「あーっリンちゃん! とレンくん! Appendおめでとう!」
元々可愛らしいイメージだった初音ミクは、Appendになって色っぽくもなったと思う。
それでも中身は可愛らしい姉のままなので、そのギャップにまた萌えてしまうのだ。
「……ありがと」
「あれれ、レンくん、メイクアップして鼻声直ったはずだよね、あるぇー?」
「風邪ひいた」
「ぷっ」
ずび、とレンが鼻を啜るのを見ながら考える。
──次は、巡音ルカAppendが来るのだろうかと。
そうなれば、VOCALOID02のシリーズは全員Appendで並べる。
「ぶえっきし!」
──そんな未来に心を弾ませるリンなど無視して、くしゃみをしたレンは、ティッシュの箱片手にこたつのある部屋へと向かっていった。
「ミク姉、こたつ借りるね」
「レンAppend! かっこ悪いぞ、レンAppend!」
「はいはい、いーよ別に」
片割れの遠慮のなさに眉を寄せつつ、リンは部屋の中と、見えうる周辺をざっと確認した。
彼が──いない。
「ミク姉。クオくんは?」
「あっ、ミクオ?」
「うん。リンの華麗なAppend姿を見て、羨ましがってもらおうと思って」
いつも自分をチビ呼ばわりしていた男を見返すのに、これほどの好機はない。
自信から湧く笑みをどうにもできず、リンは高笑いしたい気分だった。
──その名を聞いて、パッと表情を明るめたミクに、一抹の嫌な予感もしたが、彼女の自信を砕くにはまだまだ足りない。
「ちょっと待って」
ミクの自慢のツインテールが、可憐に靡いた。
「ミクオー! 着替えた? 今、ちょうどリンちゃんがAppend仕様で来てるよ!」
「マジか、ちょい待って」
もう、ガキだなんて言わせない。
「クオっ……」
「Append発売おめでと、リン」
胸を張ったまま、リンは瞠目した。
「な、な、な」
「さっみぃなこれ、前」
「わぁ、クオくん似合うよ! かっこいい!」
「なんでクオくんがAppendしてんのよーー!?」
いつもと同じく、初音ミクのAppend衣装を少しいじっただけではあるものの──どういうことだろう。
リンの絶叫に、ミクオは自信満々の笑みで応えた。
まるで、「どうだ」とでも言うように。
ミクと並ぶと余計に男女の差が際立つ。
どうしても露出部分に目が行ってしまって、リンはぶんぶんと頭を振った。
「ミクオのAppend版とか見ないなあ、と思って、マスターに作ってもらっちゃった!」
ミクオの腕を抱えて、ミクが笑う。
あなたのせいか、と口の中で弱々しく吐く。
似合っている、とても。
彼が様になっているからこそ、急に自分に自信がなくなってくる。
すたすたと側にやって来たミクオが、頭からつま先までリンを観察して、ゆっくりと、声を発した。
「リン……さ」
「あ、あう」
「胸んとこそれ、なんか入ってるの?」
「う、うるさい! どこ見てんの、ばかっ!」
「全体的に──前より扇情的になった。あと二年経ったら俺とイチャイチャしようか? そのよく分からん紐的なもので縛ってみたいわー」
「ちょ、ちょっとミクオ! あんた、何ぺらぺら危険な欲望喋ってんのよ!?」
べしーん、とミクの平手が決まる。
掴まれた手を振りほどくことも出来ずに、リンはうめく。
じわじわと込み上げてくる熱に耐え兼ねて、ミクと同じ色のスラックスを力一杯蹴り飛ばした。
「──うわあああああ! クオくんのすけべ!」
「サイテー! ミクオ最低!」
いつの間にかミクはピコピコハンマーを持っている。
それで彼の頭を連打。
「ちょ、待っ、ミク、おいコラ!」
ピコン、ピコンと情けない音に、途切れ途切れにミクオの制止の声が混ざっては消えた。
「冗談だって!」
「──わああああああクオくんのばかあああああ!」
「サイテー! ミクオホント最低!」
冗談の一言に、今度こそ彼を振り払って逃げる。
リビングで、こたつに潜って眠るレンを見付けた。
その暢気な様子に、苛立ったのは言う間でもない。
「ほんと……男って、バカばっかね!」
ちゃぶ台のように、こたつをひっくり返す。
見舞った冷気に意味不明な声を上げたレンを見下ろす目は、氷よりも冷たかった。
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縛ってみたいw 危険すぎますねw
レンがメイクアップして~ とありますがメイクアップは化粧なので、バ-ジョンアップの方がいいんじゃないですか?
後「自身から沸く笑み」のところの「沸く」は「湧く」の方がいいと思いますよ。細かいことですがねw
2011/02/04 22:12:49
音坂@ついった
メイクアップはセーラームーン的なあれ要素なのでこれでいいのですw
いつか誰かに言われるとは思ってたんですけどね!^^
やっぱり「湧く」ですか…日本語ってめんどくさいですn((
2011/02/04 22:19:19