俺は実に納得が行かないで居た。そもそもファミレスとは食事をする場所、即ちある程度落ち着ける場所でなければならない。しかし現状は何かが間違っていた。
「うっわ、何あの美形集団、撮影か何か?」
「あ、あの子知ってる!ほら、このサイトの女の子だよ、前写真ダウンロードしたもん。」
「金髪の巨乳ちゃん居なくね?後ほら何かさ…。」
何故ファミレスに来てこんなにも注目されなければならないのか、これじゃ俺達は珍獣扱いだ。芸能人でもパンダでも無いと言うのにジロジロ見られ写真を撮られては落ち着かない、いや、むしろストレスでハゲる。
「分散した方が得策ではないだろうか?」
「賛成。視線が痛過ぎる。茶飲んで即出たい。」
「俺の家近いからコンビニで買ってって食います?」
「そうだね、じゃあ雉鳴さん家に…。」
その時ポケットで携帯が鳴った。正確には震えたのだが細かい事は気にしない。メールはクラスメイトからで、例のサイトが開けない、と言う内容だった。首を傾げつつ鶴村が小声で話し掛けて来た。
「天城会長?どうしたの?」
「なぁ、鶴村、例えば今俺がお前にキスをしたらサイトに載ると思うか?」
「いきなり何を言い出すのかな?君は。」
流石に引かれた。しかし別の方向から少し意外そうな幸水さんの声がした。
「あー…その手はアリかもねぇ、こっちからエサをばら撒く感じで。」
俺が気になっていたのはサイトに載るかどうかと言う事、そして載った場合写真なのか絵なのかと言う事、もし写真が目線か何かを入れた状態で載ったとしたら、少なくとも此処に居る誰かはデータを盗んだ犯人に何らかの形で繋がるのではないか、そんな所だった。
「被写体を中心に各自で後ろの客撮れば?写真の角度から撮った奴割り出せるだろ。」
「おぉ、坊や冴えてる。」
「で?誰が何やるの?」
全員が考え込んでしまった。インパクトのある行動と振られても俺達は芸人ではないから当然詰まる。
「くじ引きとか?」
「命懸けだな…。」
他に案も無いので、と鶴村がメモ帳にアミダを書き始めた。こんな緊迫したアミダくじ嫌だな…。と、携帯の音と共に響さんが視線を自分の手元に移した。
「おい、侑俐。」
「ちょっと待って下さい、今メールが…。」
携帯を弄る響さんを余所に隣から何やらメモが回って来た。皆はお互いの位置を確認しながらちらちらと目で会話をしていた。気のせいだろうか?雉鳴さんとカメラを手にした鶴村がやけに嬉しそうに見える。
「響さん、響さん。」
「ああ、悪…んぅっ?!」
写真を撮りながら思った。これからあの2人の前で滅多な事は言わない方が良いな、と。
「んじゃ移動するかー。」
「生チュー写真ゲットしちゃった♪」
「おーい、そこのバカ侑俐ー?固まってないで早く来ーい。」
けらけらと笑う雉鳴さんとは対照的に響きさんが項垂れていた。流石に公衆の面前でキスをされてはショックが大きかったんだろう、しかも同性。ここは笑わせてフォローをして置くべきだな。
「気持ち良かったですか?」
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何か間違っていたらしい。
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