人には好き嫌いというものがある。



病的なほどに好きなものがあれば、雑菌の如く忌み嫌うものもある。



そんなわけで、全てのものには『ファン』と『アンチ』の二種類の人間が存在するのだ。



ファンの人間は時としてアンチの人間の刃のような誹謗《ことば》を浴びることもある。



大抵の人間はそれを自制心と愛で乗り越えることができるが―――――





―――――対象物が好きすぎると、怒っちゃうこともあるよね。










「いーい天気だなぁ……」

「そーねーぇ……」


俺とどっぐちゃんは久々に、廊下で朝日の光を浴びていた。ちなみの俺の住む201号室は窓が西向き。美しい夕焼けを見ることもできるが、この時期は強烈な西日がじりじりと部屋を燃えるように熱くしていく。つまり何が言いたいかというと、朝日は長らく浴びていないのだ。

しばらくして、その隣に一人の少女がひょことでてきた。ゆるりーさんだ。


「おっはよーございます、ターンドッグさん、どっぐちゃん!」

「お、おはよーゆるりーさん。今日は『マナーモード』なんだ?」

「えへへ、そりゃいつも暴走はしてませんよ! なんたって『気まぐれユルカライン』ですからね!」


ゆるりーさんは自他ともに認めるほどの気まぐれ者だ。その分どっぐちゃんに対する反応も変わりやすく、俺はどっぐちゃんを襲わんばかりの勢いで飛びついてくる状態を『バーストモード』、どっぐちゃんを見ても落ち着いて対応できる状態を『マナーモード』と呼んでいる。

そんな彼女の異名は誰が呼んだか『気まぐれユルカライン』。

……はいすんません、『誰が呼んだか』じゃありません、呼んだのは面白がった俺です。それをゆるりーさんが受け入れてくれたんです。若いのに心の広い娘である。ゆるりーさんの年頃ったら俺メッチャクチャ心狭かったぞ。昆虫殺されただけでキレて殴りかかったりとか。


「そういえば、昨日いい勉強方法探すためにいろんなサイト回ってたら、そこでがくルカ好きの人に会ったんですよ! がくルカについて語らいながらいい勉強方法も見つかって……! こういうのあるとはかどりますよね!」

「へえ! そりゃよかったじゃん! 俺の時はボカロ好きで数学のうまい友人はいたが……推薦でさっさと大学決めちまって、俺の合格まで話少なくなってたからなぁ……そういう仲間は大切にしたほうがいいぜ?」

「はい! ……ところで、りんごに会いました?」

「雪りんごさん? いや、会ってないが……」


というか5時に起きてかれこれ2時間ここで朝日を浴びてて、今日初めて会ったのがあんたなんだけどね、ゆるりーさん―――――とはあえて言わない。


「そうですか……昨日話した時なんだかひどく苛ついてるようにも見えて、何かあったのかって心配なんだけど……」

「ふーん……?」





そこまで話した時だった。





《ドゴガァンッ!!!!!!》





凄まじい打撃音がして―――――203号室の扉が吹っ飛んだ。


「うおっ!!!?」

「りんごの部屋だ!!」


ゆるりーさんが駆け寄ると、中からゆらりと雪りんごさんが現れた。


「りんご!? どうしたの……………っ!!!!?」


突然飛び退ってこっちまで逃げてきたゆるりーさん。


「何だ? どうした!?」

「……ターンドッグさん……!! あれ……!!」


指さされた方向を見て―――――



―――――――――――――――戦慄した。


目に凄まじいまでの憎悪の色が宿っている。世界のすべてを憎まんとするような。

拳はぎりりと握りしめられ、足はゆっくり、しかしずしんと音がしそうなほど重々しく動く。

いつも整えられている髪はぐしゃぐしゃに掻き毟られて、あちこちはねまくっている。


いつもの雪りんごさんはいなかった。どす黒い怒りに包まれた、蒼い少女がそこにいた。


「ゆ……雪りんごさん……?」

『ぅあ……? ああ……Turndogさんにどっぐちゃん、それにゆる……おはようございます……すみません今機嫌めっちゃ悪いんで、近寄らないでください……危ないです……』


声の質が全然違う。凄まじい嗄れ声だ。

それに危ないのは十分わかってる。確かにこのかなりあ荘はぼろアパートだが、こないだ改築したおかげで多少は扉の強度が上がっている。少なくとも、男の力で全力で蹴り飛ばしてようやく廊下の窓を突き破って外に飛んでいくレベルだ。

それを―――――少女の腕の力で吹っ飛ばせるともなれば、怒りのあまりリミッターが外れているのは明らかだ。


「りんごが……黒いよ……!!」


ゆるりーさんが完全におびえている。わざわざしゃがんでまでどっぐちゃんの後ろに隠れるってことは相当俺が頼りねえってことかいおい。

直後、下からしるるさんが怒りながら上がってきた。


「ちょっとりんごー? いくらりんごでも器物損壊罪は弁償させますy」


『しるるさんお願い話しかけないでっ!!! 今すんごいイライラしてるの!!!!!!』


「きゃんっ!!? は……はい……!!」


凄まじいまでの迫力に腰を抜かしたのか、雪りんごさんの後ろを恐る恐る通って俺のほうまでやってきたしるるさん。顔面蒼白である。


「ちょ……ターンドッグさん!? どうなってるんですかこれ!? またあなた何かやったんですか!?」

「何でもかんでも俺のせいにすんのはやめてくださいよ!! ……なんでかはわかりませんが、大体予想はつきますね」


そう―――――大体予想はつく。

普段はどうなのか知らないが、かなりあ荘に『いる』時の雪りんごさんは生活がカイト中心に回っているといっても過言ではない。

いいカイトの画像を見つければ小躍りして喜び、『ハートビート・クロックタワー』や『カンタレラ』などのカイトの曲を聞いていれば勉強効率が2.13倍に跳ね上がるという。

喜怒哀楽、行動、全てをカイトに関連付けて生活している雪りんごさん。

そんな彼女がここまでぶっちぎれるとすれば―――――


「大方カイトの批判スレでも見つけちゃった……とかでしょうね……」

「うわー……気持ちはわかる……」


なんにせよこのままじゃ雪りんごさん(黒)にかなりあ荘を破壊されかねない。早急に手を打つか……。


「どっぐちゃん」

「何?」

「カイトを呼んで来い。まずは雪りんごさんを強制的に落とす」

「りょ―かい」


瞬時にどっぐちゃんは俺の部屋に入り、3分後、ひらりと青いマフラーが扉の影で揺れた。


「Turndogさん、ただいま到着しました。どっぐちゃんに大慌てで呼ばれたんで状況をあまり理解してませんが、どうなってるんですか?」

「雪りんごさんがド怒りだ。……見ろ」


雪りんごさん(黒)は廊下の窓枠を今にも握りつぶしそうなぐらい握りしめ、うつむいてぶつぶつ何か言っている。


『……何がカイトはオワコンよ兄さんは至高にして最高でありこの世における絶対的歌のお兄さんよこの世から消えたら世界の存亡にかかわるのよ本当に分ってるのかしらぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつ……………………………』


おかしい。なんかいろいろとおかしい。精神状態に一刻の猶予もない。


「カイト、お前の役目は一つだ。卑怯プログラムを使っても構わない、精神を崩壊させないように気をつけて彼女を眠らせろ」

「Yes, your Majesty!!」


そういって扉の影から飛び出した。どうでもいいがお前の中じゃ俺は陛下(Majesty)なのか?

颯爽と現れた碧い人影に、雪りんごさんが気付かないはずがない。ゆらりゆらりと、まるでダ○ーさんのような動きでカイトに近づく。なんで青い瞳が赤い眼光を放ってんだい。怖いな!


『兄さん!! 兄さんはすごいよね、かっこいいんだよね……オワコンなんかじゃない輝くカイトは無限大あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!』


抱き付こうとしてるのか襲い掛かろうとしてるのか、とにかく床を踏み抜かんばかりの勢いでカイトに突っ込んでいく!




―――――が。




カイトはそれよりも速く彼女の後ろに回り込み―――――





―――――耳元で囁いた。





『O uomo che vuole il mio amore, si prega di dormire……(私の愛を欲する人よ、眠るがいい……)』





途端に、雪りんごさんの体がかくんと崩れ落ちた。

カイトの耳元で囁かれたために失神したかと思ったが、そうじゃない。

眠っている。思いっきり爆睡している。


「……お……落ち着いたか……! ふーっ……あっぶねぇ……よくやったカイト。だけど今お前……何やったんだ?」

「ふふふ、卑怯プログラム『言葉騙し』ですよ。聞かせた通りの行動を相手にさせる技です。相手の行動を完全に支配できるわけですから、なかなか使えるんですよ」

『なかなかどころじゃねえ(ない)よ!!!!』


全員で総ツッコミである。流石ミスター卑怯、蒼紅の卑怯戦士。やり方はおとなしいが技がえげつねえ。


「さて……彼女はどうします?」

「よし、たぶん原因はカイトだから、全世界のカイトを代表してお前が看病してろ」

「ファッ!!?」

「つべこべ言わずに203号室に連れてけや!!」

「ボカロ使いが荒いなぁ……」


ぶつくさ言いながら雪りんごさんを抱え上げ、部屋まで連れていく。どうでもいいがお前は人を運ぶのにお姫様抱っこしか思いつかんのか。まぁりんごさんからしたらそれが一番鼻血ものだろうけど。爆睡中でよかった。


「さて……俺たちは俺たちで、ちょいと何があったかを探りますか」

「えっ、そんなことができるんですか!?」

「どっぐちゃん、やれるな、『アレ』」

「まかしときなさい、様子見てきてあげるから」

「あ! 何考えてるかわかっちゃった!! それはプライバシーの侵害になりかねないですよー!」

「どっぐちゃんなら許される(キリッ)」

「あたしだからこそ許される(キリキリッ)」

「なぜそこだけシンクロする!?」


漫才のようなノリで、俺たち3人は俺の部屋へと入っていった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

dogとどっぐとヴォカロ町! Part6-1~Black Apple!!~

ド怒りんご。……ごめんなさいw
こんにちはTurndogです。

こないだはどちらかというとゆるりーさん主体だったので今度は雪りんごさんが主役大抜擢です☆
因みにゆるりーさんがマナーモードなのは本人からのご依頼。それでも根っこは『見ろ、全くブレがない』状態にしようかと思ってますw
あと変な異名着けてマジごめんなさい。
なんかイマジネーションが降りてきました。

しかし主役がいきなり堕天エンドですよ。悪い意味でインパクト抜群ですね。
因みに題名はりんごつながりで『Bad Apple!!』にしようかと思った(もちろんもとは東方の影絵のあれです☆)のですがこれだと雪りんごさんがロクデナシになってしまうのでBlackにしましたw

カイトの卑怯プログラムでの言葉はイタリア語で、『Amore mio(私の愛)』をどうしても使いたかったんですね。ということでああなりました。バカイトの癖にキザですw
まぁ、いいんじゃないかな。カイトもよくやってくれてるしね(大天使風)

閲覧数:197

投稿日:2013/07/31 00:16:50

文字数:4,326文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

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  • 雪りんご*イン率低下

    雪りんご*イン率低下

    ご意見・ご感想

    これ最初読んだとき、「ターンドッグさんから見る私って、こんな力強いんだ……!」と思った、右左の握力がアンバラスな雪りんごです←
    ホント……私ってあんなに力あったんだね……(遠い目)←

    私は一応ゆるが「ユルカライン」だったってことは知ってました。
    私が最初に入ったコラボの雑談で「ユルカライン」から「ゆるりー」ってなったのを覚えてます。
    まあ、私はゆるがすでに「ゆるりー」のときにピアプロを始めたんですけど……

    というか、私がめっちゃヤンデレ化しとるッ!?∑(・ω・´;)ノノ
    私、恥ずかしくて皆さんに合わせる顔がないじゃないですか、やだー(棒読み←

    チッチッチ、ターンドッグさん、私は兄さんにお姫様だっこされたぐらいで鼻血は出しませんよ!
    まず、
    ①頭がカンスト
    ②恥ずかしくなって「に、兄さん、いいいいいいよ!? こんなことしなくても!? わわわ私重いよ!?」と言う
    ③それでも兄さんがお姫様抱っこを続けると、恥ずかしさゆえに兄さんの胸に顔を埋める
    私ったらシャイガールじゃないですか、やだー(/ω\*)ハズカシィー←

    そういえばよくそういう単語をお耳にいれるんですが、「東方」ってなんでしょうか……?
    あと黒りんごタグwww黒いリンゴなんて私は食べませんよ!←

    2013/08/05 16:12:44

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      いやなんかホントすんません……www
      だが愛の力は無限大ってことが証明できたよ、やったねりんごちゃん!(おいやめろ

      ピアプロはじめる前覗いてた頃、ユルカラインだったような記憶アリ。
      で、入ってみたらいつの間にかユルカラインは姿が見えずゆるりーさんがいて、しばらくは別の存在だと思ってましたwww

      これはいいヤンデレww
      りんごさんアレだね、カイトたちと一緒に進撃の巨人ごっこやったらミカサの位置に立てるよ!←

      な……なんだって……!?
      と思ったらこれはいいシャイガールwwwwww

      東方が何かって?
      うーん……詳しくはニコニコ大百科で!(説明できんのか
      食べたら堕天するんですねわかりm(おい

      2013/08/05 16:25:48

  • ゆるりー

    ゆるりー

    ご意見・ご感想

    いつも暴走してたら、いつ電池が切れるかわかりませんから!←
    ところで「ユルカライン」がわかる人って、あんまりいないんですよね…。
    今の「ゆるりー」になってから結構経ちますし。
    仲間は大切です。

    二時間!?ターンドッグさんは二時間も同じ場所で朝日を浴びてたんですか!?
    …お腹すきませんか?(※個人の意見です)
    私なら絶対三分で飽きます!カップラーメンができるくらいまでなら待ちます←

    廊下で滑って転んで扉に頭思いっきりぶつけちゃったことあるんですけど、全然傷がつきませんよ?
    それを吹っ飛ばしたりんご…恐ろしや。。。
    ターンドッグさんは頼りなくないですよ(ニッコリ)
    そしてしるるさんの技・「弁償させますよ」を無効化するりんご…おそろs(ry

    陛下でいいんじゃないですか?
    「このほうれん草!」とか言われてないだけマシでは(なぜほうれん草
    抱きつくのか襲い掛かるのかww選択肢がwww
    カイト、えげつない…w
    全世界のカイトを代表してw我が家の兄さんがやってるのは教師とヘタレ(ryなので無理っすね!←
    お姫様抱っこ…爆睡中じゃなかったら、間違いなく襲い掛かってましたね…((

    >>それでも根っこは『見ろ、全くブレがない』状態にしようかと思ってます
    本当ですねw暴走時も冷静時も、根っこは一緒ですしねw
    異名は全然大丈夫ですが、見た瞬間に爆笑しました!www

    題名見た瞬間「東○!?」と思ったのは間違ってなかったんですね←
    なんでBlackなのかは、本文で理解しました。
    つか、タグw黒りんごww

    キザカイト。なんとなくピザ○ットに響きが似てません?←

    2013/07/31 11:25:20

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      では燃料電池を搭載しましょう←
      自分も知ったの比較的最近なんですよね……。
      正確にはぼんやりと認識してたけど。
      あと記憶が正しければ、雪りんごさんは『ピエロ少女』だった頃こちらが一方的に知ってたと思う。話したのは雪りんごになってからだけど。

      光合成してました(お前はミドリムシか
      あとどっぐちゃんがいるから意外と飽きない←

      私は扉に頭突きして割ったことはあります(おい
      ですがこのシーンでは雪りんごさんは拳で吹っ飛ばしております!!
      【あいのちからってすげー!▼】
      そのにっこりが怖いね!ww
      愛の力は権力をも無効化させるのです←

      どうしてほうれん草になった!?
      そこせめて青梗菜とかさぁ(それもなぜ
      そんな選択肢でいいんじゃないかな(大丈夫か?じゃないのか
      うちのカイトは基本阿保と馬鹿と0.01%のカッコイトしかやってないのでこれでいいのかという声もあるけどwwww
      多分そのままR-18な展開に突入(((こら

      爆笑ですかwwwwwあんな異名で大丈夫か?

      そう、間違ってないのです!
      最近変なタグつけるのに嵌った←

      ぶふぉwwwwwwwwwwwwちょ、PCがお茶まみれにっwwwwwwww

      2013/07/31 17:55:28

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