タグ「白ノ娘」のついた投稿作品一覧(84)
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第十章 悪ノ娘ト召使 パート3
魔術の気配がするわ。
十名ほどの兵士達と共にメイコの自宅を取り囲んだルカは、自宅に向けて声をかけた直後に魔術の波動を感じ、喉が枯れるような感覚に陥った。そのまま、右手を扉に向けて翳す。この気配はワープの魔術の波動であるはず。だとすれば、この場所にはもう人間は存在し...ハルジオン55 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第十章 悪ノ娘ト召使 パート2
これで、今日の仕事は終わりだな。
一つの商家を襲ったレンは、まるで日常業務を終えた直後の様に軽い調子でそう考えるとバスタードソードを鞘に収めた。最近、略奪に慣れ過ぎているのかもしれない、とレンは思ったが、それに対する感慨は不思議と何も湧かなかった。ここで奪った財宝...ハルジオン54 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第十章 悪ノ娘ト召使 パート1
「グミ殿から報告です。『反乱の準備は全て整った。』とのことです。」
シューマッハ将軍がカイト王にその報告をもたらしたのは秋も深まる十一月に入ってからのことであった。割合北方に位置する青の国の王宮周辺では北風が吹き荒れ、後は初雪がいつになるか、というタイミングを待つ...ハルジオン53 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第九章 陰謀 パート8
「ごめんね、グミ殿。料理なんて久しぶりで。」
誤魔化す様にそう言ったメイコの表情をグミは呆れ切った表情で眺めることになった。料理と言っても、紅茶を淹れただけだ。どうしてそれだけの行為にここまで時間がかかったのだろうか、という疑問は当然グミの心中に湧き起こったが、今日はメイ...ハルジオン52 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第九章 陰謀 パート7
嫌な噂ばっかりね。
メイコは南大通を一人歩きながら、その様なことを考えた。ここ数日間市井を賑わしている噂は黄の国王立軍による略奪の話ばかりであったのである。その略奪を主導しているのはロックバード伯爵であるという。騎士の中の騎士と言われたロックバード伯爵がどのような思いで略...ハルジオン51 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第九章 陰謀 パート6
天嶮ザルツブルグ。
後の世に出会いの町ザルツブルグという肩書で呼ばれることになる、温泉が名物であるその町にグミが活動拠点を置いてから既に二週間程度の時間が経過していた。すぐに黄の国へと侵入しなかった理由は二つ。一つは情報収集、もう一つはメイコに反旗を翻させるための戦略を練...ハルジオン50 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第九章 陰謀 パート5
レンが商人からの略奪を終え、ロックバード伯爵の私室へと戻ったとき、それぞれの仕事を終えたらしいロックバード伯爵とガクポが少し疲れた表情をしてレンを迎え入れてくれた。疲労というより心労だろう、とレンが考えていると、ロックバード伯爵が話すことも億劫だと言う様な口調でレンに向かっ...ハルジオン49 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第九章 陰謀 パート4
僕の担当は南東地区か。
三十名ほどの兵士を連れて城下町へと向かったレンは努めて無機質にそう考えると、騎乗している馬の手綱を少しだけ緩めた。最近、良いか悪いかの思考を敢えてしないようにしている。リン女王が望むことを全て叶える以外の目的は今の自分に見出すことはできなかったし、...ハルジオン48 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第九章 陰謀 パート3
いい加減、限界だな。
国庫の残りを確認していたロックバード伯爵は、文官から手渡された帳簿を一読してからその様なことを考えた。アキテーヌ伯爵の処刑以降、空席となった内務大臣の業務は自然とロックバード伯爵が執り行うことになっていたのである。リン女王から明確な指示があった訳で...ハルジオン47 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第九章 陰謀 パート2
「よく来てくれた、グミ殿。」
グミがアクに案内されてカイト王の執務室へと入室したとき、カイト王はグミに向かってそう告げた。普段通り、優しげな微笑を保ったままである。そのカイト王に敬礼を行いながら、グミは室内をざっと観察した。相変わらず殺風景な室内にいる人物はカイト王の他に...ハルジオン46 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第九章 陰謀 パート1
カイト王の野望は一体何だったのか。後の歴史学者の必須のテーマとして残されたその疑問に対しての返答は大きく分けて二つ上げることが出来るだろう。一つは政治的な要素、即ちミルドガルド大陸の統一、もう一つは一人の人間としての要素、それがミク女王との婚姻である。しかしこの段階でミク女...ハルジオン45 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第八章 残された者達 パート5
お父様、お父様。
黄の国の王宮、第四層に配置されている謁見室から離れた後、メイコは拭いても、拭いても溢れてくる涙を零しながら第三層へと向かっていた。ロックバード伯爵からは私室に戻れと言われたが、一体何をしたらいいのかまるで見当が付かない。ただ、頭が白紙になったかの...ハルジオン44 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第八章 残された者達 パート4
レン達が帰還した、という報告を受けて、一番喜んだ人物は誰よりもリン女王であっただろう。聞けば、ミク女王を殺したのはレンだという。あたしの召使は、今回もあたしが望む成果を上げてくれたらしい、と考え、そして一人微笑みを見せてからリンは立ちあがった。それまで帰還をして来る...ハルジオン43 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第八章 残された者達 パート2
この時代、最も時代を動かした人物は誰か。
後の歴史学者はその様な問いをすることがある。最も一般的に、青の国のカイト王という返答を用意する学者が多い中で、一部の学者は強い調子でこう評価する傾向があった。即ち、歴史の早い段階でその役目を終えたはずのミク女王こそが最もこ...ハルジオン41 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第八章 残された者達 パート1
「う・・。」
ハクはそう呻きながら、瞳を開いた。首筋が僅かに痛む。一体何が起こったのだろうか、と考えたハクは、今自分が寝かされている場所に気が付き、驚いた様子で上半身を起こした。どうやら質素な部屋のベットに寝かされていたようだった。木造らしいベットがハクの動きに合...ハルジオン40 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第七章 戦争 パート15
どうして、笑ったのだろう。
謁見室の扉が開き、そして現れたレンの姿を眺めながら、ミクはつい、その様なことを考えた。私の望み通りの人物が現れたからだろうか。そうかも知れない、と考えて、ミクはその形の良い唇を開いた。
「待っていたわ、レン。」
その言葉に、レンは戸惑う。...ハルジオン39 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第七章 戦争 パート14
一方で、アレク率いる赤騎士団とレンは、民衆を蹴散らした後、予定通りに内壁正門へと到達していたのである。ロックバード伯爵の予想通り、軍の主力はこの場所に集まっていたらしい。城壁の上から撃ち降ろされる、まるで猛吹雪の様な火縄銃の攻撃を受けてその数を減らしながらも、赤騎士団は開...ハルジオン38 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第七章 戦争 パート13
城門が破られた時、メイコと共に突撃の準備を終えていたレンは思いつめたように唇を少し、噛みしめた。不思議な感覚だった。城門が破られれば、数で圧倒する黄の国の勝利はほぼ確定されたようなものだった。なのに、何も感情が湧きおこらない。理由はレンには分かり切っていた。黄の国の勝利と...ハルジオン37 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第七章 戦争 パート12
黄の国の軍隊が緑の国の王宮を包囲したのは、ミク女王の予測通り、その日の午後を迎えてからのことであった。黄の国総勢二万五千に対して、緑の国の残存兵力は三千程度であったと言われている。数だけを見れば黄の国の圧倒的な有利ではあったが、それでもロックバード伯爵は油断をする気分には...ハルジオン36 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第七章 戦争 パート11
ネル率いる緑の国最精鋭部隊である緑騎士団が全滅の憂き目にあった頃、距離にして数百キロ北方に位置する青の国の王宮から、カイト王自らが率いる緑の国の救援軍が総勢二万の兵士を連れての進軍を開始していた。青の国から緑の国へと移動するには、ただひたすら南へと延びるリンツ街道を...ハルジオン35 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第七章 戦争 パート10
ここが最後の防衛線になるはずだけど。
翌日、インスブルグの街中に陣を構えたネルはそう考えながら、黄の国の軍の到来を待つことにした。計算では黄の国の軍は昨日中にインスブルグの町に入るはずだった。それが到来しなかったのは街中での夜襲を警戒した為だろうか。では、正々堂々と日中...ハルジオン34 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第七章 戦争 パート9
まさか、そんなことは無いだろう。グミはそう考えて、今想像した嫌らしい思考を追い払うように一度頭を左右に振った。きっと疲れているせいだ、と考え直してからグミは階下へと降りることにした。とにかく、カイト王に援軍を派遣させるという当初の目的は果たせたのだから、まずは良しとするべ...ハルジオン33 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第七章 戦争 パート8
ロックバード伯爵が緑の国の王宮への進軍行程を決議したころ、緑の国から遥か北方、青の国の王宮に到達した一人の女性が存在した。緑の国の魔術師かつ参謀であるグミである。グミは緑の国の王宮から正に飛ぶように駆け続け、そしてたった五日で数百キロの行程を制覇したのである。その為に活用...ハルジオン32 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第七章 戦争 パート7
その頃、レンは混乱を続ける戦場の中で一人、メイコの姿を探して駆けまわっていた。緊急を伝える銅鑼の音で飛び起きたまでは良かったが、赤騎士団とは少し離れた場所に宿舎を構えていたレンがメイコと合流できた訳もなく、とにかく直属の百名程度の歩兵部隊と共に乱戦の中に飛び込むことし...ハルジオン31 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第七章 戦争 パート7
緑の国の軍勢がミルドガルド山地から撤退したのはそれから三十分程経過した後の事であった。乱戦不利とみたネルが早々に軍を引いたのである。敵将ながら天晴と感じたのはおそらくメイコだけではなかったであろう。引き際のタイミングも撤退方法も完璧と表現するべきものであり、赤騎士団を始め...ハルジオン30 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第七章 戦争 パート6
さて、どう戦おうか。
ミク女王の執務室から退出し、青の国への出立の準備へと向かったグミとも別れた後、ネルは自身の私室へと戻るとその様なことを考えた。そのまま、窓際に立てかけてある緑の国の全図を取り出して私室の中央に用意されている長机の上に広げる。長机とほぼ同じ大きさの地図...ハルジオン29 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第七章 戦争 パート5
黄の国の軍勢が来襲。
その報告が緑の国のミク女王に届けられたのはそれから三日後のことであった。私室でいつもの様にハクが淹れた紅茶を嗜んでいたミク女王は、ミク女王直属の親衛隊であるウェッジからもたらされた報告に思わずティーカップを手から滑り落とし、床に落下した白磁のそれ...ハルジオン28 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第七章 戦争 パート4
「内務大臣が来たの?」
リンがアキテーヌ伯爵の来訪を女官から告げられた時、リンは自身の私室で普段と同じように城下町の様子を眺めている時分のことであった。急用だと言っている様子だが、一体何事だろうか。煩わしい、とリンは考えたが、内務大臣の直々の来訪を蔑ろにする訳にもいかない...ハルジオン27 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第七章 戦争 パート3
緑の国の侵攻軍、総勢三万の兵士達が土埃を巻き上げながら黄の国の王宮を出立したのは翌日の早朝のことであった。その中には当然レンの姿も見える。バスタードソードを腰に装着して騎馬を行うレンは、どうしようもなく心が痛むことを自覚した。つい二日ほど前に戻って来たオデッサ街道を再び歩ん...ハルジオン26 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】
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第七章 戦争 パート2
どれくらいの時間が過ぎたのだろう。時間の感覚は既にリンの身体から失われていた。どうやら今あたしは黄の国の王宮、自分の私室の寝台に横たわっているらしいという認識だけはあったが、一体パール湖からどのようにしてここまで帰還したのか、皆目見当がつかない。あの時パール湖湖畔で最後に許...ハルジオン25 【小説版 悪ノ娘・白ノ娘】