光の中に包まれて数秒後、私たちは地面に足をつけた。
まるで霧が晴れていくように、まぶしい光は消えていく。
やっとしっかりとした視覚を取り戻したとき、私はハッとした。

「学校だ」

そこは、クリプト学園だった。
窓の外には満月が顔を出している。
どうやら夜のようだ。
電気が一つもついていない学校は、月明かりに照らされて不気味だった。
帯人は窓から状況を確認する。
雪子もそれに続こうとしたが、帯人に制止された。

「駄目…」

「なんで?」

その様子を見て、灰猫が微笑する。

「いずれ解るものならば、早いうちのほうがいいでしょう。
 帯人君、やめなさい」

帯人は苦い顔をして、その手を下ろした。
雪子は恐る恐る窓の外を見た。

「ッ!?」

その瞬間、私は声にならない悲鳴をあげた。
そこにあったのは、砂埃をあげるグランドではない。
私の知っている校庭ではなかった。

「これが、とある少女の庭です」

三人の目線の先にあったもの。
それは無数の人間の手が生えたグランドだった。
まるで花でも咲いているかのように、
一つ一つが腐ることなく天に手を伸ばしている。
それをその少女は「花」だと思っているらしい。
とある少女の花壇は、あまりにも不気味で歪(いびつ)だった。

「あれが犠牲者たちの成れの果て」

あの中に、もしかしたらメイコ姉さんも、カイトさんも…。

灰猫はトントンっと靴を鳴らして、帽子の縁をつまんだ。

「それでは、第一曲目。第一回の悲劇を始めましょう」

嬉しそうに「にゃあ」と灰猫は鳴いた。

私たちは状況を確認した。
ここはクリプト学園の三階で、とにかく建物のなかを探索してみようと
いうことになった。
もしかしたら、誰か生存者がいるかもしれない。
あと、この世界から脱出する方法を調べなければならないからだ。
とにかく私たちは、三階の教室を回ることにした。

扉を開けても、いつもの風景があるだけだった。
中に入っていろいろと探ってみるけれど、机と椅子に黒板があるだけだ。
変わったところはなにもない。

「変わったところは…?」

「ないっ。いつもの学校そのまんま。
 変なところといえば電気がつかないところくらいかな」

ため息をこぼしながら、次々と教室を回った。
それにしても、視界が悪い。
窓から差し込む月明かりだけじゃあ、廊下の突き当たりまでは見えない。
ぼんやりとした暗闇がいっそう不安を煽った。

灰猫が問う。

「雪子さんはこの学校の生徒なんですね?」

「はい。そうですが」

「この学校の構造を教えてくれませんか?」

「曖昧ですけど…、一応やってみます。
 この学校には廊下の両端に階段があります。
 そして真ん中にエレベータが一つ。
 あとは同じような形の教室が永遠と続きます」

「……なら、階段に行ってみよう。
 教室を一つ一つ探しても埒があかない…」

私たちは帯人の提案に賛成した。

真っ暗な廊下を一歩一歩進んでいく。
気味の悪い光がぼんやりと廊下を照らしていた。

灰猫が突然足を止める。

「…来たようだ」

耳がピクッと動く。
「いったいなにが?」と言う前に、私もその音に気がついた。
靴の音がコツコツコツ。
単調なリズムで、だんだん、近く…。
私の前に帯人が一歩出る。

ようやく顔が見える距離になると突然、帯人がアイスピックを取り出した。

「ひとぉつ、ふたぁつ、
 みぃっつ、よぉっつ、
 いつぅつ、むぅっつ、
 ななぁつ、とぉ」

その人影は少女だった。
その唄に合わせて、少女は自分の指を一本一本開いていく。
だんだん月明かりに照らされて、輪郭が見えてくる。
…色彩もはっきりと、

「きゃああッ!!!」

その色は赤一色だった。
右手に握られた包丁から血がしたたり落ちて、廊下に赤い斑点をつけていく。
きれいな模様でしょ、とでも言いたいのか。
彼女は手をパッと広げて笑う。

「お花の完成ぃー」

彼女の手は血で真っ赤に咲いていた。
灰猫は言う。

「紹介しましょう。
 彼女が我らが国の創造主であり、最愛の人であり、最初の犠牲者。
 「鏡音リン」様です」

鏡音リン。
私は彼女を知らないわけじゃない。後輩なんだ。
でも、目の前に立っている彼女は、私の知っている彼女じゃない。
正気じゃない。

「…リンちゃん。私のこと、覚えてる?」

「あー! 雪子先輩だぁ♪ お久しぶりですね!!一年ぶりですよねー」

笑顔は昔と変わらないのに、声は違和感を覚えるほど変わっている。

「今日はびっくりするほど、懐かしい人と会っちゃうんですよー」

「なつかしいひと?」

「そうですよー」

リンはそういって、自分の歩いてきた廊下を指さした。
ちょうどそのとき闇に包まれていた廊下が、雲から顔を出した月によって
はっきりと照らされる。
そこには浮き出るような赤と、
黄色いポニーテール。そして真っ白な長髪。

「さっきね、ハク先輩とネル先輩と、いっしょに生け花してたんです」

彼女はそう、自慢げに言った。
満面の笑みだった。

「ね? きれいでしょ?」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第04話「とある少女の庭」

【登場人物】
増田雪子
 帯人のマスター
帯人
 雪子のボーカロイド
灰猫
 雪子と帯人を招待した謎のスーツの男
 「鏡音リン」を愛している
鏡音リン
 この世界を作り上げた最初の犠牲者
 彼女自身、夢に飲み込まれそうになっている
 今の彼女は正気を失っている

【唄紹介】
灰猫くんは、「僕は灰猫」に登場する猫さんです。
この夢の世界は、「恐怖ガーデン」をベースに書いています。
どれもイイ曲なので、ぜひ視聴してみてください。
ちなみに「恐怖ガーデン」はけっこうグロいので注意です。

【コメント】
グロいです。グロいです。気分が悪くなったらごめんなさい。
次もこんな感じで進んでいくつもりです。
苦手な方、本当にごめんなさい。

果たして、灰猫の目的とは!?
     雪子と帯人の運命は!?
そんなノリで次も書いていこう^^

閲覧数:1,212

投稿日:2009/01/24 21:15:58

文字数:2,115文字

カテゴリ:小説

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  • アイクル

    アイクル

    ご意見・ご感想

    はい♪
    ご期待に応えれるように、がんばります!!
    駄文でよければ、これからもおつきあいくださいvv(≧ワ≦

    2009/01/25 15:20:50

  • まにょ

    まにょ

    ご意見・ご感想

    ぅあーぅああああ(p>□<q*))
    な、な、なんでしょうか。。私も夢の中に引きずり込まれたょぅな…。
    すごぃですね。。何か怖いようなものを感じます。。でもすごく面白い!!
    これからも人を引き付けるような展開をお願いします!
    がんばってください(゜∀゜)

    2009/01/24 21:51:26

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