その港町にある砂浜には、よくガラスの小瓶が流れ着いて来る。
栓のされたその小瓶の中には、必ず羊皮紙が入っていた。そこに書かれているのは、誰かに向けて書かれたメッセージではない。
《いつまでも幸せでいられますように》
《おじいちゃんの病気が治りますように》
そんな、誰に宛ててでもない、願いを書いたメッセージだった。
遠くの田舎町には、願い事を書いた羊皮紙を小瓶に入れて海に流せば、その思いが実る、という言い伝えがあるらしい。その流された小瓶が、潮の流れの関係でこの砂浜にうちあげられるようだった。
「あー……、今日は王がここに訪れるんだから、全部回収しないといけないんだよな…。チッ、メンドクセェ」
もう、革命が起きてから何年の月日が経つだろうか。悪ノ娘と呼ばれた、あの王女の国の領土から、今の王の国の領土となってから、かなり経つ。
その頃王子だった青い彼は王様になり、群衆を先導していた赤い剣士は、今は王様の隣で彼を支えている。
そんな偉い人物が、なんでまたこの場所に訪れるのかは分らない。
そういえば革命のきっかけになった緑の姫と、その頃はまだ王子だった王が1度来ていたか。
彼らがこの場所に来るのは、午後1時。そして現在は12時だ。
何故ギリギリまで片づけをしなかったかと言われれば、『面倒臭かった』と答えるほかない。
もともと極度のめんどくさがりなんだ。俺は。
だから普段から、これを掃除するなんてことはしない。
たまりにたまった小瓶を適当にざっくざっくとかき集める。かき集めては用意した箱にどかどかと放り込む。その度に、ガラスがぶつかる高い音が鳴った。
 
「ちょっと、早めに着いちゃいそうだね」
王様とその王妃、そして召使兼騎士の紫色の髪をした侍という3人が、馬車に乗って砂浜へと向かう。
思ったより早く済んでしまった昼食のおかげで、予定よりも早い到着になりそうだった。
「待たせるよりマシだと思うけど。それに30分ぐらいでわぁわぁ言う奴は終わってんのよ」
「めーちゃん言いすぎ…」
馬車の中で、王妃と王様の会話だった。たまに面白い発言があったりして、その度に召使兼騎士の侍は必死で笑いをこらえていた。
砂浜の方からでも、王様たちが乗った馬車が来るのを確認できるほどの距離に来た。
勿論、見えるのは砂浜の方からだけでなく、馬車の方からも、砂浜の様子を確認できるのだが。
そこでゆっくり過ごしたいと言っているので、必要以上の人はいない。
波打ち際で、何やら作業をしている人物がいる。
「あれ? あそこにいるのは遊びに来た、っていう訳じゃないよね?」
「そうねー。1人で来るってのはちょっと悲しすぎるわ」
あまりに不思議そうな顔をしていたので、思わず侍は助け船を出していた。
「浜の掃除をしているのではござらぬか? 確か、ここの浜にはよく小瓶が流れて来ると聞いておるが。なんでも、どこか遠くの港町では、願いを書いた羊皮紙を小瓶に入れて海に流せば、その願いが叶うそうででござるよ」
それを聞いて王妃が「よく知ってるわね」と関心したように言う。
王妃は、ちゃんと聞いてくれているのに、
「そーなのかー」
王様が聞いているのか聞いていないのかよく分らない返事を返す。
「…………」
侍は無言で怒りを抑える。
と、そこで馬車が止まった。
どうやら着いたらしい。
 
馬の蹄の音が聞こえて、その音が止んだのを耳で感じた。
だが、男の手は止まらない。というか、より一層せわしなく手を動かして、小瓶を箱に放り込む。ガラスがぶつかり合う音も幾分か大きい。
「ちょっと早めに来てしまったけど、問題ないかな?」
いつの間にか、王様たちが男の近くまで来ていた。小瓶を拾っては箱に入れていく様子を見ながら、気軽に話しかける。
「あ…。すいません。まだ全部拾えてなくて」
端から拾い始めて、すすんだ距離はまだ半分にも満たない。全部を箱に入れ終わるまでいったいどれだけかかるだろうか。
「気にしないで。それより、この小瓶って全部誰かの願い事なのよね?」
王妃がさも気にしていないように振る舞った後、馬車の中で気になったことを聞く。
「はい。遠くの港町の言い伝えに小瓶を海に流せばその願いが叶うのだとか」
「ロマンチックだね」
説明を聞いて、思ったことをそのまま言う王様。その後ろに付いている侍が拳を握りしめているのに気づいてはいない。
「もし、その願い事が、僕の力で叶えられるものだったら、叶えてあげたいな…」
そう言って、適当に小瓶を1つ手に取る。
「ありゃ。水が入ってる。ロウソクのロウがあんまり染み込んで無かったみたいだね」
その小瓶には、閉めが甘かったらしく海水が入っている。小さく折りたたまれた用紙も、結構濡れているようで濡れた部分が変色している。
栓を抜いて、中の紙を取り出す。湿った紙が破れないように取り出す。
 
《もしも生まれ変われるならば
                   》
 
文字がにじんで、それだけしか読めなかった。肝心の部分が読み取れない。
3人がそのメッセージの内容をじっと見つめる。小瓶を拾っていた男も、そのメッセージを眺めていた。
ただ、なんとなくどこかで見た事がある字に王様が首をかしげる。王様だけでなく、王妃も同じようだった。
「これは……」
必死に、誰の字かを思い出そうとするがどうしても出てこない。
しばらく考えていたが、それをパッと折りたたみ、少し悲しげな顔をして言う。
「どうやら、このメッセージに書いてある願い事を、僕は叶えられないみたいだ……。でも、いつかこれを書いた人に会って、実際に叶えてあげたいね。そう思わない? めーちゃん」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

リグレットメッセージ の。後日談?

まずは長くてごめんなさい。
 
この小説はmothyさんの「リグレットメッセージ」の後日談という設定です。
同じmothyさんの曲である「悪ノシリーズ」の2曲もちょっと混じっているのでご注意ください。
ちなみに、青い王様と赤い王妃と紫の召使兼騎士が登場します。
 
あと、ヤリタイホーダイというブログでも同作品を公開しています。2つに分けてますが。
リクがあれば、悪ノシリーズとリグレットメッセージの当日談(?)も書いてみようかと思います。
  sarukichi

閲覧数:767

投稿日:2009/03/03 13:56:32

文字数:2,334文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

  • 関連動画0

  • へいがに:Lv10

    コメントありがとうございますw
     
    誤字があったんですね。気付かずだしててごめんなさい。
    ミスのあった場所はきちんと直しておきました。

    2009/03/03 13:55:30

  • Hituzi123

    Hituzi123

    ご意見・ご感想

    読ませていただきました

    一部、髪だと思うところが紙になっていたのですが・・・
    「王様とその王妃、そして召使兼騎士の紫色の紙をした侍という3人が、馬車に乗って砂浜へと向かう。」
    この場所ですー

    2009/03/01 18:15:02

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