―――――誰もが、己が目を、己が耳を疑っただろう。

 今の今まで、怒り狂っていながらも真面目な口調で、『吾輩』なんて時代がかった一人称を使っていた猫又が。

 子供のような笑みを浮かべながら、はっちゃけた喋り方になって、『俺』という一人称を使っている姿に、驚きを隠し得なかった。


 「ろ……ロシアンちゃん……!?」


 ルカでさえも、その変貌ぶりには言葉が出なかった。


 『……おら、クロスケ!!来ねぇのか!?俺を越えてーんだろ!!?特別に先手を譲ってやるぜ!?さっさと来ねーと、てめえの喉笛掻っ切るぞ!!』


 あまりに乱暴なロシアンに触発されたせいか、クロスケもかつての兄貴分ということも忘れたかのように言葉を荒げた。


 『だったら食らわせてやるぜ……!!』


 紅い焔『紅蓮劫火』がクロスケの左前脚に巻き付き、巨大な焔の三本爪を形成する。

 そして畳を強く蹴り、天井近くまで飛び上がってから――――――


 『おおおおおおおお『紅蓮爪』っ!!!』


 鋭い焔の爪を振り下ろしながらロシアンに向かって急降下―――――――




 『……ぬるいぜ。』




 ロシアンの言葉が聞こえたその時には。

 まるで空間を飛び越えたかと錯覚するようなスピードでクロスケの眼前に突っ込んで。


 『ふん!!』


 小さな碧命焔をまとわせた左手で―――――クロスケの紅蓮爪を受け止めた!!


 『なっ!!?』


 その驚愕の声は、クロスケと、ルカたちの声が重なったもの。

 愕然としているクロスケを小さく見据えたロシアンが、口を開いた。


 『……跳躍スピードも、腕振りの速さも、何もかもが遅い。しかも爪にも鋭さが足りねえ。てめえがこの300年、どれだけ素の能力のみに頼り、努力を怠ってきたかがよくわかるようなレベルだな。おまけによぉ……昔も言ったはずだぜ?てめえはいつも真正面から突っ込みすぎる……その癖を何とかしろ、とよ!!真正面から突っ込むことしかできねえというなら……せめてこんぐれーはできるようにしやがれっ!!!!』


 そう叫ぶと同時に、ロシアンの左手の爪が、クロスケの紅蓮爪を握りつぶすようにへし折った。

 そしてそのまま両前足に碧命焔をまとわせて―――――


 『「焔拳(ほむらけん)」っ!!!』


 高速の拳が、クロスケに直撃する。

 そしてそのまま連打。連打。連打連打連打連打連打。まるでマシンガンを撃ち鳴らすような恐ろしい音が響いている。

 その連打音から突如、パァン!!と空気が弾けるような音がして、ロシアンの体がクロスケから離れる。

 ガードしていたクロスケの両腕は――――その衝撃で大きく開かれた。

 そこに刻まれるのは―――――――――――――――



 『教えてやらぁ……爪ってのはこうやんだよ。『焔斬』っ!!!』



 右腕を包み込んだ碧命焔が形成した―――――碧い焔の五本爪。

 まるで人間の掌のように開かれたその爪は―――――がら空きとなったクロスケの胸を切り裂いた!


 『ギャン!!』


 そのまま地面に叩き付けられ、呻くクロスケ。

 一瞬の攻防だったが、その力の差は歴然としていた。


 『ぐ……ぐぐ……っ!!』


 苦しそうに立ち上がるクロスケ。胸には五本の傷が伸び、焔と同じぐらい紅い鮮血が滴っている。

 そのそばにゆっくりと降り立ったロシアンは、静かにクロスケを見据え、そして小さく笑った。


 『……だがまぁ、きついことは言ったが、素の能力自体は吠える通り凄まじいな。安心したぜ……素の強さすら期待を裏切っていたら、今頃この爪にはお前の心臓が握りしめられていたかもな。』


 そしてふと空を仰いで、また笑った。

 まるで懐かしさをかみしめるように。


 『それにしても……今の激突、俺とおまえが初めて会った時を思い出すぜ。覚えてっかクロスケ?俺とおまえが初めて会った時のことをよ。』

 『も……もちろん覚えてますさぁ……俺がフルボッコにされた時っしょ?』


 ゆっくりと歩きながら、今度はロシアンが語り始めた。


 『そう……あのころ俺は、一歳になったばかりだというのに、そんじょそこらの猫は片っ端から叩きのめして、既に最強の称号を手にいれつつあった。当時まだ部下やらなんやらはいなかったが、当時のボスにすら一目置かれてた。そんなときにだ……まだ一歳にもならないお前が挑戦してきて、正直俺は心の中で鼻で笑ったさ。『ああ、またバカがやってきたか……』ってな。大方俺を倒して、名声を得ようっていうガキの浅知恵だろうと。軽くあしらって、世間の厳しさを教えてやるつもりだった。―――――ところがどっこい!いざ戦ってみると、こいつが予想外の強さだった。大人にもならねえガキンチョだってーのに、スピードもパワーも俺に劣らぬとも勝るような強さだった。『このままじゃやられる』―――――そう思った俺は、咄嗟に本気を出しちまった。お前の爪を猫パンチで叩き落とした後、連打でお前をふらつかせてガードを払い、胸に爪の一撃……それでお前は屈服したんだったよな。』

 『ああ、そうだ……だけどそれがどうし……はっ!!?』


 突然クロスケが自らの胸の傷を覗き込んだ。

 血に濡れてわかりにくいが、さっきつけられた傷の下にもう一つ、白く残る古傷。

 それは―――――クロスケの生涯唯一の黒星の、証だった。


 『まさか……最初から計算づくでっ!!?』


 クロスケの想定外の強さの攻撃から、ロシアンの本気開放による攻撃、そして止めの爪の一撃まで―――――それはロシアンとクロスケの初めての戦いをなぞるかのように再現されていた。


 『さぁてなぁ?……あの時は傷の治りが悪くて、痕が残っちまってたからな。狙いやすくはあったが……くくく、今度は猫又の治癒力ですぐに治るだろ。お前の体から、漆黒以外の色が消えるいいチャンスだぜ。ははっ!!』

 『くっ……!!』


 圧倒的な力の差を見せつけられた上に、いいようにロシアンの手の内で転がされ、もはや完全に頭に血が上っているクロスケ。

 だが―――――頭に血が上っているのはロシアンも同じだった。



 『だが……………まだだ。』


 碧い焔が踊り狂う。


 『まだこんなもんじゃ足んねぇ…………!!』


 焔がロシアンの足元を走り、鮮やかに舞い上がる。


 『こんなもんじゃ俺の血の疼きは止めらんねぇ……!!』


 まるで焔が、ロシアンの高ぶる心を、滾る戦いの血を、表すかのように―――――





 『もっと……もっと………もっと……………!!!もっと血の滾るような!!熱い戦いをしようじゃねぇかああああああああああああああぁああああぁあああああぁああぁあああああああぁあぁあああ!!!!!!!』





 そしてそのまま叫びながら、再び2頭が激突した。


 『ぎぃおおおおおおおお!!!!』

 『ぎゃあああううううううう!!!!』


 クロスケの爪がロシアンの脇腹を裂いたかと思えば、それはロシアンお得意の碧命焔の幻影。

 背後に現れたロシアンの拳に碧命焔が宿り、クロスケの後頭部を叩く。

 ふらつきながらも地面に手をつき、クロスケの鋭い回し蹴りがロシアンの鼻先を掠る。

 掠った反動を利用したロシアンのバク宙蹴りが鮮やかにクロスケを跳ね上げる。

 天井近くまでかちあげられたクロスケが天井に激突するが、激突と同時に紅蓮劫火を爆発させ、その反動でロシアンに体当たりをかます。

 直撃し、地面に埋まった―――――かに見えたが、その瞬間に碧命焔が吹き上がり、クロスケの体が部屋の隅まで吹き飛ばされる。

 それを追い打つように焔拳を決めようと襲い掛かるが、クロスケもそこに同時に紅蓮劫火をまとわせた拳を叩きつける。

 しかし攻撃力は歴然の差があり、ロシアンの拳がクロスケを壁にめり込ませる。



 凄まじいまでの攻防。そして垣間見える、圧倒的なロシアンの力。

 あまりの光景に、ルカたちは茫然としていた。

 クロスケはルカたちから見て、決して弱くはなかった。むしろ、その強さはがくぽやリリィをも上回っているのが明らかに見て取れた。恐らくこれまでルカたちが見てきた中では、ずば抜けた強さだっただろう。

 だが―――――相手が悪すぎた。

 ロシアンの強さはその比ではなかった―――――それはまさに、絶対的破壊神。


 「な……なんて強さだよ、あれ……。」

 「あれ……ほんとにねこ助なの……!?」


 リンとレンが、恐怖とも取れるような声を出した。あまりにも強すぎるその姿もさることながら、完全にいつもの冷静さがいい意味で消し飛んでいることが、既に信じられなかった。

 ミクとカイトも、驚きで声が上ずっている。


 「がくぽさんと対等に戦ったり……暴走したカイト兄さんの攻撃をやすやすと受け止めたり……だけどあれでも全力じゃなかったって……こと!?」

 「今までとまるで違う……攻撃力もそうだが、何よりスピードが半端じゃないんだ!!恐らくあのスピードなら、あのがくぽが一動作する間に10発以上の攻撃を決められる……そして何より、性格が180度変わって、とんでもなくハイになってるんだ!!」





 「だけど…………!」





 一斉にミク達が振り向く。ルカだ。

 加速、加熱していくその戦いに、見とれるかのような目で、ポツリポツリと言葉を押し出していく。


 「なんだか……あんな荒々しいロシアンの姿が……いつもの堅苦しいロシアンよりもしっくり来る気がする……!」


 その様子をじっと後ろで見ていたメイコが口を開いた。


 「たぶん……あっちがロシアンの本性なんでしょうね。ロシアン自身は何らかの理由であの本性をそこまで好ましく思ってないのかも……。……でも、その割には楽しそうね。まるで、自分がクロスケを制裁しようとしていたのを忘れているみたい。」



 メイコの推測はほぼ正しかった。頭の隅では、クロスケを成敗することを考えていたロシアン。だがその考えは―――――この凄まじい戦いに対する悦びで吹っ飛ばされていた。



 『はははっ!!ふははははははっ!!!!もっとだ!!もっともっと!!俺を激しく燃え上がらせろおおおおおおおおおっっ!!!!』



 激しく踊り狂う碧命焔が、ロシアンの周りを渦巻く。





 まるで―――――戦いに酔いしれる、大龍のように。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ボーカロイド達の慰安旅行(14)~ロシアンとクロスケ‐参【荒ぶる猫又師弟】~

『行くよ!!あんたの理性ブッ飛ばすから!!』~byポケットモンスターブラック2・ホワイト2 ホミカ
ロシアンブッ飛ばされましたー!!こんにちはTurndogです。

もはや完全に性格がヤングですこの齢300年の猫又さん。
威厳のカケラもありませんwwww
そして途中の乱戦シーン!!ここを書くのは楽しかったwwwww
書いてる最中頭の中ではロシアンとクロスケの乱戦がアニメーションで流れていきました。テンションすんげぇ上がったわここぉ♪

当初の目的とかさっぱり忘れて楽しんでるロシアン。
あの、そろそろ戻ってくれませんかね?

閲覧数:509

投稿日:2013/04/22 01:51:43

文字数:4,355文字

カテゴリ:小説

  • コメント4

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  • Tea Cat

    Tea Cat

    ご意見・ご感想

    ロシアンさんかっけー!!
    吾輩ロシアンとは別猫格(?)として好きだー!!
    ロシアン、とりあえず落ち着こうかww
    ブクマもらいます☆にゃぁ

    2013/04/26 15:25:28

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      おぉ、茶猫さんおひさー!
      そしてやっと賛同者が来たー!!ちょっとうれしいww

      やめられない止まらないロシアンwww
      ブクマありがとです!

      2013/04/26 22:29:09

  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    うん……私も吾輩の方がしっくりくる
    最初から読んでいると余計そうなの?

    2013/04/23 21:53:44

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      あるぇー!?
      なんかバーニングロシアン不人気!?
      結構気にいってんのになぁ……

      2013/04/23 23:31:54

  • イズミ草

    イズミ草

    ご意見・ご感想

    おわ……
    かっこいいんだけど、かっこいいんだけど、そっちが本性なんだろうけど
    やっぱり吾輩のほうがいいよ!

    ロシアンちゃん帰ってきてよおお!!!

    2013/04/22 18:40:14

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      ロシアン『ひゃあっはアハハあはっハハハハハハハhschsvdgmmgmmhんhj、gjkhl・kpybzdヴぁ絵rがq46jjんkl・!!!!!』

      ……………。
      帰ってくるとか無☆理

      2013/04/22 21:58:58

  • 和壬

    和壬

    ご意見・ご感想

    ロシアンー、ダメだろ本来の目的見失っちゃあ!
    困るのロシアンじゃなくてTurndogさんなんだし!

    壊れすぎwww
    面白い。はい。分かってますごめんなさい。

    戦闘シーンってあんまし書かないから参考になりますwww
    私恋バナばっかりなのでw
    良かったら見に来て否定して下さるとうれしいですwww

    2013/04/22 15:42:39

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      ま、まぁ誰しも楽しんで生きるのがいいってことで←

      いや自分逆に恋バナ書けないんでww
      むしろ行かせていただきますわスキル吸い取らせていただk……ゲフン、奪わせていただきやすw

      2013/04/22 21:58:04

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