三角草という花があって、淡い紫色の花を咲かせる。
少し肉厚の花びらが、なんとなく和菓子に見えてくる。
そんなことを姉に言ったら、それは花びらではなくがくなのだと、
ころころと鈴が震えるように笑った。
三角草の花が咲く
そのころに前後するくらいに、のどの調子が悪くなった。
こほりこほりと何度堰をしても、ずいぶんひどい声である。
ウタウタイとしてこれでは、と若干自嘲気味に笑いながら歩く、歩く、影は長く伸びるでもなく、足元におとなしくくっついている。
それにいたずらするように、指で形を作って耳をつけたり、そんなことを姉がする、笑いすぎだと思う。
玉子酒だマフラァだ、首にねぎを巻けだなんだと家族一同ばたばたとした朝だった、熱もないので学校に行くとそういって逃げるように出てきたのは当然のことだと思う。特にねぎはいただけない。
こほり
ガラガラとのどがおかしい、ただでさえ練習不足やかつ舌がわるいだといわれているのに、歌うことができない、練習ができない。
練習不足ならばそれを補うだけ練習すればいいことだし、かつ舌の悪さも練習しだい、ようは落ち着いてできればいいことだと思っているから、やっぱり何回も練習して曲を全部丸ごと自分の物にすれば、どうにかなることも知っている、でも歌えなければそのどちらもできない、歌いたいのに、歌えない。
最近せっかく作ってもらった曲があって、やさしい音のバラードで、少しだけ大人っぽい、ギター一本のデモテープは、今丁度架橋に差し掛かって、鼓膜を震わせている。
歌詞も音も知っているのに、歌うのは俺じゃない、それがたまらない。
こほり
俺たちが歌を歌いたいと思うのは、海の中で空気を求めるようなそんな切実な問題だ、歌えないだけで胸が苦しくなって、足元から冷たくなって、クシャリクシャリとつぶれながらどんどんどんどん沈んでいく。
小さく、小さく、旋律をなぞると、すぐに声は裏返った、裏返ってむせた、ひどい声だ、ひどい音だ、耳から伝わる音楽は、丁度二番に差し掛かる。
風邪だったら、まだよかった、大体水いっぱい飲んで、暑いお風呂で汗をかいて、薬を飲んで寝れば次の日には治ってる。
俺はこれが風邪でないことを知っている。
こほり
夜になると足が痛い、腕の関節が痛い、同じ目線にいたはずの姉のつむじを見れるようになった、のどがつぶれた。
これが何を意味するかなんて、馬鹿でもわかる。
これから長い間、俺は歌が歌えない、歌えるようになっても、前と同じような声は出ない。
それがたまらなく、つらい。
二番の終わりに入る予定の、少し高めのユニゾンは、もしかしたら歌えないかもしれない、きれいな旋律で、とても気に入っていたのに。
こほり
こほり
ぽとり
歌が歌いたい、歌いたい、歌いたい
歌えないなら生きていられない、立っていられない
成長期だというのに笑える、一人だけ取り残されたみたいだ
前を歩く姉が振り返る
遅いといって手をとられる、小さくて、やっぱりその手は自分と違う、簡単に手に収まってしまう、子供みたいな、手、それが馬鹿みたいにうらやましい。
うらやましくて、悔しくて、腹立たしくて、そんな自分がばかばかしくて、泣きそうな顔で笑ったから、きっと変な顔になった。
どうしたのかと、心配そうな顔で聞かれた。
人差し指を口に当てる。
バラードはラストフレーズをはじいている。
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