注意書き
 これは、拙作『ロミオとシンデレラ』の外伝です。
 ルカが小学校の時に、課題でつけていた日記を抜粋したもので、時期としては日記のつけはじめ~最初の継母が出て行くまで(ルカが三年生の春)となっています。
 なお、ルカは小学生ですが、家庭教師について幼稚園の頃から勉強していたために、そこそこ漢字を知っているという設定です。また、誕生日以外の日付は結構適当なので、あまり突っ込まないでください。
 この作品に関しては、『ロミオとシンデレラ』第四十二話【辛すぎる忍耐は心を石に】まで読み進めてから、読むことを推奨します。


 【ルカの日記】


 ~巡音ルカの日記より抜粋~

 四月二十八日
 今日、学校の先生から日記ちょうをもらいました。これから毎日日記を書いて、先生にていしゅつするのだそうです。小学校に入学する時に、パパに「先生の言うことをちゃんときいて、しっかりお勉強して、いい子にするように」と言われたので、ちゃんとしようと思います。
 でも、学校の勉強ってちょっとたいくつです。もう知っていることばかりだから。
 けれど、いい子にしていようと思います。


 五月十二日
 この前、はじめてのテストがありました。そして今日、テストが返ってきました。
 返ってきたテストはどれも百点で、先生が「おめでとう、みんな百点よ」と言いました。わたしはとてもうれしかったので、家に帰るとみんなにテストを見せてまわりました。お手つだいさんも運転手さんも「すごいですね、ルカおじょうさま」と言ってくれました。
 でもわたしがそうやっていると、にせママがやってきて、「つまらないことしてるのね。たかが一年生のテストで百点とったぐらいで」と言われてしまいました。
 百点ってつまらないのかな? でもにせママの言うことはいつもよくわからないので、パパにきこうと思います。

 先生のこの日のコメント
 めぐりねさん、先生は百点をとるのはとてもいいことだと思いますよ。めぐりねさんはとてもうれしかっただろうから、おうちの人に見せびらかしたくなったのも、あたりまえだと思います。でも、ほどほどにしておきましょうね。
 ところで、にせママってどういうこと? お母さんのことをそういうふうに書くのは、先生はいいことだと思えません。


 五月十三日
 パパはきのうはわたしがねてから帰ってきたので、テストのことをきけませんでした。なので、けさきいてみると、「百点はとてもいいものだ。次もがんばって百点をとりなさい」と言われました。
 だから、次も百点をとりたいです。
「にせママ」というのは「にせもののママ」だからです。わたしの本当のママは、「りこん」して家を出て行ったので、今、家にいるのは、パパが「さいこん」した、「にせもののママ」です。
 本当のママはわたしをすてました。ママは子どもをすてるものなんでしょうか?

 先生のこの日のコメント
 めぐりねさんのおうちはたいへんなのね。でも、お母さんのことを「にせママ」と書くのはやめましょう。めぐりねさんとは本当の親子じゃなくても、今、いっしょにくらしているんだから。きっとお母さんは、めぐりねさんにじまんばかりする子になってほしくなかったのでしょう。
 あと、本当のお母さんだって、めぐりねさんをすてたんじゃないと思いますよ。たぶん「大人のじじょう」でしょう。大きくなれば、わかってくると思います。


 五月十四日
 先生がそう言うのなら「にせママ」と書くのはやめます。ごめんなさい。
 今日は学校から帰ってから、家庭きょうしの先生についてお勉強をしている時に、妹のハクが急になきだしてたいへんでした。ハクはようちえんに入ったので、わたしといっしょにお勉強をするようになったんだけど、お勉強がきらいみたいです。


 五月二十四日
 ママはさいきん、いらいらしてることがおおいです。お手てつだいさんにそう言ったら「おくさまは、こんど赤ちゃんが生まれるんですよ。ルカおじょうさまに、新しい弟か妹ができるんです。赤ちゃんが生まれてくる前っていうのは、ちょっといらいらしちゃうものなんですよ。だからしんぱいしなくてもだいじょうぶですよ」と言われました。


 六月九日
 今日は、いやなことがありました。それだけです。


 六月十日
 きのうの日記は、ちゃんと書けなかったので、今日、書きます。
 先生にで「小さい時の写真をもってくること」と言われたので、わたしは自分の小さい時の写真をさがしてみたけれど、見つかりませんでした。
 ママに「わたしの写真は?」ときいてみたけど、返事はありませんでした。パパにもきいてみたけれど「ママが知ってるはずだ」としか、答えてくれません。どうしてわたしの写真はないの? ハクの写真はいっぱいあるのに。

 先生のこの日のコメント
 ごめんなさいね、めぐりねさん。きのうのほうかごにも言ったことだけど、先生、まさか写真のないおうちがあるとは思わなかったの。写真がなかったから、めぐりねさんは「じぶんノート」が作れなかったのね。これはおうちのじじょうですから、めぐりねさんは写真がなくてもいいことにします。めぐりねさんはしんぱいしなくていいから、書けるところだけを書いて、「じぶんノート」をていしゅつしてくださいね。



 六月十三日
 しんぱいだった社会の「じぶんノート」は、まるがついてもどってきました。クラスでわたしだけ写真がなかったし、ほかのみんなとちがってわたしのはさいしょの方がぜんぜん、うまっていなかったので、ほっとしました。


 六月二十五日
 今日、先生が急に家にやってきました。家庭ほうもんだって先生は言っていたけれど、あれはもっと前に終わったはずです。どうしてわたしだけ、二回も家庭ほうもんがあるんでしょうか。
 先生が帰ったあとで、ママはすごいいきおいでわたしをしかりました。わたしが先生にいらないことを言ったから、こんなことになったんだそうです。わたしはどんな悪いことをしてしまったんでしょうか。悪い子にだけはなりたくありません。悪い子はいらない子だからです。

 先生のこの日のコメント
 めぐりねさん、先生はちょっとかくにんしたいことがあっただけです。めぐりねさんはしんぱいしなくてもだいじょうぶ。いい子だということはちゃんと言っておいたんですが……きっとなにかいきちがいがあったのでしょう。


 七月一日
 とつぜん、新しい先生がやってきたので、びっくりしました。前の先生はやめたんだそうです。理由はわかりません。いっしんじょうのつごう、とだけ、新しい先生は言っていました。どういう意味なんでしょうか。よくわかりません。


 七月十五日
 今日からママは、ハクを連れて旅行に行ってしまいました。高原のすずしいひしょちとかいうばしょで、夏休みのほとんどをすごすんです。ママとハクは、いつもそうです。東京はあつくてやっていられないと、ママは旅行に行く前、そればかり言ってました。
 わたしはおるすばんです。今日もお勉強をしました。ハクがいないと勉強がはかどります。家庭きょうしの先生が「ルカおじょうさまはかんしんなおじょうさんだ」とほめてくれました。
 でも、パパにほめてもらうのが、一番うれしいです。


 八月二十五日
 今日、ママとハクが帰ってきました。おなかがだいぶ大きくなっていて、つらいとかだるいとか、そんなことばかり言っています。
 ハクのノートをちょっとのぞいてみたら、真っ白でした。お勉強はしてなかったみたいです。あとでハクのノートをかくにんしたパパはかんかんにおこって、ママをどなっていました。ハクはなきだすし、ママもどなるし、さいあくでした。ハクがきちんとお勉強しなかったのがいけないんだと思います。


 九月十日
 今日、パパとママがけんかをしていました。ママが病院にけんしんに行ったら、おなかの赤ちゃんが女の子だというのがわかったんだそうです。つまり、生まれるのは妹です。どっちでもいいんですけど。きっとハクといっしょでなき虫でしょうし。
 でもパパはそうじゃなかったみたいで「また女か」と言って、ママとけんかになりました。
 わたしはこわくなったので、パパに「女の子はきらい? わたしも女の子だから、パパはきらいだったりする?」ときいてみました。パパは「いいや。でも三人めは男がよかった」とこたえました。わたしがいらないとか、そういうことではないみたいなので、ほっとしました。


 十月十四日
 今日はお勉強をしていたら、めずらしくママがお勉強用のへやにやってきました。ハクは勉強をほうりだしてママのところに行こうとして、家庭きょうしの先生におこられていました。
 家庭きょうしの先生が「まったく集中のできないおじょうさまだ……すこしはルカおじょうさまを見ならったらどうですか」と言ったら、ママがすごいいきおいでおこりだしました。そしてわたしのことを「気もち悪い子、こんな子いらなかったのに。あの時しんでくれてたらよかったんだ」と言って、家庭きょうしの先生とけんかになっていました。わたしはくやしかったので、いつもよりたくさんお勉強しました。勉強したら、ほめてもらえるからです。
 にせもののママだから、こんなこと言うのかな……。本当のママがいる人がうらやましいです。


 十一月二十一日
 今日は、ハクのたんじょう日です。四才になりました。
 ママは出かけるのがたいへんだとかいって、お手つだいさんにケーキを買いに行ってもらっていました。ごちそうとケーキを食べて、プレゼントにお人形を買ってもらって、ハクはごきげんです。なかなかったからよかったことにします。


 十二月二十七日
 今日、ママに赤ちゃんが生まれました。わたしの新しい妹です。
 新しい妹はリンという名前になりました。病院のかんごふさんたちはそろって「かわいいおじょうさんですね」って言っていたので、わたしも「かわいい赤ちゃん」だと言っておきました。するとかんごふさんが「いいお姉ちゃんをもって、この赤ちゃんはしあわせね」と言いました。
 でも、赤ちゃんはかわいくないと思います。しわだらけで、うるさいです。


 十二月三十一日
 今日ママが、びょういんからリンをつれてもどってきました。でもつらいとかきついとか言って、ベッドでねています。ハクはママがもどってきたのに、かまってもらえなくてすねています。


 一月一日
 お正月です。ママはぐあいがよくないとか言って、今年はお客さんには顔を見せないそうです。
 わたしはパパといっしょに、お客さんのお出むかえをしました。きちんとあいさつをすると、おきゃくさんが「よくできたおじょうさんですね」とほめてくれました。パパもほめてくれたので、うれしいです。


 一月十八日
 今日も、パパとママはけんかをしていました。けんかはきらいです。うるさいし、パパとママがけんかをはじめると、いつもハクがなきわめくからです。リンもいっしょになってなきます。赤ちゃんはなくのが仕事だって、お手つだいさんたちは言うけれど、わたしとしてはしずかにしていてほしいです。うるさいとお勉強に集中できません。


 一月三十日
 今日は、わたしのたんじょう日です。七才になりました。
 ハッピーバースデー、ルカ。
 パパは今日も帰りがおそいです。


 二月三日
 今日、めずらしくパパが夕ごはんの時間に帰ってきました。そしてわたしにプレゼントをくれました。おそくなったけどたんじょう日のプレゼントだそうです。開けてみると、学習ずかんのセットがでてきました。
 なんでこれをくれたのかよくわからないけれど、プレゼントをもらえたことはうれしいです。


 二月七日
 今日も、パパとママはけんかをしていました。ハクとリンがなくのも、いつものことです。赤ちゃんのリンはしかたがないけど、ハクはなかないでほしい。どうしてあんなにハクはなき虫なんでしょうか。わたしはようちえんのころも、あんなになかなかったのに。ママがちがうとせいかくもちがうのかな。


 三月八日
 今日返ってきたテストも百点でした。パパに見せるとほめてくれました。パパにほめられるとうれしいです。ママには見せていません。ママは見せても「ふーん」としか言わないからです。
 ママはさいきん、何もしてないことが多いです。ハクが「あそんで」と言っても、ぼーっとしてます。リンはまだ赤ちゃんなので、ないているだけです。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ロミオとシンデレラ 外伝その十二【ルカの日記】前編

閲覧数:971

投稿日:2012/01/29 19:54:44

文字数:5,159文字

カテゴリ:小説

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