ひとりぼっちで残されて。

すごく寂しくて。

昨日、抱きしめた温もりが忘れられなくて。

人肌ってあんなに優しいんだと、やっと気づいた。

ねえ、マスター。

僕は、僕は、僕は、僕は。

あなたがここにいないと、息ができなくなりそうなんだ。

今にも泣いてしまいそうで、

苦しくて傷が疼いて。

僕は何度何度も、傷をかいた。

かくたびに、血に似たものがにじんできた。

これでまた、マスターは僕を心配してくれる、かな。

ちょっと心が弾んだ。



窓から、日差しが差し込む。きっと外は晴れてるんだろうな。
僕は勝手に家を抜け出した。ちょっと散歩に行くだけだから、いいよね。

家を出るとすがすがしい風が僕の頬に触れた。
すごく気持ちが良かった。
近所の公園で見つけたブランコに、僕はそっと座った。
平日の公園には誰もいなかった。
最近、物騒な事件が増えているからなんだろう。
そう思うと、少し胸が痛かった。

そのとき、突然目の前に変わった風貌の少女が現れた。
血のように赤い長髪を風になびかせて。
真っ赤なラインのある真っ白な服を着て。
彼女はニタリと僕の前で笑った。
その手には、爛々と輝くナタが二本、握られている…。

「あははは。きみ、ちょーきたなーい」

「え…」

その少女は、僕にむかってナタを突きつけながら高らかに笑う。

「あははは、もう、バレてるよ」

ナタの先で、僕のあごを押し上げる。
嫌というほど、瞳孔の開ききった彼女の瞳を見た。

「どんなにぬぐったって。私には見えるよ。君の両手は真っ赤なの。
 すっごく真っ赤で、きれいで、汚くて、血なまぐさいの」

「なにを言って―」



「人殺し。あなたとオソロイね」



僕は息をのんだ。
彼女のニタッとした瞳にねばりつくような笑みが、恐ろしかった。
そしてなにより、僕の、ぼくの、秘密を知っている…。

赤い少女はナタをおろすと、スッと音もなく飛び上がる。
そして数メートル離れた街灯の上に、まるで鳥のように降りた。
人間じゃないッ。

「ッ!」

「嘘はねぇ、いつか崩れちゃうの。君はねえ、いつも正直じゃないとダメなの。
 私とねぇ、いずれ同じように、また人を殺しちゃうよ」


だって、私タチに「心」は ナイんだもの


そう言って、彼女は再び飛んでいってしまった。
一人残された僕は、ただその場に座っていることしかできなかった。

両手を広げてみる。
絆創膏とか、包帯とか、あの子が覆ってくれた優しさがそこにはあるけど。

でも。

その優しさで隠された下には、真っ赤な傷が残っているんだ。

僕の逃れようもない
傷が
はっきりと。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

優しい傷跡 第05話「赤い少女」

【登場人物】
赤い少女
 真っ赤な長髪。真っ白な服。ナタ装備。
 はい!お察しください!

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投稿日:2008/11/02 11:58:30

文字数:1,111文字

カテゴリ:小説

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