狂ってる…。
みんな正気を失ってしまうの?
ミクちゃんみたいに、リンちゃんみたいに。
カイトさんも、メイコ姉さんも、みんな…。
……帯人も、灰猫さんも…?

…嫌。そんなの、


赤い道を進むと、真っ暗な森の中に牢獄を見つけた。
その牢獄には見慣れた背中があった。
メイコ姉さんだ。
「身体年齢十六歳にされた」って訳のわからない電話をしてきたけど、
それは本当だったらしい。
確かにボディは新品になっていた。
赤いドレスに身を包んだ彼女は、うつむいたまま動かない。
牢獄に駆け寄り、雪子は大声で叫ぶ。

「メイコ姉さん! ねえ、答えて!」

もし…狂っていたら、どうしよう。

「メイコ姉さん!」

ぴくっと彼女の肩が震える。
雪子は息を飲む。
ゆっくりと振り返る彼女。

「うぃー」

………は?

「な、な、な、なにやってんの!」

「うぃー、ひっく。あれぇ? 雪子じゃんー♪」

でろでろ状態のメイコは、雪子に駆け寄る。
鉄格子にうなだれて、へらへら笑うメイコ。
その手には一升瓶が握られている。

「おやおや、これはまた…くく」と笑う灰猫。

なんでこんなに酔っているの?
というか、この状況でどうやったらこうなるの!

「今、どうにかして出してあげるから!」

雪子は必死に鉄格子を引っ張る。しかしびくともしない。
メイコが笑う。

「あー、そうね。やっぱり邪魔だよねぇ。今、取るわ、これ」

「……へ?」

ぐにゃり。

メイコによって飴細工のように簡単にねじ曲げられる鉄格子。
そういえば、昔カイトさんに教えてもらったことがある。
メイコ姉さんは酔うと鉄腕●号級の怪力を使えるんだった…。

「…って、なんで最初から脱出しないのよっ!」

「ふぇー、だって、暇じゃない♪ ここ以外に行くとこもないんだし、
 バカイトだってどこかに行っちゃったしー」

へらへら笑いながら牢獄から出てくるメイコ。

「そういえば、カイトさんは!?」

「ひっく。えー、わかんないわよ。あー、そうね。…歌ってたかなぁ」

「…うた?」

歌うアリス。…きっとダイヤのアリスだ。
この世界が人柱アリスの歌詞通りになるなら、ダイヤのアリスは―


    「くるったおとこに撃ち殺される」


ひどく冷たくて、淡泊な声だった。
その声の主は、帯人だった。
いつの間にか牢獄の中に入り、床に落ちていた剣を拾っていた。

―なぜ、だろう。
 違和感が。
 …でも、どうして?

こちらに気づいた帯人が問う。

「…助けるの?」

「そりゃそうよ。助けるためにここにいるんだもの」

「そう…」

その声は重く沈んでいた。
一瞬だけ、帯人の表情が曇った気がする。
勘違いかな?

灰猫が雪子に言う。

「そろそろ行きましょう。メイコさんも、夢から覚めるようですし」

「え?」

メイコ姉さんを見る。
ふんわりとした光の粒子が、彼女を包み込む。
にんまりと笑いながら、メイコは跡形もなく消えてしまった。
これが覚めるということらしい。

これで、メイコ姉さんは助かった。
次はカイトさんだ。

雪子は牢獄を後にしようとした。
そのとき、ふと視線を感じた。
誰の視線だろう。
振り返り周囲を見回すけれど、灰猫と帯人以外見あたらない。
真っ暗な木々の隙間から感じた視線。
すごく不気味だった。

なんていうんだろう。
怖いとか、びっくりするとか、そういうものじゃない。
あえて言うならば「危険」そのもの。
全身の細胞が危険信号を発する。そんなレベルだった。

雪子は足早にその場を去った。
今はカイトさんのことだけを考えよう。
絶対に助けてみせるから。





     「………………どうして……」




■■は小さく舌打ちした。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第10話「嫌な予感」

【登場人物】
増田雪子
 帯人のマスター
 《黄色いハートのアリス》

帯人
 雪子のボーカロイド

灰猫
 「僕は灰猫」に登場する灰猫さん
 この世界を案内してくれる人

クレイヂィ・クラウン
 青いほうが、クラウン
 赤いほうが、ピエロ
 楽しいことが大好きな道化師

初音ミク
 現実世界では意識不明の状態
 この世界に巻き込まれて、狂気に落ちてしまった子
 ひとりぼっちのお城の中で暮らしている
 《緑のクローバーのアリス》

咲音メイコ
 酔うと超人になる。
 その拳に耐えられるカイトも超人的。
 《赤いスペードのアリス》

始音カイト
 今、狙われている。
 《青いダイヤのアリス》

鏡音リン
 現実世界では意識不明
 この世界に一番最初に迷い込み、世界を作り上げていった
 自分自身も狂気に落ちてしまい人に襲いかかる

鏡音レン
 意識不明のリンの看病をしている
 発狂した彼女をひとりぼっちにさせないように、
 いつも付き添っている
 発狂したリンは決してレンを殺そうとはしない

【コメント】
遅くなりやした。ごめんなさい。

閲覧数:1,178

投稿日:2009/03/01 20:17:12

文字数:1,558文字

カテゴリ:小説

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