注意書き
これは、拙作『ロミオとシンデレラ』の外伝です。
クオの視点で、三年に進級した春頃の話です。
よって、本編を第六十話【わたしは夢に生きたい】まで読んでから、読むことを推奨します。
【クオの憂鬱】
基本、高校では昼休みに昼食を取る。無味乾燥な授業の合間の、憩いの一時。多分、大抵の奴にとってはそうのはずだ。
……なのに、なんで俺はこんなにしんどい思いをしてるんだ?
俺は、目の前で繰り広げられる光景を見ながらイライラしていた。
「グミヤ先輩、はい、先輩の分のお弁当ですっ!」
「あ……うん、ありがとう」
「えへへ……今日はですね、出汁巻きがとっても美味しく焼けたんですよっ! お父さんもお母さんも褒めてくれましたっ!」
「確かに美味い。……グミ、料理上達したな」
「先輩のためなら幾らでも頑張っちゃいますっ!」
俺は頬杖をついて、ため息をつく。少し離れたところでべったりくっついているのは、同じ演劇部のグミヤとグミだ。さすがに毎日じゃねえけど、時々こうやってグミはグミヤに弁当を作ってくる。
いつからこいつら、こんな熱々バカップルになったんだ? ちょっと前までグミヤの奴、人前でグミの手を握るのも恥ずかしがっていたのに。これがいわゆる「朱に交われば赤くなる」という奴なのだろうか。
俺は憂鬱な気分で、反対側に視線を向けた。これまた、くっついているカップルがもう一組。
「あ、あのね……わたし、マフィンを焼いてきたの。……良かったら食べて」
「中身は何?」
「こっちがハムとチーズで、こっちにはベーコンと玉ネギを炒めたものを入れてみたの」
「美味そうだな。じゃ、早速」
レンは袋からマフィンを取り出して、食べ始めた。その様子を、巡音さんが心配そうに見守っている。
「うん、すごく美味しいよ」
「……良かった」
マフィンをがっついているレンを、巡音さんが嬉しそうに眺めている。
俺はまたため息をつくと、自分の弁当箱を取り出した。……なんだか、ひどく空しい。俺、何をやっているんだろう?
ちなみに、俺たちが今いるのは空き教室の一つだ。それはそうだろう。レンと巡音さんは同じクラスだが、俺は違う。ついでに言うとグミヤも別のクラスで、グミに至っては学年が違う。つまり、一緒に昼飯を食うために、わざわざここに移動してきているわけだ。
……なんでこんなことになったんだろうなあ。ついこの前まで、俺は自分の教室で一人のんびりと昼を食っていたのに。
「クオ、どうしてため息なんかついてるの?」
俺の隣に座っている、従姉のミクがそんなことを訊いてくる。……お前のせいだよっ! って、そう言えたらどんなに楽か。
「……お前、あれ見て何とも思わないわけ?」
俺は、二組のカップルを順々に指差した。そんなことして不快に思われないのかって? 心配しなくても、両方ともこっちには全然注意を払ってねえよっ! 実際、どちらも自分たちの会話を続けている。
「グミ、次の週末なんだけど」
「はい、なんですか?」
「良かったら、一緒に水族館のイルカショーでも見に行かないか?」
「わあ、楽しそうですね! もちろん、あたしはグミヤ先輩と一緒なら、どこでも楽しいですけど」
一緒に水族館でイルカショーかよ。ああ全く。つーかグミ、どこでも楽しいなんて嘘だろ。いくらグミヤと一緒でも、行き先が墓地とかだったら楽しいわけないじゃないか。
……で、もう片方はというと。
「ラストでハムレットが死なない? ハムレットが死なない『ハムレット』って、『ハムレット』って言えるわけ?」
「イギリスの人たちもそう思ったみたいなの。だから評判が最悪で、仕方ないから死ぬ展開のものも作ったんですって」
「そりゃ、作った側もショックだったろうなあ。イギリスの人が嫌がるのは、それはそれでわかるような気がするけど」
「でもわたし、この作品に関しては、ハムレットは死んだ方がいいと思うの」
「リンは、ハッピーエンドの方が好きじゃなかったっけ?」
「好きだけど……ハムレットだけ生き残ると、なんだか余計オフィーリアがかわいそうになってしまって。死ぬ方だと、『君と一緒に死ぬ』って言ってくれるから」
……一体何の話してんだよお前らはあっ! レンの奴、神妙な顔して頷いてるけど、実は話を聞いてないんじゃないのか。そうだ、そうに決まってる。
俺は内心ひどくくたびれるものを感じながら、ミクにもう一度向き直った。ミクはというと、普段とあまり変わりない。
「楽しそうよね」
「そりゃ……な」
「それに、すごく幸せそう」
「まあ……な」
いちゃついてる当の四人は、幸せだろう。俺はちっとも幸せじゃないが。むしろ不幸だ。
「幸せなのはいいことだわ」
「……よかねえよっ!」
俺は、思わずそう叫んでしまった。ミクの奴、一体どういう神経してやがんだ。
一方ミクはというと、平然とした表情で、弁当に箸をつけている。俺の叫びは全く意に介していないらしい。……畜生、余計いらつくぞ。
「クオ……どうかしたのか?」
そう訊かれて、俺ははっとなってそっちを見た。見ると、グミヤたちもレンたちも、俺の方を見ている。さっきの叫びは、さすがに気になったらしい。
「……なんでもねえ」
俺がそう答えると、両方とも興味を無くしたのか、さっさと自分たちの会話を再開し始めた。……ああ、世の中の冷たさが身に染みる。
本当に、なんでこんなことになったんだろうなあ。高校卒業するまで、俺はこの苦行に耐えなくちゃならないのか?
「グミヤ先輩、いいんですか?」
「何が?」
「初音先輩、なんだかすごく苛立ってましたけど」
「クオ? ああ、放っとけばいいよ。自分の問題ぐらい、自分で解決しなきゃ」
「初音先輩の問題って?」
「クオにはクオの悩みがあるんだよ。けど……人の幸せやっかんでる暇があるんなら、自分の為に行動しなくちゃな」
「ね、ねえ……レン君、さっき、ミクオ君はなんであんな声で叫んでたの?」
「ああ、リン。クオのことなら心配しなくていいから」
「え……でも……」
「大丈夫だよ初音さんに任せておけば。初音さんがしっかりしてることは、リンが一番良く知ってるだろ?」
「え、ええ……そうよね、ミクちゃんが一緒なら、平気よね」
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