「……ただいま」
「おかえり!久しぶり!!」
「あぁ、そろそろお前が俺を必要とする時期じゃねーかな、と」
「さっすが!正解だよ。それじゃぁ早速……いい?」
「ん、いいよ。………さて、アリスは何処だ?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
さりげなく、前を歩くクオの隣に並ぶと、ふと浮かんだことがあった。
「いつからここにいるの?アリスって、元々ここに住んでる人がなるもの?」
「えっ……いや、君と同じだよ。俺ら皆余所者」
「俺"ら"?そういえば、クローバーアリスって言うくらいだし、他にも居るの?」
「あぁ、いるよ。ハート、スペード、クローバー、ダイヤ。……5人だ」
「4人じゃないんだ」
「一組双子がいてね。その二人が一番年下なんだ。……俺らは、用無しだから、この世界に閉じ込められた。いつかここから出て、元の世界に戻るのが目的なんだ」
不意に真剣な顔つきになったクオを、ミクはじっと見つめた。
「……もし、元の世界に帰れたら、初めに何したい?」
「ん……じゃあまずは、家に帰って……それから、君を探す、かな?」
「え……ふぇあぁっ!?」
「あっ…ぶないっ!」
クオの突然の発言に驚いていると、躓いてしまった…いや、躓きそうになった。
クオが、抱き止めてくれたのだ。
「へ、あ、ぁ、うぅ……あ、りが、とぉ……ぅ」
戸惑いながらクオから離れる。クオの顔を見れない。
「大丈夫……?」
「大丈夫!!大じょぶ!!だいじょ……うぶ!」
「そ、う。ならよかった」
胸の高鳴りが収まらない。むしろ状況をすべて把握した今の方がさっきよりドキドキしてる。
「えと……さっきの…帰れたら、何するの、ってやつ……」
しどろもどろになりながら言葉を吐き出した。
「あ、さっきの。えっと、君に…所謂、一目惚れ?みたいなの…しちゃったって言うか……うぁ」
声が少しずつ小さくなっていくのをミクは感じ、ゆっくりクオの顔を見ると、彼はそっぽを向いて顔を赤く染めていた。
あぁ、なんだかこの人、可愛いなぁ…。
そんなことを思いながらミクは、自分の気持ちも述べた。
思ったよりスラスラと話すことができた。
「私も、ね?そんな感じの、あなたにしちゃって…すっっっごい、ドキドキした」
「……え!?」
クオがこちらを向いてきた。ミクは、それに応えるかのように微笑んだ。
もう、森の出口は、見えていた。
森を出ると、先ほどのような草原が広がっていたが、先に城と、違う方向には大きな門が見えるので、違う場所であることはすぐ分かった。
2人は、あれからも他愛もない会話をしながら来た。
「ミクちゃん、あの門が町の入口。あっちが城。行こうか」
「うんっ」
少し歩くと、城の目の前。
「……さぁっ、ここまで有難ね、クオ君。お別れになっちゃうけど」
そういって前へ進むと、中から4人の男女が出てきた。
「……貴女が、この国の女王となります、ミク様でございますか?」
名前を呼ばれたが、ミクは別段驚きもしなかった。
「ミク………うん、私だよ」
「左様でございますか……私はメイド長のハクと申します。」
「私は副メイド長、ネル」
「私は執事長、がくぽと申します」
「私は副執事長、ネロ。宜しくお願い致します。」
それぞれが自己紹介を終える。
メイド長はあるけど、執事長って初めて聞いた…なんて考えるほど、ミクはのん気だった。
「………後ろの方は?」
ハクが聞いてきた。
「あぁ、彼は、私をここまで――――」
「彼女の執事第一号……みたいなものです。城に彼女と入るのは?」
「あぁ、それなら了承します。使用人服はネロ、準備を」
「分かりました、がくぽさん」
「ネルは私と女王のドレスの準備を」
「はい、メイド長。……こちらです、ついてきてください」
そうして、ミクだけでなく、クオまで城に入ることになった。
「クオ君、嬉しいけど……雑用とかやらされるかもよ?」
「それは、ミク様のご命令次第です。……あと、ドレス似合ってるよ」
「ドレスの事は有難う、でも冗談言わないで……ご命令、とか」
クオ君それにしてもノリノリだな、執事服もかっこいいし……///
てか、本当に女王になれるんだ……なんか凄いなぁ…
なんて思いながら、ミクは女王の席に座った。
「ミクちゃん、コーヒーだよ。…ホットで良かった?」
「ん、他の使用人は近くにいないんだね…あ、コーヒーありがと」
あれから数日、ミクは女王として人の上に立ち、王らしい豪華な暮らしをしていた。
政治なども教えて貰いながらも行い、色々な書類へのサインや、法を作るなど、沢山の仕事をこなして見せた。
そして、そのたびに届く民衆の声に、ミクは優越感を感じていた。
ふいに、クオが聞いてきた。
「何してるの?」
「んとね、新しい決まりを作ろっかな、なんて思ってたの。あ、聞いてくれる?」
「勿論」
「えっと、税金、もっと増やそうかな、なんて」
「何で?今でも十分じゃないの?」
「え、だって、いろんな洋服とかご飯とか、着て見たいし、食べてみたいの。…夢だし、別にいいでしょ?」
そうミクが言った瞬間、クオは一瞬だけ悲しそうな顔をした。
「……そっか。いいんじゃないかな?……あ、通達は?」
「ん――……じゃ、今すぐしちゃって!」
「わかった。じゃ、通達してくるね」
クオはゆっくり部屋を出ていった。
数日後。
税金を上げる、と言われ、その通りに沢山の金をとられていく民衆は、女王であるミクに怒りを向けていた。
今、部屋には、ミクとクオが2人でいる。
「……外が騒がしいね」
「止めてこよっか?」
「うん。私の言う事が聞けないなら、消えちゃえ。王は私なんだから」
「―――――やばい」
「へ?」
クオの方へ向くと、驚愕の色に満ちた顔をしていた。
「………ごめんね、ミクちゃん。はやく、いかなきゃ……」
驚きだけでなく、焦りの色も見える。
「え?どこに?なんで、どうしたのっ!?」
ガチャ。
不意に、ゆっくりと部屋の扉を開く音がした。
その音を聞いた瞬間、クオは、ミクから離れた場所にあったクローゼットへ逃げ込んだ。
「え?何があったの?クオく…」
「こんにちは」
扉の方から声がした。
振り向くと、そこには黒いフードを深く被った…声と体格からして、少年が立っていた。
使用人だと思っていたミクは、驚きを隠せずにいた。
「…え?貴方、誰、なの?」
「んー……夢の、お友達……でどうでしょう。ほら、貴女は初め出会ったはずですよ?彼女に」
確か、あの時会った夢は小さい男の子で、「彼女」……女では無かった筈だ。
「夢さんの、お友達……?」
「えぇ。それで、その夢から、貴女は用無しと言われたので……処分しに来ました。簡単に言えば…そうですね、今の貴女は王ですから、俺は暗殺者、みたいなもんです」
あぁ、暗殺者。
それだけで、ミクは納得してしまった。
後ろにはクオがいる。だが、彼はこの世界から帰りたいみたいだし、巻き添えにするわけには行かない。
「と、いうことで……とっとと終わらせたいと思います、ね」
そういうと、彼はナイフを取り出した。
音もなく、素早く近づくと、ミクの胸に突き刺す―――
直前で、止まった。
「……怖くないのか、死ぬの」
「怖くないわ。寧ろ、今私、このままでいたら欲に溺れちゃうんじゃないかな、って思って。……既に手遅れかもしれないけれど。だから、殺したいなら殺せばいいわ。………有難う、と夢に伝えておいて。楽しかったわ、ものすごく。悪夢だったけれど」
「!?………そうか。ん、じゃな」
自分の血飛沫がミクには見えた。
「ごめんね……ごめんね、ミクちゃん。でも、こうするしか、なかったんだ……ごめんね、ごめ、んね……」
クオは、暗殺者が去ったのを確認すると、クローゼットから出て、その場で泣き崩れた。
「何で……何で、怖くなかったんだ……?あんな奴、初めてだったな…。…アイツに、報告すっか」
夢の元へ、暗殺者の少年は走り出した。
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