……………下の階がわいわいと騒がしい。





きっと、皆かなりあ荘のムードメーカーに別れでも告げているんだろう。





そんなことを想いつつ、俺は自室で領収書を数えていた。










「あれ? Turndog……何してるわけ?」

「ん?」


顔をあげてみると、ルカさんとどっぐちゃんが俺の手元を覗き込んでいた。


「おいっす、ルカさん。何って……領収書の整理よ。哀しいことに俺、今年度の部活の会計さんなのよね」


もうすぐ決算があるのだが、そのために領収書をまとめているのだ。数が多かったり何を買ったかわからなかったりで非常に泣ける。

……が、そんなこともお構いなく―――というか期待していたのはそんな答えではなかったらしく、遠慮のない重さのチョップが脳天に振ってきた。


「グギャッ」

「阿保。そう言うことじゃなくてさ……聞いたわよ。ちずさん、かなりあ荘を出ていくんですって?」


領収書をまとめる手が止まる。


急に実家に呼び戻された―――――とはちずさんの談。あまりに急なことで、聞いた時には皆口が塞がらなかった。

るぅちゃんを連れて、今日ここを出ていくという。

最も二度と戻らない―――――ということではなく、いつか必ず戻って来るとは言っていたが……。


「見送りに行かなくていいの?」

「もう餞別は送ったぜ。『四獣物語』の最新話」


再びチョップが落ちてきた。寸分違わず同じ場所に沈むチョップがすごく痛いです。


「ド阿呆。ちゃんと最後まで見送ってあげなさいよ。そんなもんで終わりにするつもり?」

「いいだろー、別に……一応ちょくちょく電話やメールはしてくるつもりらしいし、Twitterも続けるつもりらしいs」


最後まで言い終わる前に今度は凄まじい威力の蹴りが飛んできた。思いっきりぶっ飛ばされて押し入れに頭から突っ込む。


「おぐぅお!!?」

『このクソ虫がっ!!!』

「おわぁ!!?」


しかもその上『サイコ・サウンド』で持ち上げられて首を絞められた。ぐがががが。


『あんたねぇ……あの子がどんだけつらいと思ってんのよ!!? ここを離れるあの子が一番辛いでしょうに……!!』

「ぐぐ……」

『それとあんた……自分で『作って』おいて忘れてるんじゃないでしょうね!? 私は『心が読める』のよ……あんたが何考えてるかなんてお見通しよ!!』





『あんた……泣きたくないから彼女の前に出ていかないだけでしょ!!?』





……………その通りだ。

絶対……合ったら泣くから。

笑われるのは別にかまわない。その点に関しては既にゆるりーさんにしょーもない鳴き声を録音されているので今更もうどうでもいい。
まぁそろそろアレレプリカも全部合わせて消してほしいんだけどさ。


ただ、孤独感に苛まれるのが嫌なんだ。


頻繁に話すようになった友人とは、いつでも会えるような状態にしておく。それが俺のスタンス。


そんなトモダチが――――――――――声の届かないところに行ってしまう。



そんな孤独感――――――――――耐えられない。





「……本当に仲が良くなった奴と別れる時は、絶対に別れの日に会いたくない。そいつがいなかった時の状況を思い出して、別れまでに自分の気持ちを“再調律”する。そうでもしないと……辛くて寂しくてなぁ……」

「……Turndog……」


俺を解放したルカさんは、少し寂しそうな目で俺を見つめた後――――――――――









「相手が相手なだけにあんたが言うと犯罪臭半端ないわねぇ」

『何感動をぶち壊してんのかな!!!?』


凄まじい罵倒を浴びせてきた。何この人酷い。


「……まぁあんたの都合に、とやかく言うほうが無粋かしらね。私は彼女に別れを言ってくるわ。どっぐちゃんも行くでしょ?」

「まぁ、あの子にはそれなりに世話になったししてあげたし、だしね」


部屋を出ていこうとして―――――ぴたりと足を止めて振り向いてきた。


「……Turndog。こっからでもわかるわ。あの子、あんたにも別れを言いたがってるみたいよ」

「……!」

「……最後の最後で、あんたの都合であの子を泣かせるつもり? ……ま、泣かないかもしれないけど」


静かに降りて行ったルカさんとどっぐちゃん。

暫くして、下からちずさんの大声が聞こえてきた。



《うわあああああああああああああああああああああああルカさああああああああああああああああああああああああああんんんんんん》

《はいはい泣かないの、つーか鳴かないの》

《必ず帰ってきますからあああああああああああああああああああああああああああああ》

《わかったからほら、思いっきり抱き付くのストップね、鯖折り気味になってrいたたたたたたたたそこ今痛めてんのよあがががががが》

《ああ!!? ご、ごめんなさいいいいいいいいい》



……ああ、ホントににぎやかだ。

明日からはもう、この賑やかな声は聞こえないのかな。





最後の最後で……か。





「……あーったよ、ったく」


重い腰を上げて、階下に降りる。

玄関に人だかり。普段からかなりあ荘に常駐するメンバーは皆見送りに来ていた。どうやらいなかったのは俺だけの様だ。

今までにもかなりあ荘からいなくなった人は何人かいたが、こんなにも愛された人はいなかっただろうな。


「……あ! ターンドッグさん!?」


大荷物&肩にるぅちゃんを乗っけたちずさんがこちらに気付いた。


ああ、ダメだ。涙腺が緩む。

泣くな俺。永遠の別れじゃないはずだから。多分。


だから最大限の―――――冷たい顔をするんだ。

心を冷え切らせて。眉間に皺を寄せて。

出ていくお前が悪いんだとでも言うように。



明日からの―――――『日常』だった『非日常』に耐えるために。





「……四獣物語、ちずさんが帰ってくるまでに完結させとくからな。帰ってきた時に読むのが大変だとか文句言うんじゃないよ」





――――――――――そこまでやっても、結局相手を罵倒できない俺は、きっとSにはなれないんだろうな。



その言葉を聞いたちずさんがどんな表情をしていたか―――――どんな言葉を返してきたか―――――





俺は覚えていない。










明日から―――――『402号室の空いた日々』が帰ってくる。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【See you…】402号室の空いた日々【Again,chizu!!】

最後に送るのがあんなバトルというのもひどい話だと思いもう一つ。
最後の選別までバトルの方がお前らしいだろというツッコミはナッシングな。
こんにちはTurndogです。

いやーもうね……顔を知った相手でもここまで寂しい思いをしたことはないですよ……なんでだろうね?
ルカ廃だから? 昆虫談義を聞いてくれたから?
一番の理由はやっぱり超頻繁に話した人が声の届かないところに行っちゃうってことですかね。
まぁTwitterはやめないみたいだから届くっちゃ届くんだけど、理由が大体想像できるおかげで地味に話しかけづらいからねぇ。
浮上率も落ちるっていうし。
それにちずさんが帰ってくるまで100%ピアプロがなくならないっていう保証も100%かなりあ荘が過疎化しないっていう保証も残念ながらないわけで。
まぁそうならないようにしていくのが残される者の役目ってことなんだよね。
そう言うわけで今日も私は四獣物語とヴォカロ町本編を書くのです。
ちずさんの存在を知らなかったころと同じように。

(´るωか`)<Not Good bye,but see you again! chizu!

閲覧数:191

投稿日:2014/12/07 02:13:54

文字数:2,683文字

カテゴリ:小説

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  • ゆるりー

    ゆるりー

    その他

    バトルはターンドッグさんの個性なのでなんの問題もありません。
    ルカさんさすがです。

    一応…
    【ボロボロの昆虫図鑑(15)】
    *ちずさんに昆虫について教えるうちにボロボロになった
    *傷の数ほど思い出がある

    2014/12/07 13:37:59

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