ。
この私のさじ加減だ!
それはこの冥府でも変わらぬ。たとえ誰だろうと私のこの罪裁くことは認めない!
私は今まさに自分が向かっている地獄を見つめる。フンッ、所詮地獄だろう。あの冥界の主とやらに裁かれて天国に行くより、自らの裁きで地獄に向かう方がよっぽどいい。
それに、私には『大罪の器』がある。私はかつて手にしていた大罪のフラグメントを思い返す。いつか必ずこの手に集めてやろう、その時に地獄は私と娘のユートピアへと変わるだろう。
そう言ってガレリアンは笑った。
地獄へと続く通路からは遠ざかってゆくガレリアンの笑い声だけが響いていた。
END
master of the court―第死話 冥界の主と最後の審判―
mothy_悪ノPさん(http://piapro.jp/mothy)の悪徳のジャッジメント(http://www.nicovideo.jp/watch/sm14731092)を自己解釈満点で小説にさせて頂きました。
ありがとうございます!完結です^^
制作開始が火曜日、終了が金曜日早朝(ほぼ木曜日)ということで、まさかのスピード完結ですよ(^o^)/(しかもこの間作業用BGMは悪徳のジャッジメントしか聞いてないという(笑)
僕の作品の中で、たぶん最短記録じゃないですかね?
しかも動画公開から五日目という、ほぼ殿堂入りと同時に完結という。(すみませんかなりテンションが上がっておりますm(_ _)m)
僕としては満足な出来です。楽しんで頂けたら幸いです。ここまで読んでくださりありがとうございました。
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ご意見・ご感想
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ご意見・ご感想
美亜 瑠璃の片割れ、瑠璃です。悪徳、読了しますぃた!ライトさんはかなりの数書き上げてるみたいで、すげえなぁと思います。瑠璃もとりあえず「質より量」って事でがんばります。最終回をブクマするのもなんなので、1話ブクマさせていただきます☆
2011/08/02 16:28:24
Raito :受験につき更新自粛><
瑠璃さんこんにちは。
読了ありがとうございます!そしてブクマも!!
お二人も実際にボカロに歌わせていらっしゃる辺りが行動的で凄いと思います。これからもお互い頑張っていきましょう!
2011/08/03 13:49:10