「……それじゃあ君は死んでもいいのか? 消えてもいいのか?
存在が誰にも確認できなくなったとしても……!?」
「だからいいの。私はもう誰かがいる世界にいたくないのよ。
解る? 誰からも救われない世界よ?
例え私をわかろうよする人間がいても、それは偽りの気持ちなの」
「……だから、私は神管。お前を捨てた」
気づくと僕と初音の目の前には人間が立っていた。
否、その風貌、胸の辺りまで伸びるクリーム色の髪は途中で束ねられていて、黒いドレスがそれを際立たせていた。
「……イア!! なぜここに!!」
僕はイアに向かって、殴りかかろうとした。
だが、
「弱い」
瞬間。僕の体は大きく外へ薙ぎ倒された。
――そして、別の世界へ、向かっていった。
「……神威に何をした!?」
「影神のこと? あんな弱いのが例え一瞬でも神だったのよねぇ……」
「……あなた、何を目的に」
「あなた、さっき『誰かがいる世界にはいたくない』って言ったわよね?」
初音は頷く。
「……じゃあ、聞くけどあなたは誰かを解ってるの?」
「解り合おうとした」
「……とした? それはただの逃げ道じゃなくて?」
「うるさい!! たかが秩序を棄てた神に言われる筋合いは、」
「ない」イアは初音の言いたいことを先に呟き、「とでも言いたいのかしら?」
だけどさ、イアは一言さらに呟いて。
「考えたことはないかしら?
“なんで宇宙は出来たのか”ってことを」
「……何を言ってるの?
宇宙なんて存在しないじゃない……。
地球を作ったのはメイコでそれが神管を作り上げたんじゃ……」
「そうだ。神と名付けたのも、秩序と名付けたのも神管。
神管を作ったのは地球の神であるメイコ。
ならば、
宇宙を作った神は……どこにいるんだ?」
イアはただ、笑うだけだった。
***
僕はよく解らない空間の中、何かが浮かんでくるのが解った。
保育園みたいなところで、女の子が二人、そして女の子が一人。粘土で四角い、まるでルービックキューブみたいなものを作っていた。それだけじゃ粘土が余ったのか、小さな鍵も作っていた。
そしてそれを作っていたのは――小さい僕だった。
「…これは、ボク?」
小さいボクは日が暮れつつあっても、それを作っていた。
それは鍵とルービックキューブで組となっていた。
それが白と黒にそれぞれ塗られていた。なんだか見たことのあるようなモノだった。
誰もいなくなった。
どうやら他の子供は親の大人に連れられて、帰ったようだった。
――小さいボクは何を想ったのだろう。
その2個を突然ぐちゃぐちゃに破壊していった。
その光景が遠のく中、きこえるのは帰宅を促すパンザマストだけだった。
***
「……まさか、」
「そうだ。私がサンリット・アール。試験問題の製作者だよ」
「……なんて事。すべてを司る、神をも司る神が秩序を望んで棄てた……?
どういうことなの?!」
初音はもう、訳が分からなかった。
「私が出した、問題の内容は覚えているな?」
「ええ」
初音は冷静を取り戻し、言った。
「1.地球プラネタリウムの証明。
2.神の概念について。
3.秩序の再生は可能か否か。
4.World orderと相反する“黒”があるのは何故か。
5.人はなぜモノを食べるのか?
6.人はなぜ、性を求めるのか?
7.人はなぜ、欲望を我を滅ぼしてまで求めるのか?
8.人はなぜ、メランコリーになるのか?
9.人はなぜ、怒るのか?
10.人はなぜ、驕るのか?
11.人はなぜ、嫉妬するのか?
12.この世界が“とある書き手によって書き起こされたひとつの作品”の世界であることの証明。
……だったわね。神への問いのくせに、“ヒト”にかんする問いばかり」
「そうだ。そして、そういうことならまだあなたは私がこの問いを出した理由が解ってないようね?」
「……解るわけないわ。これならまだヒトの方が……!!」
初音は自分を誇るように言ったが、徐々にそれに気づき始めた。
「そうだ。神に人が近づいてしまっているのさ。
もう彼らは神を必要としていないんだよ」
イアは歌うように、
「知っているか?
今や『神のスゴロク』が都市伝説扱いされて、世間へ出回っている。
このままでは本物を手に入れられかねない。
……つまり人は神に成り代わろうとしているんだ」
「それなら、バベルやノアのように人間を滅ぼせば……」
「ムーンリット。
お前なら解るだろう? もう、人間はそんなのでは滅ぼせない。
例え、人間に罰を、言語を散り散りにさせても、無駄なんだ。
人間は耐性をつけてしまうんだ。『神そのもの』に。
洪水だって無理だ。
もう人間は方舟に変わる『ヒコーキ』なるものを開発してる。
もう、神は必要ない存在なんだ。
だが、神管や神はわかろうとはしなかった。
解り合おうとはしなかった。
人は所詮神以下の下等生物だってことを神は独断で決めてた。
そして、私は『World Order』のアンチテーゼの役割に黒の箱庭を造り、ひとりの人間に渡した。
そうさ。メイコだよ。彼女もまた、人間から神へとなった影神なのさ。
彼女はちょうど物語のテーマに悩んでいた。
そこで彼女は『七つの大罪』をテーマに話を書き始める。
そこにうまく私の思いも稼働して……ってわけだ。
私は思ったよ。彼女になら安心して総てを任せられる、とね。
そこに出来たのが……ムーンリット・アート。君の作り上げた世界だ。
全ては人類のためだった。
もう神はいらないのさ。
だが、それを解り合おうとはしなかった。
気持ちを共有しようとは思わなかった。
“キモチワルイ”とも思ってしまった。
人間を必要としない神が現れた。
それではツマラナイと神のスゴロクで人間を遊ぶようになった。
……あとはムーンリット。君のが詳しいはずだ」
――
予告
――
がくぽは一人別の世界へと飛ばされる。
そこにはカイトがいた。
彼から語られる真実とは?
次回 『邂逅』
【リレー】僕と彼女の不思議な世界 05 序
調子に乗った。
最終話第一章。
第二章本日公開。
第三章以降は15日くらいにでも。
ボリューム&伏線回収やばい。
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