私は静かに街灯で照らされた夜道を歩く。
小さなその住宅街の裏通りはひっそりと静まりかえっていた。
八月三十一日。
それは人間の言う誕生日というもの。
誕生日になると人間はパーティをやり、ケーキにロウソクをつけ、誕生日を祝う。
母のお腹から生まれたことを感謝し、祝う。
そういう日である。
誕生日にはその人の家族だけでなく、友人なども集まって大きな祝いを上げる。
私もマスターの誕生日パーティに出たことがあるから分かる。
家に今までに見たことがないほど人が集まった。
15人、ううん、20人は集まっていた。
本人にとって誕生日は楽しいものらしい。
マスターはすごくうれしそうで、元気よく19本のロウソクを吹き消していた。
でも
私にそれは必要なの?
分からない
誕生日は生まれたのを祝う日。
確かに私は8月31日に作られたから誕生日はその日になっているけど。
でも、私はボーカロイド。
そう、私はアンドロイド。
別に誕生日を迎えたところで16歳は17歳にはならない。
それに実際は作られてから一年も経ってない。
だから本当の年齢は生後11カ月と言ったほうが正しいのかもしれない。
でも、どちらにしても何年過ぎても私の見た目は変わらない。
じゃあ
私にそれは必要なの?
分からない
私はただの歌うロボット・ボーカロイド。
それ以外の何物でもない。
どんなに望んでも人間になんてなれはしない。
見た目も感情も生活も同じなのに、それは近くて遠い存在。
なぜか私は悲しくなってきた。
その理由もわからない。
私は人間として生まれたかったの?
そうなのかもしれない。
0時過ぎ。
8月31日になってからまだ一時間も経っていない頃。
私は家に着いた。
いつものようにドアを開ける。
でもそこは。
「えっ?」
驚きの声を上げる。
そこはいつもの家とは全く違うほどに華やかに飾りつけられていた。
「お帰り」
そう言って出迎えてくれたのはマスター。
中に入ると懐かしい二人が立っていた。
正確には二体なのかもしれない。
「「ミク、お誕生日おめでとう!」」
二人が声をそろえて言った。
「メイコさん! カイトさん! どうしてここに?」
「それはきっとメイコとカイトがミクの誕生日を祝いたかったからだよ」
そう優しく微笑みながらマスターは言ったが、直後、メイコに否定される。
「まあ、それもあるけど、本当はミクのマスターが頼んだからね」
「え? 何言ってんだよ? 俺は何もしてないぞ!」
慌てだすマスター。
「フフッ」
笑った私は、テーブルの上のケーキに気づく。
緑色のケーキ。
若干、生クリームの形がいびつなケーキ。
「これは?」
「ミク、ネギが好きだから緑色のケーキ。でも、売ってないから……」
私の質問にマスターが答える。
「マスターが?」
「まあ…………」
そう言ってマスターは照れたように頭をかく。
「ロウソク、数えてみ」
「いち、にい、さん……………………じゅうなな?」
ケーキの真ん中に白いロウソクが一本立っていて、それを囲むように16本の緑のロウソクが円を描いていた。
「どうして17本?」
私は首を傾げる。
そう、絶対に17歳にはなれない。
どんなに望んでも。
そうマスターは優しく答えた。
「16本の緑のロウソクはミクの年齢、16歳を表わしてる。そして、白の1本は俺とミクが出会って記念すべき1年を表わしてる」
私は驚きで声を無くす。
「はい」
そう言ってマスターは綺麗に包装された大きな長い箱を取り出した。
開けてみると中には大きなネギの抱き枕があった。
「お誕生日おめでとう、ミク」
「マスター…………」
私は唖然として、立ち尽くした。
「え!? ミク!?」
突然、マスターが驚いたように言った。
「え?」
私はマスターが何に驚いているのか分からなかった。
マスターは私の目元を指差す。
触ってみると、そこは濡れていた。
「……涙?」
「どうした!?」
「だって……嬉しすぎるんだもの」
そう言ってマスターに抱きつく。
「わぁ!? ちょっ、ミク!? メイコとカイトも見てるから……」
慌て赤面するマスター。
そしてそれを横で一言も話さずに見守るメイコとカイト。
私はこの人がマスターで本当によかったと思う。
そして、私は初めて自分がボーカロイドでよかったと思った。
だって、メイコやカイトと出会うことができた。
そして、こんなにいいマスターと出会えたんだから。
ミク誕生日おめでとう! 2009/8/31
ミクさん、お誕生日おめでとうございます!
ヘルフィヨトルです
今回はミクの誕生日祝いに小説をひとつ書きました。
ミクさん、本当にお誕生日おめでとうございます!
ちなみに、気づいていると思いますが、リンとレンが登場してません。
それはこの小説ではミクはまだ作られてから一年も経っていないということなので、まだリンとレンが作られていない設定です。
それと私の書くボーカロイドでは、同じボーカロイドは存在しません。
つまり、初音ミクはどこか一つの家にしかいないんです^^
どうでもいいことをすみませんでしたw
初音ミクにワルキューレが微笑むことを
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*
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ご意見・ご感想
ヘルケロ
ご意見・ご感想
>初樹さん
はじめまして^^
おほめの言葉ありがとうございます
発想すごいですか?
むしろこういうちょっと事件っぽいような発想しかできないんです><
ファンタジー派なので純粋ほのぼのがなかなか書けない^^;
最近仕事で忙しいですが、頑張りたいと思います
2009/09/03 18:49:07
のも (旧・初樹)
ご意見・ご感想
こんにちは!
ミクの誕生日過ぎてしまいましたけど、読ませていただきました!
前半の所でもう素晴らしい作品だ!って思ってたのに
マスターとミクのやり取りを見てホントに感動しました!
発想がすごいです!!!
ホントに素晴らしい小説、ありがとうございました!
次の作品も期待していますw
2009/09/03 18:32:41
ヘルケロ
ご意見・ご感想
>奏羽さん
ネギの抱き枕、いいですよ
丸いので抱きやすそうですw
>Ωさん
べた褒め、ありがとうございますw
なぜか事件ぽくというか悲しみがないと気に入らない私^^;
何ででしょうね><
2009/08/31 21:48:51
多夢 Ω
ご意見・ご感想
こんばんは。
めっちゃいいです!
どんな風にいいかというと・・・
とにかくいいです!!
前半はちょっと意外な一面ですけど、でも!
後半を見るとそんなことは!
めっちゃ良かったです!
2009/08/31 21:40:48