一話
部屋の角には蜘蛛の巣。光はなく、薄暗い。狭く、あるのは酷く汚れた光を運ぶことない窓だけだ。そして極め付けには埃だらけ。どこをどう見ても、生活感がないこの部屋に、人が住むような場所ではないこの部屋に、僕らは確かに、住んでいる。
掃除跡のない床に、埃で覆われていないところが点々と。それは足跡であったり、人型であったりする。大きな人間の痕跡ではなかった。僕らの動いた証拠だ。僕らが生きている、少ない手がかりとなる。
隣でリンが寝息をたてている。
──僕とそっくりの顔。金髪に青がかった目。顔の形。服装こそ違っても、殆ど同じ。これは、双子だからに他ならなくて、僕らをこんなところに追いやった原因でもあって、それでも僕はこの事実に満足している。何故だろう、恨むなんてもっての他だと、心の底から感じるんだ。こんな事になっているとしても、二人で助け合って行こうって、思えるんだ。誰かが言うかもしれない。それは可笑しい、変だって。そしたら僕らは言うだろう。これが僕らなんだ、って。
そっとリンの髪を撫でる。起き上がってても、主人の起床時間にならない限り、この部屋に光が差すことはないんだけど。それでも、起きていないといけない理由がある。それはその内、誰にでも分かることだろう。
此処に着てから、時間の感覚が驚くほど正確になった。秒までは分からないけれど、今では何分位まで当てることが出来る。きっと今は六時四十七分のはずだ。……間違っていないと良いんだけれど。
「リン。起きて。──朝だよ」
小さめの声で言っても、リンはゆっくりと目を開ける。これも此処で過ごすようになってから身に付いたものの一つだった。大きな声を出すと怒られるから。絶対にそんなことはあってはいけない。
「おはよう、レン」「おはよう、リン」
薄く笑って挨拶をしてくるリンに、そのまま返事をする。リンも直ぐに立ち上がって、無言でお互いの目を見た。
「「今日も頑張ろうね」」
いつもの最悪な一日が、始まろうとしていた。
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*
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