緑の森の奥深く
青い泉のほとりに
旅人が落としていった種

それがあたしだった

いつも誰か傍にいてくれていた気がするのに
この手を握っていてくれていた気がするのに
あたしはひとりぼっちだ

太陽は言った
「私達がいるじゃない」
泉は言った
「僕もいるよ」
森は言った
「私も傍にいるよ」

あたしは笑った
「そうだね。ひとりぼっちじゃないね」

だけど、いつもなにか足りない気がしていた

森と歌うのが好きだった
緑の長い髪を揺らして
森が風にさえずると

木々の隙間から
真っ赤な太陽が温かく私達を照らす

のどが渇いたら
青い泉に行ってたっぷりのどを潤して

そんな毎日が、寂しいわけじゃないけれど
どうしてかな
なにか忘れているような
そんな気がしたんだ

あたしの黄色い髪が
すこしづつ色を無くしていくのと同時に
あたしは歌えなくなった

森が心配して
太陽と泉に相談をしてくれた

森は目に涙を浮かべてつぶやいた
「あの子は異国から来た子。この土地では根付けないのかもしれない」

泉は冷えて固まった己のかけらを口にしながらうなだれた
「ここはあの子には寒すぎるのかもしれない。」

太陽だけが知っていた
「あの子の行くべき場所は、ちゃんと用意されているのよ」


日に日に元気がなくなるあたしを
森が誘い出してくれて
あたしはいつもするみたいに泉をのぞき込んだ

そこにはやっぱりいつものようにあたししかいなくて
あたしはただ口の端をあげて、笑おうとした

「楽しくないなら、笑わなくて良いんだよ」
どこかから声がした
「誰?」
振り向いても森しかいない
泉が笑いかけた
「僕の中にいるよ」

そこに映るのはあたしに似たあたしじゃない誰かだった

「やっとみつけた」
その子は言った
「・・・やっと?」
あたしにそっくりだけど
どこか違う
うまくいえないけれど

「僕は、君だよ。」
彼はそう言って笑った
「あたし?」
「そう。君」

それは太陽と泉がくれた魔法
太陽が空にいてくれる間だけの素敵な魔法

あたしは毎日彼に会いに行った
夢中で彼の話を聞き
夢中であたしの話をした

夜になったら森に彼と話したことを教えた
色を無くした日々が
急速に色づき始めた気がした

彼はあたしの知らない遠い国にいるらしい
そこは島国で海という大きな泉に囲まれていて
綺麗な桃色髪の姫が統治する土地だそうだ
あたしと同じ黄色い髪
彼の国にはあたしみたいな黄色い子がたくさんいるのだと言う
でもある時期に一斉に皆旅だっていくのだという
あたしもそうして旅だって、たどり着いた場所がここだったのかもしれない
あたしはいつしか彼の国に行ってみたいと思うようになった

と、同時に季節はすすみ
あたしの髪の色がどんどん色をなくして
あたしはとうとう声を失った
泉にうつる彼は心配そうにみつめるけれど
あたしはそんな彼を見つめ返せなくて
泉にさえ行かない日が続いた

太陽は力なく声をかける
「ごめんね。私の力も、そろそろ及ばない」
泉は震えながら声をかける
「ごめんよ。僕の力でも、もうどうにもできない」
森は最後まで傍にいてくれた
「あなたを、守れたらいいのに」

声を無くしたあたしは
みんなに精一杯笑って見せた

ア・リ・ガ・ト・ウ


白くなったあたしの髪を
そのとき風がすくいあげた
ふっと身体が軽くなった気がして
そのままあたしは空に舞い上がった

森が遙か彼方で手を振る
泉が遙か彼方で手を振る
太陽だけが、やさしく私をつつんで
「彼のところへ連れて行ってあげる」
そういって風に目配せをした
「OK、マカセテ」
風はそういうと

あたしをどんどん運んでいって
大きな泉を越えていった
ああ
これが彼が言っていた「海」だ
海はやさしく風を後押しして
ぐんぐんもといた場所から遠ざかっていった

潮風にぼんやり身を任せていると

いつしかある丘にたどり着いた

懐かしい匂いがする
ふわりと降り立ったのは
淡い桃色髪の上だった

「ルカ殿、なにか着いているぞよ」
桃色髪の姫がふりかえる
「・・・・あら。」
「・・・・綿毛でござるな。」

(・・・綿毛?)
あたしは見知らぬ国の人にそっとつままれた

「丘の下から来たのかしら。返してあげましょう」

(・・・丘の下?)

温かい手のひらにつつまれて
しばらくうとうといていると
聞き慣れた声がした


「・・・・お帰り」
それは彼の声だった

「ほら、綺麗に咲くのよ?」
そういって放たれた丘の下は



    一面のタンポポ畑


「また、逢えたね」

あたしに似た彼があたしを抱きしめてくれた
彼の髪も白くふわふわになっていた
「僕もじきに風に乗るよ」

(じゃぁ、また離れてしまうの?)
あたしは不安になって彼にしがみついた

「君は僕で、僕は君なんだ。」
「わかるかい?僕等はずっと一緒だったんだよ」

(これまでも  これからも)


ああ
あたしなんで忘れていたんだろう
あたしたちは同じモノだった

彼が風に乗って空へ舞う
あたしも風に乗って彼を追う

丘の下
くるくるとふたりで舞い続けた

そんな二人を
太陽が目を細めて見守ってくれていた


これは遠い遠い国の
おとぎ話

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

イロトリドリノセカイ

太陽はめーちゃん
泉の精はKAITO
森の精はミク
風はLEON
異国の姫はルカ
従者はがくぽ
そしてたんぽぽはリンとレンです。

もうね、途中でたんぽぽってわかっちゃうかもだけど
二人でひとつの
「たんぽぽの精」だったんだけど
旅人→ルカ姫のわがままで捜し物をしにきたがくぽが
リンを異国に落としていった、みたいな。

そんな妄想。







あっ!アンがいない!!


ってことで
母なる海がアン。


す。すみません。

閲覧数:568

投稿日:2009/03/08 20:38:24

文字数:2,175文字

カテゴリ:小説

ブクマつながり

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