試作型パワードスーツDN-138、通称“デーモン”。僕が装着している強化外骨格の名前だ。発展型超硬合金、カーボンナノファイバー複合材料などの高強靭素材や各種エレクトロデバイスを組み合わせて出来た最高性能のパワードスーツである。
その戦闘能力はざっと見積もっても、特殊部隊が採用している最新鋭パワードスーツの三倍。装備さえ整えば近代兵器を圧倒する、まったくもって馬鹿げた身体強化機能を備えている。当然、それゆえのデメリットもあるが。
「フッ!」
鋭い呼気を発して敵との間合いを詰めた。瞬く間にゼロになる彼我の距離。両手で袈裟に振り下ろしたブレードの剣筋が、ハインシュルツの軍刀に逸らされる。交差する瞬間にィンと甲高い音が部屋に響いた。手首を返し、空を切った剣を横なぎに払う。紙一重の見切りで飛び退いたハインシュルツが空いた左腕を水平に持ち上げた。二の腕が一瞬で変形し、銃の形を取る。
肉薄するには僅かに遠い。一度フェイントを入れ、左後方に退く。だが銃口は僕の眉間にぴったりと付いてきた。一発、二発、三発と発射される弾丸。僕の回避行動を予測して並べられている。どうあがいても一発は被弾コース。舌打ちが漏れた。
電撃的な反応で体を捻って一発目を避け、その先に飛び込んでくる二発目をブレードで切り払う。高速で振動する剣身に触れた銃弾は、パンと間抜けた音を立てて粉々になった。外れた三発目が床に着弾する前にハインシュルツが距離を詰めてくる。
「ハッハァ!」
愉悦に顔を歪め、体勢が不十分な僕に軍刀を振り下ろす。避けることも受け流すことも不可能。そう判断した僕は咄嗟にブレードを敵の右手に向けて突き出した。右手が切断されるのを回避するため、軍刀の軌道が変わる。刃が前髪数本、そして胸部装甲を薄く切り裂いた。
その行く先を見届ける間も無く背中を襲う衝撃と痛み。たまらず吹き飛ばされた僕は床に腕を伸ばし、強引に体勢を立て直す。ギャリギャリと床を削って慣性を殺し、四つんばいに近い姿勢でハインシュルツに向きなおる。
敵は振りぬいた右足をゆっくりと引き戻しているところだった。死角から放たれた右の回し蹴り。それがスーツを含めて百五十キロ近い僕を吹き飛ばした攻撃の正体。並みのスーツなら背骨がへし折られていたところだ。
「返事が欲しいなァ。お前の中にはどれくらい残ってるって聞いてるんだぜ?」
ハインシュルツがゆったりとした動作で歩み寄ってくる。
「お前の親は!? 故郷は!? 人種は!? そうだ自分の顔をまだ覚えてるか!? ん?」
両手を広げ、おどけたように言う。僕は乱れた呼吸を整え、剣を構えなおした。
最高最強のパワードスーツ“デーモン”。その高すぎる性能は人の手に余る。圧倒的なマシンパワーに振り回されて、人間の方が壊れてしまうのだ。はっきり言って欠陥品だった。どんなに鍛えた人間にも使いこなせないのなら、いっそロボットでも作った方がよほど役に立つ。だけど、クソったれな科学者たちは自分たちの技術の結晶を手放したがらなかった。そして実にクソったれなことを考え付いた。
『人間にかかっているリミッターを外せばいい』
遺伝子操作、薬品によるドーピング、手術による人体の改造etcetc。数々の人体実験を経てその兵士は生まれた。最強のパワードスーツのための生贄として。
リミッターを外した人外の能力と引き換えに、僕たちは副作用として脳細胞が少しずつ壊死していく。戦闘能力を損なわないよう、プロテクトをかけた部分以外は。
「悲しいなァ……。実に悲しい」
僕の沈黙をどう受け取ったのか、ハインシュルツは同情するような表情を作ってみせる。
「何故そこまでして救おうとする? こんな穢れた世界がそんなに大事か?」
ハインシュルツの背には、隠し切れない憎悪が滲み出ていた。彼が何を背負っているのかは分からない。周囲の空気を食らい尽くすほどの負の感情を募らせるその何かは、おそらく世界を破壊する理由として十分なものなのだろう。
「世界が大事なわけじゃないさ。だけどこの世界には……」
僕は呟く。声なき声で僕を呼ぶひと。心の中の空洞、暗闇の中にあなたの顔が浮かんでくる。僕が戦う理由。けして死なない唯一つの想い。僕を繋ぎ止めるもの。
「あのひとがいるんだ」
交わした約束が僕の魂を燃やしている。夜に沈む僕を照らす、たった一つの希望の光。それを失わないために、僕は前に踏み出すのだ。
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またたいて…わぁっ!とときめく。
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夜に連れ出して。王子様みたいに。
例えば…...ひめにしてっ!_歌詞
たぴちき
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